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多くの銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールの成長と進化の謎に迫るシミュレーション

2024年07月04日 | 銀河と中心ブラックホールの進化
宇宙の広大無辺な広がりの中で、最も神秘的で抗いがたい魅力を放つ天体の一つに、多くの銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールがあります。
このブラックホールは、想像を絶するほどの強大な重力を持ち、銀河全体の進化に計り知れない影響を与えていると考えられています。

今回の研究では、最新のコンピュータシミュレーション技術を駆使することで、超大質量ブラックホールを取り巻く高温の円盤“降着円盤”がどのようにして形成され、進化していくのかを、これまでにない精度で解明すことに成功しています。

このシミュレーションは、天文学者たちが1970年代から持ち続けてきた降着円盤に関する概念を覆し、ブラックホールと銀河の成長と進化に関する新たな発見への道を切り開くものになります。
この研究は、カリフォルニア工科大学の天体物理学者チームが進めています。
本研究の成果は、“The Open Journal of Astrophysics”誌に掲載されました。
図1.降着円盤と呼ばれる物資の渦巻く円盤に囲まれた超大質量ブラックホール(クエーサー)のイメージ図。(Credit: Caltech/Phil Hopkins group)
図1.降着円盤と呼ばれる物資の渦巻く円盤に囲まれた超大質量ブラックホール(クエーサー)のイメージ図。(Credit: Caltech/Phil Hopkins group)


莫大なエネルギーで輝く天体“クエーサー”

超大質量ブラックホールは、その強大な重力によって周囲の物質を飲み込んでいます。
でも、これらの物質は角運動を持つため、超大質量ブラックホールの周囲を公転しながら降着円盤と呼ばれるへんぺいな円盤状の構造を作ります。

降着円盤内のガスの摩擦熱によって落下するガスは電離してプラズマ状態へ、この電離したガスは回転することで強力な磁場が作られ、降着円盤からは荷電粒子のジェットが噴射し降着円盤の半径に応じて、可視光線、紫外線、X線と幅広い電磁波が観測されることになります。

このように、銀河中心にある超大質量ブラックホールに物質が落ち込む過程で生み出される莫大なエネルギーによって輝く天体をクエーサーと呼びます。

クエーサーは、活動的な超大質量ブラックホールで、その明るさは私たちの天の川銀河のような銀河全体をはるかに凌駕します。
宇宙の初期に形成されたと考えられていて、その形成と進化は、銀河の形成と進化と密接に関係していると考えられています。


ブラックホールの成長を支えるエンジン

降着円盤は、超大質量ブラックホールの成長と進化を理解する上で、極めて重要なカギとなります。
でも、その形成過程や物理的性質には、まだ多くの謎が残されています。

例えば、降着円盤がどのようにして形成されるのか、その形状や大きさを決定する要因は何なのか、といった疑問です。
これらは、天文学者たちにとって長年の課題となっています。

これまでの理論的な研究では、降着円盤の形状はクレープのように平らだと考えられてきました。
でも、実際の天文観測では、降着円盤はエンジェルケーキのようにフワフワとした形状をしていることが明らかになっています。

この矛盾を解消するために、カリフォルニア工科大学の研究チームは、最新のコンピュータシミュレーションを用いて、降着円盤の形成過程を詳細に解析しています。


降着円盤は磁場によって支えられ形状を維持している

今回の研究では、“FIRE(Feedback in Realistic Environments)”と“STARFORGE”と呼ばれる、2つの大規模な宇宙シミュレーションプロジェクトで開発された技術を組み合わせることで、超大質量ブラックホール周辺の物理現象を、これまでにない精度で再現することに成功しています。

“FIRE”プロジェクトの目的は、銀河の形成や進化など、宇宙における大規模な構造形成をシミュレーションすること。
一方、“STARFORGE”プロジェクトは、個々の星形成領域など、より小さなスケールでの物理現象に焦点を当てています。

これら2つのプロジェクトで培われた技術を統合することで、初期宇宙から現在に至るまでの超大質量ブラックホールの成長と進化を、広範なスケールでの追跡を可能としています。
特に、今回のシミュレーションで注目しているのは、降着円盤の形成過程における磁場の役割でした。

これまでの理論的な研究で考えられていたのは、降着円盤の形状や安定性は、主にガスの圧力と重力によって決まること。
でも、今回のシミュレーションの結果、磁場が降着円盤の構造と進化に、予想以上の大きな影響を与えてることが明らかになりました。

シミュレーションにより判明したのは、降着円盤の磁場の圧力が、ガスの熱による圧力よりも1万倍も大きいことでした。
これは、降着円盤が、磁場によって支えられ、その形状を維持していることを示唆しています。

今回のシミュレーションは、降着円盤がなぜフワフワとした形状をしているのかを説明する、新たな手掛かりを提供してくれています。

シミュレーションの結果、降着円盤の磁場は、ガスを乱流状態にかき混ぜることで、円盤をフワフワとした状態に保っていることが明らかになりました。
これは、磁場が降着円盤の構造と安定性に、大きな影響を与えていることを示す明確な証拠となります。

この発見は、降着円盤に関するこれまでの理解を大きく覆すものです。
これまでの理論では、降着円盤は重力によって薄く平らな形状に押しつぶされると考えられていました。
でも、今回のシミュレーションは、磁場が重力に対抗する力として働き、降着円盤をフワフワとした状態に保っていることを示しています。


大規模構造と小規模構造の物理法則をシームレスに統合

今回の研究の画期的な点は、超大質量ブラックホールの降着円盤という極小のスケールから、銀河全体の進化という巨大なスケールまで、単一のシミュレーションで繋ぎ合わせた点にあります。
これは、これまでのシミュレーションでは不可能だった手法で、宇宙物理学の研究に新たな扉を開く画期的な成果と言えます。

この成果を達成するため、研究チームが使用したのは“GIZMO”と呼ばれる独自のシミュレーションコードでした。
このコードは、“FIRE”プロジェクトと“STARFORGE”プロジェクトの両方で使用できるように設計されたもので、大規模構造と小規模構造の物理法則をシームレスに統合することができました。

このシミュレーションは、初期宇宙に存在するガス雲から始まり、重力によって収縮していく様子を追跡しています。
ガス雲の中心部では、物質が高密度に集中し、やがて超大質量ブラックホールが誕生。
さらに、シミュレーションを進めていくと、ブラックホールの周囲に降着円盤が形成され、物質が円盤を介してブラックホールへと落下していく様子が再現されます。

今回のシミュレーションは、降着円盤の質量、密度、厚さ、物質のブラックホールへの落下速度、形状(非対称性など)に関する予測を変更する可能性があります。
これらのパラメータは、ブラックホールの成長速度や、周囲の銀河への影響を決定する上で非常に重要だからです。

例えば、降着円盤がこれまでの予測よりもフワフワとしている場合、ブラックホールへの物質の供給速度は遅くなり、ブラックホールの成長速度も遅くなる可能性があります。
また、降着円盤の形状が非対称だと、ブラックホールから噴出されるジェットの方向が変化し、周囲の銀河に異なる影響を与える可能性があります。

本研究の成果は、超大質量ブラックホールの成長と進化に関する理解を深める上で、極めて重要な一歩となるものです。
特に、降着円盤の形成過程における磁場の役割が明らかになったことで、ブラックホールの成長速度や、周囲の銀河への影響など、関連する多くの研究分野に大きな進展が期待されます。

研究チームでは、さらに高解像度のシミュレーションを行うことで、降着円盤の形成過程をより詳細に解析し、ブラックホールと銀河の進化における謎の解明に挑む予定です。
特に、銀河同士の衝突合体におけるブラックホールの活動や、初期宇宙に誕生した初代星の形成過程など、多くの謎の解明に貢献することが期待されます。


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