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加地尚武の佐倉新町電気街

「福音の少年 Good News Boy」シリーズ(徳間書店 徳間デュアル文庫)著者による電脳生活と意見。

【読書】読書初めはヒトラーの本。「ヒトラーの死を見とどけた男」

2007年01月07日 10時53分48秒 | 本のこと。
あけましておめでとうございますなんてレベルじゃねーぞ、と。

もう2007年も残すところ350何日、みなさまいかがおすごしでしょうか。
年末年始いろいろあったけど、ようやく落ち着いたので本屋にいろいろ本を買いに行った。

その中の一冊。

ヒトラーの死を見とどけた男―地下壕最後の生き残りの証言

草思社

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筆者(というか語り手)ローフス・ミッシュは、1945年5月2日、つまりベルリン陥落の最後の最後、それこそソ連兵が総統官邸になだれ込むまで、ドイツを瓦礫の山にした独裁者と、わずか数日の後継者であるゲッベルスの警備兵としてつかえた人物である。

ミッシュは幼い頃に両親を亡くし、祖父母に育てられた。ペンキ職人としての修行を積むが、20歳のときに徴兵センターで親衛隊(SS)への入隊を希望した。
SSが中心となって行ったポーランド侵攻の際、背後からポーランド兵に撃たれ負傷。1940年、推薦されて総統護衛部隊に配属になり、ベルリン崩壊までの5年間、アドルフ・ヒトラーの側で護衛の任務についた。
まさにヒトラー最期の瞬間、総督地下壕で運命を共にした人物である。

昨年観た「ヒトラー 最期の12日間」という映画にひどく感激したわたしは、楽しみにしてこの本を購入した。

ヒトラー~最期の12日間~スタンダード・エディション

日活

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一読して思ったのは、親衛隊員で、しかも総統護衛部隊であったミッシュは、ナチス・ドイツ(とその所業)について、案外なにも知らないということだった。
実際、ミッシュは45年5月2日にソ連に拘束され、厳しい尋問を受けるものの、後のニュルンベルグ裁判等では証人とならなかった。
ヒトラーと距離的には近かったが、政策的な面では遠かったのだろう。
面白い、といっては不謹慎かも知れないが、彼は多くのドイツ人と同じく600万人が殺されたというユダヤ人の大量虐殺(ホロコースト)を戦後の報道で知ったのである。

この本はくだんの「最期の12日間」の後に出版されているので、ミッシュが映画を観てどう思ったかが語られているが、「たあいのない作り話」だと思ったそうである。
実際の総統地下壕はあの映画のように広々と清潔ではないし、毎晩あのように酒盛りもされていなかった。地下水対策工事に苦労したとあるように、非常にじめじめして狭いところだったらしい。

それでも、あの映画でもっとも恐ろしいシーンは実話だったらしい。
それは映画の終盤、ゲッベルスの妻が、我が子を次々と殺すシーン。6歳から12歳までの子どもたちを睡眠薬で眠らせて、青酸カリのカプセルを噛み下させていくシーンである。

彼女は泣きながら(映画では能面のように押し黙っていた)、この本の著者の前を横切り、落ち着いた様子で小部屋の椅子に座り、テーブルの上にトランプのカードを並べ始める。
そこに夫であり、今では崩壊した第三帝国総統の後継者となったゲッベルスが入ってくる。
彼は妻に「何をしているのか?」と尋ねる。
すると妻は顔をあげずに「ペイシェンス(トランプ占いの一種)」と答えるのだ。


ヒトラーに関する本は、これで何冊目だろう?
いくら読んでも、この怪物の全体像を捉えることができない。
しかし、この本はヒトラーという多面結晶体のある一面に関する貴重な記録として、じつに参考になった。
映画の方も、多分にフィクションを含むとはいえ、非常に優れた映画である。
長いし、精神的に参る描写(ゲッベルス夫妻の子殺しはほんの一端)も多いが、ドイツ映画として真正面から第三帝国の崩壊を描いたものとして、非常に素晴らしい出来だと思う。興味のある方は是非。


正月早々、ブログになに書いてるんだかわかりませんが、近況ということで。
今年はできれば「福音の少年」シリーズについて、それこそ「良き知らせ」をみなさんにお届けできれば、と思っています。
今年もよろしくです。

病院の待合で読んだ本。

2006年06月14日 23時35分59秒 | 本のこと。
家族を病院に連れて行く用事があった。
ある総合病院で、「4時間待ち」なんて恐ろしい話を聞いていたので、何冊か本を持って行った。

その一冊が下の本。
二度読んでいるので、三度目の再読。何度読んでもおもしろい。
ただし初期キリスト教や、グノーシス主義に興味がないとつらいかも。
この思想については「福音の少年」シリーズで散々ネタにさせていただいているので、本当は入門書じゃなくてクルト・ルドルフの本を読まなきゃならないんだけど。

グノーシス―古代キリスト教の“異端思想”

講談社

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二時間半も待ったので、次の本も読んだ。

新約聖書外典

講談社

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外典(アポクリファ)とは現在の聖書に正典として取り込まれなかった文書のこと。しかし、当然のことながら、外典の方が物語として面白い。
旧約聖書があんなに面白いのに、新約聖書になってつまんなくなるのは、マタイの福音書から始まるからだと思う。
福音書はマルコだけにして、使徒行伝、ヨハネの黙示録は残し、あと外典からいくつかの物語を入れたら、さぞかし面白い聖書ができるのではないか。

ようやく病院から帰って、しばらく休憩した後、今度は犬(メスのゴールデンレトリバー)を獣医に連れて行く。
でっかい注射をされても、「うん?」って顔をしているのがすごい。痛くないのだろうか。

夜。ちょこっと仕事。うううむ。プロットを練り直したくなってくる。

息抜きに、戦争に行く。戦場は中東である。

バトルフィールド2 モダンコンバット

エレクトロニック・アーツ

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アラブ連合軍側になって、ネットワークの中の戦友たちとともに、アメリカ軍と戦った。

充実してるんだかなんだかわからない一日であった。

バスに揺られながら読む本。

2006年05月28日 00時56分16秒 | 本のこと。
ひさしぶりに路線バスというものに一時間くらい揺られていたので、文庫本を読んだ。

仕事の資料でしょうがなく読むとき以外は、文庫本というものを、あまり読まない。

気取っているわけではない。

老眼になっちまったのよ(笑)。

バスの小さなシートに丸くなるようにして座り、文庫本を目にくっつけるようにして読んだ。

読んだのが下の本。

考現学入門

筑摩書房

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でもって、恥ずかしながら、「考現学」という言葉が、「考古学」と対であることに気がつきました。
あ、いや、笑わないで。

その考現学の始祖である今和次郎の本。人間くさい、ユーモラスな文体。80年前という時代を感じさせないところは、背後にある科学的精神のせいかなと思う。

考えてみると、いま人気のあるエッセイの非常に多くが影響を受けてるような気がしますね。この人の。

じゃ。

【まんが】手塚治虫の「ブッダ」

2006年03月26日 22時36分43秒 | 本のこと。
Buddha: Kapilavastu (Buddha (Hardcover))

Vertical

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前日に引き続き、なんとなく気になったので、図書館で手塚治虫の「ブッダ」を借りて読んだ。
「火の鳥」や「ブラックジャック」や「アドルフに告ぐ」は大好きで何度も読み返したのだが、この「ブッダ」だけは(食わず嫌いで)読んでいなかったのだ。

面白い。
解説にもあるけれど、へたな宗教書を読むよりもこのマンガは面白い上に、ブッダの生涯や仏教の本質をわかりやすく理解できる、格好の入門書だと思う。

べつに、ボーズが言うように「大般若経」600巻を読まなくてもいい。われわれには「ブッダ」がある。

リンクはその英訳本に張っている。簡単そうな英語だし、挫折したら原書(日本語の)に当たればいい。春休みに挑戦してみるのもいいかもしれない。


話は変わるけど、ちょっと恋愛小説(になるつもり)を、「福音の少年」シリーズの合間に書き出してみた。

原稿用紙一枚書いて、主人公の男を出したところで、違和感をおぼえる。
いや、男の名前に聞き覚えがあるのだ。
創作メモのときには気がつかなかったのに。

ちょっとググってみる。

なんと、あるアニメの演出家さんとよく似た名前なのだ。
無意識のうちに使ってしまったらしい。

他の名前がどうしても思いつかないのでそれで書き続けることにした。
もし上梓できることがあって、気が向いたら、立ち読みでもいいから見てみてほしい。

やっぱ、ぼくはアニオタだなあ。

じゃ。

【廉価DVD】本屋さんで売ってるDVD

2006年03月15日 21時16分48秒 | 本のこと。
所用で仕事(作家じゃないほう)を休んでました。

家に帰り、ふと本棚を見ると先日買い込んだDVDが目に入ったので、小さなウインドウで鑑賞してます。

50年経って著作権が失効した映画を500円で出してるシリーズ。
http://www.keep.co.jp/newpages/jprod.html

買ったのは「キングコング」「オズの魔法使い」「市民ケーン」「カルメン」「巨星ジーグフェルド」の5枚。

どれも(断片的にしか観てないジーグフェルドは除いて)何度も観てる映画なんだけど、ついつい買わせてしまうタイトルです(ジャケットの裏で微笑んでる水野晴郎さんは怖いけど)。

で、いまかけてるのは「キングコング」。

いや、おもしろい。娯楽映画のエッセンスがすべてある。某巨大掲示板風にいうと「神映画」です。リメイクのコングで気に入ったひとはぜひ観てみてください。

こんどは、ボガードの映画を集めてみるかな?
ハードボイルドだど。

【本】「痛快!憲法学」社会科の副読本(服毒本?)にすべし

2006年02月05日 17時14分14秒 | 本のこと。
痛快!憲法学 ― Amazing Study of Constitution & Democracy

集英社インターナショナル

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すみません。わたしは浅学にして、小室直樹さんの本を読んでいませんでした。
ソビエト連邦の崩壊を10年も前に予言していたひとというのは知ってました。
が、今にいたるまで、なんとなく敬遠していました。

この本をたまたま手に取ったのも、江口寿史さんの表紙の三人の女性に惹かれたからです。

あまり期待せずぱらぱらめくっていたら、次第に引き込まれていって、一日で読み終えました。

いやあ。面白いです。ものすごく面白い。憲法学とありますが、むずかしい法律学の本ではありません。「憲法」という果実からさかのぼってみた、人間の歴史・文化・宗教・経済のお話です。中学校の社会科程度の知識は前提としてあった方が理解しやすいでしょうし、おもしろい。

いや、この本、いっそ中学校か高校の教科書の副読本にしたらどうだろう?
一部の先生方は小室直樹という名前だけで拒否反応を起こしそうだけど。
細かい論議・検証よりも、わかりやすさ、言い切ってしまうことを優先させるというこの著者のスタイルについては、いろいろ批判はあるでしょうが、論旨はまったく正しいとわたしは思う。

ライブドアのこと、皇室典範の改正、憲法改正論議、小泉改革、防衛施設庁のこと。
2001年に出た本だけど、この本の最終章に書かれている状況は何も変わっていないどころか、ますます悪化しているように思えます。

ちなみに表紙の三人の女性は「三権分立」を象徴しているんでしょうね。
やっぱり江口画伯はいいな。

本屋さんでぶらぶら買い物~昨日買ったマンガたち。

2006年01月29日 15時22分13秒 | 本のこと。
土曜日、久しぶりに本屋に行った。
執筆の仕事に使う本はほとんどアマゾンで買うことにしているから、月に二三度しか足を運ばない。

娘と妻に、下の「小早川伸木の恋」を買ってくるよう頼まれたのだ。テレビドラマを観ていて読みたくなったそうだ。

小早川伸木の恋 (1)

小学館

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で、マンガ売り場をぶらぶら歩いていたら、佐々木倫子さんの新作を見つけたので、手に取ると、なんと原作付きの「鉄道ミステリ」!
いや、知らなかった。マンガ雑誌は「少年ジャンプ」しか読まないので疎いのだ。
さっそく買った。

月館の殺人 上 IKKI COMICS

小学館

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つぎに見つけたのは、これ「蒼天航路」の最終巻。買わないわけにはいかないでしょう?

蒼天航路 36 (36)

講談社

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家に帰って、家族揃ってマンガを読む(息子はニンテンドウのゲーム雑誌)。

小早川伸木は、娘が面白いというのでパラパラめくっただけなのだが、いかにも柴門さん流のほろ苦いドラマって感じである。全巻揃ってから借りてゆっくり読むことにした。

「月館の殺人」は、シリアスかと思えば、いつもの佐々木倫子ワールドでした。
いやー、こんなにミステリマンガで笑ったのははじめて。楽しい。
綾辻さんの原作は読んでいないが、ミステリとしてはディクスン・カーというかカーター・ディクスンなのかな?
あまりに語り口が面白くて、Who done itに興味が向かない。というか、このメンバーの誰が犯人でもいい感じ。
とにかく下巻が楽しみだ。雑誌の連載は続いているようだが、「ヘブン?」もそうだったけど、単行本でまとめて読みたい。首を長くして待ってよう。

そして「蒼天航路」最終巻。曹操が死ぬ。
33巻だったか、作者後書きに「関さんがプロットを破壊している」と書いてあったとおり、関羽が終盤をかき回した感がある。でも、三国志においては、関羽はそれだけの存在だろう。

ラスト。蒼天を突き抜けて飛翔する曹操の魂。そして、最後のセリフ。

・・・ああ。よかった。
第1巻から、このマンガにつきあうことができて、ほんとうに、よかった。
横山光輝の「三国志」はもちろんすばらしい。偉大だと思う。だが、王欣太の「蒼天航路」はまったく新しい「三国志」像を造り出したエポックメイキングな傑作だと思う。なによりもいいのは、このマンガはすばらしくマンガであるということ。
漫画史に残る名作だと思う。


あ。マンガばっかり買ってるな。自分。

【ぶんがく】 「暗闇のスキャナー」映画化!

2005年12月19日 01時19分11秒 | 本のこと。
キアヌー・リーブスにウィノナ・ライダーという人気俳優の組み合わせなので、確実に日本で公開されるだろうが、すでにネットで公開されている予告編を見るかぎり、不安と期待が交錯する。

いや、P.K.ディックの「暗闇のスキャナー」が映画化されるのだ。
「ブレードランナー」「トータル・リコール」「マイノリティ・リポート」とディックと映画は相性がいいようだ。だから、そのうち、「高い城の男」や「ユービック」「火星のタイムスリップ」あたりが映画化されるんじゃないかと期待していたのだが、「暗闇のスキャナー」がくるとは思わなかった。

その予告編はここやiTunesで観られる。

いや、なんて映画なんだろう?って思われるかもしれない。技術的なことは興味もないが、俳優が演じたフィルムを取り込んで、トゥーンシェーディング(マンガのような3DCGの効果)のように加工しているのだろうか。

これがまた原作のイメージに合ってるのだ。しかし、この絵で原作に忠実に映画化した場合・・・観客は大丈夫だろうか、などとよけいなことを思ってしまう。
 
暗闇のスキャナー

東京創元社

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上のリンクは今は無きサンリオSF文庫を復刻してくれている創元社版である。表紙はサンリオ版の方が好きだ。

そういえば、文学といいつつ内容についてなにも語っていないことに気がついた。
なんか、書こう。

その、つまり、警察国家と化したアメリカで、ジャンキーたちが互いを傷つけ合う話です。後期ディックの定番ですね。
いや、身もふたもないな。しかし、そのグダグダのプロットの終いに、主人公はニーチェの言う「世界苦」を実感する。
わたしは、原作のクライマックスで、身体が震えるほど感動してしまった。
バロウズの「裸のランチ」が名作というなら、この小説は超名作だ、と思った。

前期~中期のディックファンから駄作の烙印を押されがちな小説だが、わたしは大好きだ。
映画は観に行くかどうか思案中。

【ぶんがく】カルヴィーノは最高!「不在の騎士」

2005年12月16日 22時09分01秒 | 本のこと。
本屋でぶったまげた。

イタロ・カルヴィーノの傑作「不在の騎士」が、なんと文庫化されているのだ!

不在の騎士

河出書房新社

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この作家を知らない人のために解説しておくと、85年に亡くなったイタリア現代文学の異色作家である。SF的な短編も多く、早川書房から「柔らかい月」「レ・コスミコミケ」(必読!)という翻訳が出ている。

この「不在の騎士」は、「木のぼり男爵」「まっぷたつの子爵」にならぶ中世ファンタジー三部作(という呼び名はわたしがつけた)の一冊である。河出書房のある全集の一冊として出され、長いこと単行本にならなかった。

どんな話かというと、題名の通りなのだ。

時は騎士道華やかなりしころの中世フランス。騎士道精神が鎧を着たような騎士、というか精神以外に存在しない「不在の騎士」の活躍を描く、ユーモアと冒険に満ちたファンタジー小説。
なにせ、甲冑の中には誰もいないのだ。騎士道精神が鎧を着ているのだから。
(「空っぽの鎧」ってえと、あるマンガを連想するひとがいるかもしれない)
小説は、この空っぽの鎧、不在の騎士が所狭しと活躍しまくる。肉体が無いので杓子定規かと思えば、なんと高貴なご婦人とのベッドシーンまでこなす(どんなことになるかは秘密である)。

ついでに言っておくと、「木のぼり男爵」は男爵が木に登って降りてこない話であり、「まっぷたつの子爵」はある子爵が善と悪の半身にまっぷたつになっても生きている話である。まんまである。つまり、寓意がはっきりしている。ところが、これだけはっきりしているにもかかわらず、これらの三つの小説は奇想天外さを失わず、面白くてたまらない。
それはカルヴィーノという作家の力量のなせる技なのだが。

ぜひ読んでいただきたい傑作である。

【ぶんがく】ジャズと恋より大切なものはない。「うたかたの日々」

2005年11月30日 00時30分00秒 | 本のこと。
若い頃にしか読めない本がある。

わたしは再読が大好きだが、サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」と並んで、このボリス・ヴィアンの「うたかたの日々」は、どうにも読み返す事ができない。

だから、この「うたかたの日々」に関することはみんなうろ覚えである。
二十年以上も前に読んで以来だから。

「デューク・エリントンの音楽と、女の子と恋に落ちること以上に大事なことはない」などとうそぶく青年が、少女に恋をする。ふたりは一緒に暮らし始めるが、その少女は胸に蓮の花が咲くという難病にかかってしまう。

舞台はパリだったはずだが、どこか不思議なパリである。蛇口をひねると生きた鰻が出てくるし、人間のように考える猫とネズミが重要な脇役で登場する。

「ファンタジー」といえば「ファンタジー」なのだが、「ファンタジー」特有の「お約束」めいたものがいっさい無い。なんだか「そのまんま書いた」っていう感じの小説である。馬鹿馬鹿しいと笑うのは簡単だろう。だが、その馬鹿馬鹿しさも含めて、青春小説の楽しさだろうと思う。

うたかたの日々

早川書房

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読み手を選ぶ小説だろう。
アマゾンで検索したら、なんと漫画化されていた。なんとなく怖くて読む気になれないが、たしかにマンガに向いているといえばむいている。

いや、読み返してみるとこの記事は小説の紹介の役にはまったく立っていないな。
でも、いつか、こんな感じの小説が書けたらいいな。
次の次、つまり「福音の少年」の四冊目と平行して書いているもう一冊が終わったら、考えてみよう。

【ぶんがく】生きるって、地下鉄に乗るより難しい? 「地下鉄のザジ」

2005年11月23日 01時18分03秒 | 本のこと。
生きるってことは、むずかしいな、と思う。

長いこと生きているけれど、生きることに慣れない。
よその星からやってきて、ぶかぶかの宇宙服を着て船外活動をしているような気がする。
メールや電話は、まるで小惑星への着陸確認のようだ。
町を歩く。「豊饒の海」と皮肉な名前で呼ばれる月面の砂ぼこりが舞う。
ぼくは、なにしにここにいるんだろう?

そうだ、この感じを長編小説にしようと思っていたんだっけ。とにかく今書いている小説を書き上げたら、考えてみよう。

地下鉄のザジ

中央公論新社

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ふと、上の小説の事を思い出した。ずいぶん前に読んだのだが、ひどく記憶に残っている。マンガチックな表紙に騙されてはいけない。これは、ひとくせもふたくせもある小説なのだ。ザジという少女が、あこがれの地下鉄に乗るために田舎から出てくるが、肝心の地下鉄はストで動かない。あれこれするうちに、いろんなユニークな大人たちと出会う、というストーリー。

薄っぺらく(厚みが、である。けっして内容がではない)、すぐ読めてしまう。「小品」といった感のある作品なのだが、作者は書き上げるのになんと5年もかかったという。
主人公のザジという少女のガキっぷりも楽しいが、ひとくせもふたくせもあるような大人たちの生態がおもしろい。

大げさに悩みまくった大長編より、こんな小説の方が人生について考えさせられる。

「コレクターズアイテム」にならないために。

2005年11月14日 18時56分46秒 | 本のこと。
びっくりした。
去年出した本、「図書館のキス~福音の少年」が、アマゾンのユーズド商品で、5000円もの値が付いてるのだ。

前の記事で自嘲ぎみに「出版社が倒産したから稀覯本になる」なんてことを書いたのがいけなかったのだろうか。

ぼくの「福音の少年」シリーズは、「ヤングアダルト」向けとして分類されていることが多いし、ぼく自身、中高生の読者を想定して書いているつもりだ。
だから、最初に本を出すときに、「定価千円以下になりませんか」と出版社に言った。だって、それ以上だと、なかなか小遣いで買えないじゃないですか。

ベストなのは文庫なんだけど、ぺんぎん書房の規模じゃコスト的に不可能だと言われた。結局、最初の本は1575円で発売された。
次の本、つまり「図書館のキス」は最初の本の半分の厚さで税抜き1350円もした。これはほんとに申し訳なかった。

古本をいくらで売ろうがひとの勝手なのだが、なぜ5000円なのかがわからない。ぼくが将来有名な作家になるとでも? いや、それは買いかぶりというものだ。
このまますべての本が絶版になって忘れ去られる可能性もじゅうぶんに高いのだから。

はやく「福音の少年」シリーズの引き受け先が決まって欲しい。バッティングしてはいけないので、と関係者に言われたので、自分で活動するのは控えているが、まるで焼けたトタン屋根の上の猫のような心境である。

出版関係のひとがこのブログを読んでいる可能性は皆無かもしれない。だけど、このまま自分の本が「コレクターズアイテム」なるのは耐えられない。読みたいひとに楽しんで読んでもらいたい!

どうですか? おたくで「福音の少年」シリーズ出しませんか? いまなら4冊目とセットでどうですか?

とにかく、4作目を書いているということ。「福音の少年」シリーズ

2005年11月07日 01時42分51秒 | 本のこと。
福音の少年 Good News Boy ~錬金術師の息子~

ぺんぎん書房

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いま、午前1時半。相変わらずマイクロソフト製の、ハの字になったどでかいキーボードにかじりついている。
「福音の少年」シリーズ四作目にあたる「黄道傾斜の女神~福音の少年」を書いているのだ。どれくらい書けたかはまだ言えないが、とにかく、出版社がつぶれたからといって、書くのをやめたりしていない。

出せるあてがあるか?と問われたら、無い、と答えるしかない。いまのところは。
でも、ぼくは希望を持っている。というか、もともとぼくは絶望できない体質なのかもしれない。

きっと、なんとかなる。と、思ってます。

今度の本はねー、ちょっと違いますよー。意外な場所で予想外の展開が・・・。
ああ、煽ってはいけませんね。とにかく、信じていてください。

なにせ、Good News Boyなのだから。ぼくにも、みなさんにも「よき知らせ」を運んでくれるでしょう。

ぺんぎん書房の倒産と「福音の少年」シリーズについて

2005年11月05日 12時40分49秒 | 本のこと。
もうこのブログを訪れている方はほとんどご存じだろうと思うが、「福音の少年」シリーズを出版していたぺんぎん書房が倒産した。
わたしは兼業作家なので、明日から食うに困ると言うことはない。しかし無料WEBコミック「コミックシード」で活躍されていた漫画家のみなさんは大変なようだ。「コミックシード」としては黒字だったのに、本体のぺんぎん書房の倒産によって消滅してしまうというのは、さぞくやしかったろうと思う。

わたしは、10月末に唐突にメール一本で知らされただけだった。
それから、なかなか気持ちの整理がつかず、ブログには書く気になれなかった。
あれから、この非常時にもかかわらずコンサートに行ったり、飲みに行ったりして、ようやく冷静に今回の件を考えるようになってきた。

マンガ事業で黒字だったのなら、一般書の出版事業の、たとえばわたしの本がもっと売れていれば、こんなことにはならなかったのに、などと自分を責めたりしたこともある。よく考えれば、いや、よく考えなくてもそれは一種の思いあがりなのだが。

7月に出した新作の「歌う錬金術師~福音の少年」、じつは一円も印税をもらっていない。管財人から連絡があるというが、おそらく今後も無理だろう。
しかし、今日もこうやってわたしはデスクに向かって執筆を続けている。それは単純に言って、「書きたい」からだ。
シリーズ4作目、「黄道傾斜の女神~福音の少年」を完成させたいし、世に出したい。このままで終わらせたくない。

「ぺんぎん書房版福音の少年シリーズ」というのは、いわば在庫限りである。興味のある方、稀覯本収集癖のある方は、もしよければ、いまのうちに保護してやってください。


歌う錬金術師―福音の少年

ぺんぎん書房

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わが激情は「奔馬」のごとく。豊饒の海二冊目。

2005年10月18日 23時56分53秒 | 本のこと。
奔馬

新潮社

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ついでなので、前日の記事の続きを書こう。
三島由紀夫の「豊饒の海」四部作の二冊目、「奔馬」である。一読して思ったのは前作「春の雪」とは対称的な小説であるということ。
悲恋からテロリスムへと奔る青年の話と、題材も違えば、文体も違う。
三島は文体というものを自在に操る(操れる)小説家であり、その意味では一種の天才だった(現代小説家のいったいだれが「近代能楽集」や「椿説弓張月」を書きつつ「夜会服」や「幸福号出帆」のような上質のエンターテイメントを書けるだろう!)。

しかし、ともすれば、そのあふれんばかりの才能におぼれる面もあったと思う。つまり、文学としての本筋よりも小説技術偏重になる傾向があった。
#いや、わたしにとっては死ぬほどうらやましい話なのだが、この面は多くの批評家の指摘するところだし、本人も認めていた。

しかし、この小説はめっぽう面白い。右翼的思想だの、三島の自決をどうのこうの、どうだっていい。
「青年と行動」の小説なのだ。ほとんど「狂気」と紙一重の「激情」の小説なのである。仮に(あり得ないかもしれないが)主人公が暴力革命を信じる極左過激派の青年であっても、この小説は成立しうると断言しよう。

もう青年ではないわたしは、それでもこの主人公の青年に共感と憧れを覚える。


とまあ、がんばって書いてみました。
今夜もわたしはこころの中の奔馬を馴らして一編の小説に仕上げようと努力しています。
それじゃ。