皆さんは、「サトラレ」という漫画作品をご存知でしょうか?。「サトラレ」とは、あらゆる思考が思念波となって周囲に伝播してしまう症状を示す架空の病名で、主人公は生来、その「サトラレ」を罹っています。本人は、最初は「自分の考えが周囲に伝わっている」ことに気づいていないのですが、そのことを本人が知ると、全ての思考を周囲に知られる苦痛から精神崩壊をきたしてしまうため、サトラレ対策委員会という組織が「サトラレ本人に自分がサトラレだと知られないようにサトラレ達を保護している」、というのが物語の概要です。笑いあり涙ありの、心打たれるなかなか秀逸な作品です(ただ、「サトラレneo2」で掲載がやや中途半端な形で終わってしまったのは残念でしたが...)。
さて、実は実際に「自分の考えが周りに伝わっている」という症状を持つ病気があります。それが、精神科の代表疾患の一つである「統合失調症」です。この症状を“思考伝播(考想伝播)”と呼びます。これは統合失調症に特異的な症状で、“自我意識の障害(自己と他者を区別することの障害)”の一つです。自我意識の障害には他にも、
・考想察知(思考察知):自分の考えが他人に見抜かれてしまう
・考想奪取(思考奪取):自分の考えを抜き取られる
・思考吹入:他者に考えを吹き込まれる
があり、いずれも統合失調症に特異的な症状です。もし患者さんがこれらの症状を訴えた場合は、ほぼ間違いなく統合失調症と言っても過言ではありません。
さて、イギリスにBryan Charnley(1949年生まれ)という統合失調症を持つ画家がいましたが、彼は1991年から一連の自画像を描き始めました。その中で、“思考伝播”を描いた自画像があります。
これらの絵から、“自我意識の障害”がいかに本人とって苦しい症状であるかが伝わってきます。残念ながら、この自画像の連作は、彼の自殺で終わりました…。