旅行業法(最終改正:平成二三年六月二四日法律第七四号)
- 2005年4月1日に1996年以来9年ぶりに旅行業法・約款が改正
- 「企画旅行」という概念が創設
- 従来の旅行業の定義は、「代理」、「媒介」、「取次」等によるいわゆる「斡旋業」であったが、従来の画一的な「主催旅行」に加え、「企画旅行契約」が設定
- 旅行業者は旅行商品に「付加価値」を付与して、自由に「値付け」をして販売することができる
- 「企画旅行」の実施に伴い、旅行計画の作成から、旅行取引契約締結、計画通り旅行が円滑に実施できるよう行程管理や代替手配を行うこと(旅程管理業務)までが義務付けられる
- 「衛生情報」の説明義務を位置づけられる
旅行業法・約款の改正と衛生問題への旅行会社の取り組み
日本旅行医学会は2014年11月16日、第7回日本旅行医学会東京大会を開催した際、旅行法分野に詳しく、国際旅行法学会(IFTTA)理事でもある金子博人弁護士による招聘講演からの紹介判例。
(Travel vision 記事:旅行者の疾病・受傷時にとるべき対応を判例から学ぶ-日本旅行医学会より 2014年12月2日(火)より転載)
判例1:土地固有の病気に対する責任
金子弁護士がまず紹介した事例は、ツアー中にマラリアに罹患し、帰国後に発症した男性が、病院でマラリアだと診断されず、時間が経過して死亡したケース。男性の遺族はツアー主催の旅行会社に対し、マラリアの危険性を告知する義務とツアー後の注意喚起義務を怠ったとして損害賠償を請求した。エボラ出血熱の感染が問題となっているなか、「土地固有の病気に対する旅行業者の責任や、帰国後に対処した医療機関の責任は重要」と、取り上げた理由を述べた。
この男性は旅行会社の主催ツアー「南部アフリカ3カ国旅情8日間」に参加し、ジンバブエのビクトリアフォールズ、ボツワナのチョベ国立公園、南アフリカのケープタウンとヨハネスブルグを訪問。帰国1週間後に発熱し、その翌日に医院に受診し、2週間ほど南アフリカを旅行したことも伝えていたがインフルエンザと診断された。
その後の発熱は薬で解熱したものの、受診2日後に再度発熱し、その翌日には病院に救急搬送された。その際の診断はインフルエンザ脳症脳炎で、マラリアであると判明したのはその翌日。その日のうちに死亡した。死亡診断書の直接死因は「熱帯性マラリア」、原因欄に「蚊刺され疑い」、傷病経過に影響を及ぼした傷病名に「インフルエンザ感染症」とあった。
判決では、原告らの請求はいずれも棄却となった。その根拠の概要は後述するが、判決で旅行業者が注目すべきポイントは2つ。
1つは、主催旅行契約上の付随義務として、「高度の発生可能性を有する格別の現実的危険が存在する場合には、その危険に関する情報を旅行者に対して告知すべき信義則上の義務がある」としたこと。もう1つは、帰国後の体調管理に関する情報提供や注意喚起義務に対して、「旅行業者がその義務を負うことはなく、例外的に罹患の可能性が高い疾病等があった事実を認識した場合は、旅行者自身の申し出問い合わせがあった場合に、適切な措置を講ずる義務を負うに留まる」としたこと。
さらに金子弁護士は、「旅行業者としては可能性が少なくても危険性があり得るとの情報を得ていれば、参加の判断材料として事前に情報提供をし、必要な準備の機会とするのが望ましい」との意見を披露。帰国後の情報提供についても、「病気が流行していたというような情報を取得した場合は、積極的に情報提供すべき」との考えを示した。
裁判所が請求を棄却した理由は、(1)今回のツアーではマラリア罹患の危険性が低く、旅行会社が予見することができなかったこと、(2)健康管理は本来、旅行者自身がすべきであり、旅行会社としては最終日に機内で質問票を配布したことで、記入を促したと認められること、(3)男性から旅行会社に体調に関する問合せがあったと認めることができず、旅行会社が男性に対して帰国後体調を崩した場合に連絡をさせ、ツアー中でのマラリア罹患の危険性を告知し、専門医を紹介するなどの義務を負っていたということができない、という点。
ちなみに、原告は医師に対する訴訟は起こさなかった。そのため、裁判所は直接的な判断はしていない。しかし、判決のなかで「医療機関にとっては、南部アフリカからの帰国後の疾病としてマラリアの可能性が存在することは通常容易に分かり、マラリアの診療は一般的な病院で可能である」と言及。このことから、金子弁護士は法的観点から、医療機関に責任問題が発生してもおかしくないとの解釈を述べた。
なお、会場からは今年、日本で感染が続いたデング熱に関連する質問があった。立入禁止地域の設定などが行なわれていた時の東京への送客の際に、危険性を告知する必要があるのかという内容だ。これについて金子弁護士は、この判決事例をもとに考えると、旅行会社には告知する義務があるとの見解を示した。特に訪日外国人に説明をしなかった場合は、相手国の法律で責任義務が問われることになる可能性があるとも述べた。