現在開発中のマラリアワクチンを用いた施策の費用対効果が高いことを示唆した報告。
Lancet, 2015 online first: Public health impact and cost-effectiveness of the RTS,S/AS01 malaria vaccine: a systematic comparison of predictions from four mathematical models
背景:
RTS,S/AS01マラリアワクチン候補の第3相試験では、熱帯熱マラリア原虫に対して、ワクチンの一定の有効性を示したが、最終評価項目として死亡抑制を評価するためには十分ではなかった。
政策提言のためには、研究の追加情報よりも、より長期的な枠組での計画の影響や費用対効果の評価が求められている。
アフリカにおいて、RTS,S/AS01を定期接種として用いた場合の公衆衛生上の影響と費用対効果について評価を行った。
方法:
ワクチンの費用対効果や影響を評価するため、4つのマラリア感染の伝播モデルとその予測を比較した。
5-17月齢群において、32月以上評価した研究データをモデルに適用した。
15年間に回避されると予測されるマラリア症例、死亡症例、障害調整生存年数(DALYs)を、2-10歳児の熱帯熱マラリア寄生率の範囲(3-65%)を一定に規定して計算した。
予防接種スケジュールは、生後6, 7.5, 9月の3回接種(接種率90%)とさらに生後27月に4回目の追加接種を行う(接種率72%)2つのスケジュールを検討した。
ワクチンは1本当たり2-10米ドルの価格とし、既存のマラリア予防を行う前提で、費用対効果を評価した。
調査結果:
熱帯熱マラリアの寄生率が10-65%の地域では、RTS,S/AS01ワクチンを10万人の小児にそれぞれのスケジュールで完全に接種をすることで、3回の接種では93,940(20,490-126,540)人のマラリア症例と394(127-708)人の死亡症例を、4回の接種はで116,480(31,450-160,410)人のマラリア症例と484(189-859)人の死亡症例を回避できると予測された。
熱帯熱マラリアの寄生率が5-10%の地域でも肯定的な影響が推測されたが、寄生率が3%未満になると肯定的な影響は得られなかった。
熱帯熱マラリアの寄生率が10-65%でワクチン価格が1本5米ドルと仮定して、現在の予防対策により得られる1症例当たりの増分費用効果30(18-211)米ドルと比較した、増分費用効果比(ICER)の中央値は、3回接種で80(44-279)米ドル/DALY、4回接種で87(48-244)米ドル/DALYであった。
熱帯熱マラリアの寄生率をより低くすると、ICER値はより高くなった。
解釈:
RTS,S/AS01 ワクチンをより広域に用いた設定において、有意な公衆衛生上の影響と高い費用対効果が予測された。
このワクチンを用いた予防施策の実施に関する決定には、マラリアの疾病負荷、費用対効果、その他のマラリア予防の介入率、健康施策の優先順位、予算、ワクチン接種に必要となる保健システムの許容度等のレベルを考慮する必要があるだろう。
資金:
PATH Malaria Vaccine Initiative; Bill & Melinda Gates Foundation; Global Good Fund; Medical Research Council; UK Department for International Development; GAVI, the Vaccine Alliance; WHOより資金提供を受けた。