気分安定薬のひとつに、炭酸リチウム(商品名;リーマス)があります。炭酸リチウムは、1949年にオーストリアの精神科医ジョン・ケイドによって、偶然に動物に対する効果が発見されたのちに、開発されました。
主な特徴は、
・爽快気分を伴う古典的躁病によく効く
・再発予防効果が示されている
・自殺予防効果が示唆されている
などがあります。精神科の薬剤で現在までに自殺予防効果が示されているのはリーマスのみで、これは本薬剤の大きなアドバンテージです。この効果は、おそらくは衝動性を減少される効果を介していると考えられています。また、リーマスは主に躁症状に効果を示しますが、うつ症状にも若干ながら効果を示します。難治性のうつ病にリーマスを追加投与すると、改善を示すこともあります。基礎研究からは、リーマスは脳内にて神経保護作用を有することが分かっています。
しかし、リーマスは血中濃度の治療有効域と中毒域(腎機能障害など)が近接しているため、定期的に採血を行い、血中濃度のモニターが必要となります。また、心血管系の催奇形性の危険性があるので、妊娠中の投与は禁忌となっています。
昨年、やっと年間の自殺者数が3万人をきりましたが、依然として自殺は大きな社会問題です。精神科医としては、今後、「抗自殺薬(自殺予防薬)」といったような部類の薬剤が開発されることを強く期待しています。