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心療内科 新(あらた)クリニックのブログ

最新の精神医学に関するトピックスやクリニックの情報などを紹介します

妊娠と薬について

2012年11月07日 | ブログ

精神疾患の中には中・長期的に服薬が必要になる場合も少なからずありますが、若い女性は当然ながら、「妊娠、出産に影響はないのか?」と懸念されます。私はアメリカのFDA(食品医薬品局)の胎児危険度分類(FDA Pregnancy Category)を一つの目安にしています。以下のような、5段階に分類されています。

A:ヒト対照試験で、危険性がみいだされない(CONTROLLED STUDIES SHOW NO RISK)

B:人での危険性の証拠はない(NO EVIDENCE OF RISK IN HUMANS)

C:危険性を否定することができない(RISK CANNOT BE RULED OUT)

D:危険性を示す確かな証拠がある(POSITIVE EVIDENCE OF RISK)

X:妊娠中は禁忌(CONTRAINDICATED IN PREGNANCY)

しかしながら事実上、Aに分類される薬はビタミン剤程度で、ほとんどありません。精神科領域ではBに分類される薬もほとんどなく、Bに分類されている薬剤は睡眠導入剤のマイスリー程度です。その他、多くはC~Xに分類されますが、では、妊娠中は薬物治療を中止すべきかどうかというと、中止できるのであればもちろんそれにこしたことはありませんが、中止することにより明らかに精神症状が増悪して、日常生活に支障を及ぼすことが明確であると予想される場合には、なかなか中止するわけにもいきません。そこで私は、DおよびXに分類される薬剤は基本的に中止または変更をしますが、Cに分類される薬については、患者さんとも十分に相談したうえで、内服の継続を勧めています(出来る限り減量はしますが)。Cについては、ただし書きに(the potential benefits may outweigh the potential risks;投薬による潜在的な利益が胎児への潜在的危険性を上回るかもしれない)と記載されています。

では、精神科領域では主にどのような薬剤がC, D, Xに分類されているかですが、

C:リスパダール、ジプレキサ、セロクエル、エビリファイ、ラミクタール、ジェイゾロフト、デプロメール/ルボックス、レクサプロ、サインバルタ、リフレックス/レメロン、レスリン/デジレル、アナフラニール、アモキサン、トリプタノール、アモバン

D:デパケン、テグレトール、リーマス、パキシル、トフラニール、リボトリール/ランドセン、セルシン、ワイパックス、ソラナックス

X:ハルシオン、ユーロジン、ドラール

となっています。

これを見て分かるように、意外に睡眠薬や抗不安薬(いわゆる精神安定薬)はD~Xにランクされているんです。そして、抗精神病薬とパキシルを除くSSRIおよびSNRIはCに分類されています。気分安定薬は、ラミクタール以外はDに入っています。

催奇形性についての時期ですが、妊娠3週目まで(妊娠超初期)は単に細胞が分裂するだけなので、薬の影響は受けません。薬の影響を受け始めるのは、妊娠4週目(妊娠初期)からで、特に妊娠28日目~50日目(4週~7週末)は絶対過敏期と言われ、一番注意が必要な時期です。しかしながら、通常妊娠に気づくのは4~5週目なので、子供を作る計画をされている方は、その前に主治医に内服薬について相談する必要があります。可能であればDとXに分類されている薬は中止し、Cに分類されている薬も可能な範囲で減量をします。

5か月目(16週~)以降は器官の形成はほぼ終わるため、催奇形性の心配はほとんどなくなります。ただし、妊娠後期~末期(8ヶ月~10ヶ月)になると、薬によっては胎児の成長などに悪影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要となります。