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世界と日本のボーダー文化

The Border Culture of the World and Japan

シネマブック

2008年01月06日 | 小説
シネマブック(現代アメリカ文学編)

コーマック・マッカーシー『血と暴力の国』(扶桑社ミステリー)
トルーマン・カポーティ『冷血』(新潮文庫)

『血と暴力の国』は、米墨国境地帯を舞台にしたポストモダン小説。テーマは「暴力」だが、アメリカの建国さえもキリスト教徒による先住民への「暴力」の発露と見なす発想につながる。小説の構成はとても凝っていて、ポストモダンのフラグメンタルな語りと複数の視点人物から見られた謎の多い世界像を提示。いわば「薮の中」方式だ。これをコーエン兄弟の映画『ノー・カントリー』がどのように処理するのか、興味深い。

 一方、『冷血』は、カンザスの片田舎での一家惨殺事件というスキャンダラスな題材を扱い、読者の覗き見趣味に訴える。作家自身が<ノンフィクション・ノベル>と呼んだ形式をとり、作家自身の主観もまじて、殺人事件を描いた点が斬新だった。J・ミラー監督の映画『カポーティ』は、『冷血』の取材と執筆にあたる作家の分裂症ぶりを巧みに映像化している。

(『エスクァイア』2008年2月号)
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