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心療内科 新(あらた)クリニックのブログ

最新の精神医学に関するトピックスやクリニックの情報などを紹介します

抗うつ薬に悪性脳腫瘍治療の可能性

2016年05月03日 | 新薬

本年3月に英国の科学雑誌「Scientific Reports」の電子版に、岡山大学の研究クループが「抗うつ薬のひとつに悪性脳腫瘍に対して治療効果がある可能性」を報告しました。

現在、新薬剤の開発には、薬剤の必要性と新規の医薬品開発の困難さの溝を埋めるひとつとして、既存薬を別の効能として用いるDR(Drug Repositioning/Drug Reprofiling:既存薬再開発)という方法があります。DRは短期間・低予算で副作用の少ない新しい治療薬を創生する手法(第二医薬用途)として知られています。

同研究グループはこれまでに、アクチンタンパク質の重合を試験管内で定量化する方法(アクチン重合定量化システム)を確立し、特許を取得しております。今回はこのアクチン重合定量化システムを用いて、本成果を得ました。

そして、その「抗うつ薬」とはフルボキサミン(商品名:デプロメール/ルボックス)です!。同薬は本来、「うつ病」と「強迫性障害」、「社交不安障害」に適応を持つSSRIの一つですが、今回の研究から、悪性脳腫瘍の一つである「膠芽腫」に対して治療効果を発揮する可能性が示されました。膠芽腫は外科治療・放射線治療・化学療法の集学的治療を用いても5年生存率が数%と極めて予後不良で、根本的治療のない疾患です。

ちなみに今回、候補薬として抗精神病薬(オランザピン、クエチアピン、クロルプロマジン)や三環系抗うつ薬(イミプラミン、クロミプラミン、アミトリプチリンなど)、四環系抗うつ薬(ミアンセリン)、抗不安薬(エチゾラム、フルタゾラム)、SSRI(パロキセチン、フルボキサミン、セルトラリン、シタロプラム;本邦未発売、フルオキセチン;本邦未発売)、ベンゾジアゼピン拮抗薬(フルマゼニル)の16種類の薬剤が試されましたが、膠芽腫に対して治療効果の可能性を示したのはフルボキサミンのみでした。

膠芽腫に対しフルボキサミンを実際の臨床に用いるためには、安全性などに関してさらに実験を積み重ね、臨床試験を経る必要がありますが、今後、悪性脳腫瘍治療薬としての実現・普及が期待されます


“画期的治療薬”に指定された2つの抗うつ薬

2016年03月17日 | 新薬

近年、精神科領域では新しい作用機序を有する効果的な治療薬の開発が滞っております。そして、残念ながら既存のどの治療薬を用いても、どの心理療法を行っても効果がない患者さんが一部おられるというのが現状です。その一部に、“治療抵抗性うつ病(難治性うつ病)”が含まれます。

しかし、最近、光がさすニュースがありました。米国のFDAが2013年に「エスケタミン点鼻薬」を、そして2016年1月には「rapastinel」という静注薬を“画期的治療薬(Breakthrough Therapy )”に指定しました。両薬剤とも抗うつ薬で、既存のSSRIやSNRI等とは作用機序が全く異なり、rapastinelは1回の静脈注射後1日で速やかに抗うつ効果が得られることが治験で示されております(すごいですね)。また、エスケタミン点鼻薬は治験にてこれまでにどの抗うつ薬にも治療効果のなかったうつ病患者に対して抗うつ効果が得られることが示されています(これまたすごいことです)。両薬剤ともにまだ治験中ですが、エスケタミン点鼻薬は日本でも現在、治験が進んでおります。

これらの薬剤が実際に使用できるようになるまでにはまだ数年かかると思いますが、現在、あらゆる治療を行っても効果がでないうつ病患者さんに、これらの薬剤が恩恵をもたらす日が来ることを心から待ち望んでおります。


INVEGA TRINZA

2015年06月17日 | 新薬

 本年5月に、年4回(3ヵ月に1回)の筋肉内注射で治療が可能な統合失調症の持効性注射剤がFDA(米国食品医薬品局)に承認されました。その薬剤名はINVEGA TRINZAで、その名の通り現在日本でも発売されている統合失調症経口薬インヴェガの持効性注射剤です。現在、日本にはゼプリオンというインヴェガの持効性注射剤がありますが、これは1ヵ月に1回の投与が必要です。

持効性注射剤は、薬の飲み忘れが多い方や病気の自覚がなくて薬を飲まなくなり病状が悪化する方などを対象に使用されますが、1ヵ月という期間は意外に早く、患者さんの立場からすると、注射をするのが3ヵ月に1回になるのはかなりの朗報と言えそうです。ただし、まだ日本での発売は未定です。

現在、日本にはゼプリオンの他に、エビリファイの持効性注射剤(エビリファイメンテナ)が本年5月に発売されております。これもゼプリオンと同様、1ヵ月に1回の筋肉内注射が必要です。薬の飲み忘れが多くて統合失調症の病状が悪化したり、入退院を繰り返したりしている方には、持効性注射剤がお勧めです