本年3月に英国の科学雑誌「Scientific Reports」の電子版に、岡山大学の研究クループが「抗うつ薬のひとつに悪性脳腫瘍に対して治療効果がある可能性」を報告しました。
現在、新薬剤の開発には、薬剤の必要性と新規の医薬品開発の困難さの溝を埋めるひとつとして、既存薬を別の効能として用いるDR(Drug Repositioning/Drug Reprofiling:既存薬再開発)という方法があります。DRは短期間・低予算で副作用の少ない新しい治療薬を創生する手法(第二医薬用途)として知られています。
同研究グループはこれまでに、アクチンタンパク質の重合を試験管内で定量化する方法(アクチン重合定量化システム)を確立し、特許を取得しております。今回はこのアクチン重合定量化システムを用いて、本成果を得ました。
そして、その「抗うつ薬」とはフルボキサミン(商品名:デプロメール/ルボックス)です!。同薬は本来、「うつ病」と「強迫性障害」、「社交不安障害」に適応を持つSSRIの一つですが、今回の研究から、悪性脳腫瘍の一つである「膠芽腫」に対して治療効果を発揮する可能性が示されました。膠芽腫は外科治療・放射線治療・化学療法の集学的治療を用いても5年生存率が数%と極めて予後不良で、根本的治療のない疾患です。
ちなみに今回、候補薬として抗精神病薬(オランザピン、クエチアピン、クロルプロマジン)や三環系抗うつ薬(イミプラミン、クロミプラミン、アミトリプチリンなど)、四環系抗うつ薬(ミアンセリン)、抗不安薬(エチゾラム、フルタゾラム)、SSRI(パロキセチン、フルボキサミン、セルトラリン、シタロプラム;本邦未発売、フルオキセチン;本邦未発売)、ベンゾジアゼピン拮抗薬(フルマゼニル)の16種類の薬剤が試されましたが、膠芽腫に対して治療効果の可能性を示したのはフルボキサミンのみでした。
膠芽腫に対しフルボキサミンを実際の臨床に用いるためには、安全性などに関してさらに実験を積み重ね、臨床試験を経る必要がありますが、今後、悪性脳腫瘍治療薬としての実現・普及が期待されます。