物欲王

思い付くまま、気の向くまま、物欲を満そう

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ワーキング・ホリデー

2007-08-19 23:31:25 | 
駅まで歩いていく途中の道端に猫が横たわっていました。朝とはいえ暑い一日が予感される日差しの強さでした。猫が横になっている場所は大きなビルの陰になっていましたが、それでもアスファルトはかなりの熱さになっている筈です。怪訝になった僕は回り込んで猫の顔をのぞき込むと、鼻・口の辺りから血が流れていました。まるで寝ているかのように穏やかな表情で、体には目立った外傷もありません。初めて見掛けた猫でしたが何とも気の毒な気持ちになり、その猫が元気だった頃の姿を想像してみました。たとえ相手が人間であれ猫であれ何かのきっかけで出会ったならば、その相手が生きていた証が欲しくなるものです。

『ワーキング・ホリデー』はホストとして働いている主人公の元に自分の息子だと名乗る男の子が突然やってくる話です。主人公はホストになりきれない中途半端な人物ではあるものの、この息子の訪問をきっかけに一生懸命生き始めるのです。ちょっとした二時間ドラマのような展開は読むに心地良く、しかし生きている充足感もそこそこ得られる作品でした。

僕が出会った不幸な猫が『ワーキング・ホリデー』の父子同様に精一杯生きることができたのであれば、これ以上嬉しいことはありません。


ワーキング・ホリデー
坂木 司
文藝春秋

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United Abominations

2007-08-02 01:12:15 | 音楽
DVD『THAT ONE NIGHT』と一緒に『United Abominations』を買いました。ここ最近ずっと聴いているのですが、自分の中で評価が定まらずにいました。

一見して微妙なのがジャケットのアートワーク。かつて『Inspiration』が、その充実した内容に拘わらず、どんなイラストレータを使ったのかと物議を醸していましたが、僕の中ではそれに近いものがあります。どうしてしまったんでしょうか、Dave様。

収録曲は前評判通りですね。2曲目などはIMPELLITTERIに弾かせてみたいと思えたり、ちょっとした意外性もあって楽しめます。個人的には『The System Has Failed』の方がより印象的な気もしますが、バンドとして新たにリリースされたアルバムとしてまずは歓迎したいです。

しかし、今更ながら「? Tout Le Monde」って良い曲ですね。自分の葬式にはこの曲を流してもらえるよう遺言に残すつもりです。


ユナイテッド・アボミネイションズ
メガデス
ロードランナー・ジャパン

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ミノタウロス

2007-08-01 01:24:58 | 
以前日経の書評で高評価だった『吉原手引草』今年上半期の直木賞受賞作となりましたね。同書は文体も構成も面白いし良い本だとは思うものの、そこまでみんなで称えるべきものかと言われるとどうもしっくりこなかったりします。日経の書評と僕は感覚的に相容れないものがあるのでしょうか。

とかいいつつも、またもや日経の書評にあった「美文家が綴る最低な男の話」というような文言が目にとまり、日経書評に推されて購入する第2弾として『ミノタウロス』を読んでみました。

ロシアのとある地方の資産家の息子が歴史の流れに巻き込まれながらどんどんと堕落していく姿が、(残念ながら僕の好きな文体ではないものの)かなりしっかりした文章で書き綴られています。ストーリー自体の面白さも十分味わえるテンポの良い作品という印象です。苦労を重ねて財をなした父親とは似ても似つかず、主人公はやがて殺人・強姦・強奪を意にも介さない人間の形をした獣へと成り下がっていきます。設定している時代・場面のせいか、ごく当たり前に殺人・強姦・強奪が主人公の周りで起こるので、人道的な観点では異常な堕落具合なのですが、主人公の落ちぶれていく軌跡が結構ナチュラルに受け止められてしまいます。あまりに自由度が高い状況下では平常心では異常と思えることも案外理解できてしまうものなのでしょうか。あるいは殺人やテロなど本来であれば耳を疑うようなニュースに慣れてしまった現代人の僕が読むからそう感じてしまうのでしょうか。後者なのであれば作者のねらいは見事に的中で、僕も半人半獣の仲間入りです。

個人的には丸山健二氏の『夏の流れ』のように社会規範の中での微妙な悪意の方がぞくっと来てしまいます。


ミノタウロス
佐藤 亜紀
講談社

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