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天の川銀河の中心周りで高速で移動している分子雲を確認! 気になるのは巨大ブラックホールに運ばれていくメカニズム

2023年11月26日 | 銀河と中心ブラックホールの進化
ほとんどの銀河の中心には、太陽の100万倍から100億倍の質量を持つ巨大ブラックホールが存在すると考えられています。

私たちの天の川銀河の中心にも、太陽の400万倍の質量を持つ巨大ブラックホール“いて座A*(エースター)”が存在しています。

今回の研究では、この巨大ブラックホールから少し離れたところにある巨大分子雲の3次元位置と速度を、国立天文台の電波望遠鏡ネットワーク“VERA”によって精密に測定することに成功しています。

天の川銀河の円盤から巨大ブラックホールへと、物質がどのようにして運ばれるのか?
このことを理解する上で、今回の研究は重要な情報を与える結果になるようです。
この研究は、国立天文台水沢VLBI観測所の坂井大裕特任助教を中心とする研究チームが進めています。
図1.天の川銀河中心ブラックホールを取り囲む分子雲領域の概念図。高密度な分子雲が軌道に沿って並び、一部の分子雲は非常に活発な星形成活動を示している。(Credit: 国立天文台)
図1.天の川銀河中心ブラックホールを取り囲む分子雲領域の概念図。高密度な分子雲が軌道に沿って並び、一部の分子雲は非常に活発な星形成活動を示している。(Credit: 国立天文台)

渦巻銀河と棒渦巻銀河

星形成が活発な銀河の半数以上に円盤構造があり、そのような銀河は円盤銀河と呼ばれています。

さらに、円盤銀河には2種類あり、それが渦巻銀河と棒渦巻銀河になります。

渦巻銀河は、図1(左)のように、文字通り渦を巻いた構造(渦巻腕と呼ばれる)が見られる銀河。
棒渦巻銀河は、渦巻銀河と似ていますが図1(右)のように、中心を貫く棒構造が見られるのが特徴です。

円盤銀河の約半数から3分の2は棒渦巻銀河といわれていて、私たちが住んでいる天の川銀河も棒渦巻銀河と考えられています。
図2.(左)渦巻銀河“M51”と(右)棒渦巻銀河“NGC 1300”。(Credit: NASA, ESA, and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA); Acknowledgment: P. Knezek (WIYN))
図2.(左)渦巻銀河“M51”と(右)棒渦巻銀河“NGC 1300”。(Credit: NASA, ESA, and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA); Acknowledgment: P. Knezek (WIYN))

4か所の電波望遠鏡を用いた位置天文観測

銀河の外側の円盤部分にある天体は円運動に近い運動をしている一方で、棒構造の影響で内側では複雑な動きが確認されています。

特に中心から約300光年の位置には、都市圏を取り囲む環状線のように高密度な分子雲が集中する領域が存在することが知られています。

これまで電波や赤外線、X線などの観測を通して、分子雲の3次元的な位置関係や運動を明らかにする研究がされてきましたが、定説は未だに得られていません。

この問題を解き明かす手法の一つとして、VLBI観測の高い空間分解能を活かした年周視差測定による距離決定と、天球面上の天体の動きである固有運動の測定による3次元速度の決定があり、重要な役割を果たすと考えられています。
図3.VERAによる位置天文観測の結果。(a)2014年から2016年までの“いて座B2”の水メーザーの位置の変化。(b)東西・南北方向の位置変化を時間に対して示したもの。(c)位置変化から年周視差による成分のみを抽出したもの。(Credit: Sakai et al.)
図3.VERAによる位置天文観測の結果。(a)2014年から2016年までの“いて座B2”の水メーザーの位置の変化。(b)東西・南北方向の位置変化を時間に対して示したもの。(c)位置変化から年周視差による成分のみを抽出したもの。(Credit: Sakai et al.)
今回の研究では、VERA望遠鏡を用いて天の川銀河中心にある分子雲“いて座B2”の3次元の位置・速度を精密に測定しています。

“VERA”は国立天文台が運用するVLBI観測網の望遠鏡です。

遠く離れた複数の電波望遠鏡が協力して同時に観測すると、口径の大きい電波望遠鏡を使うのと同様の性能を得ることができます。
このような観測を行うことを“VLBI(Very Long Baseline Interferometry : 超長基線干渉計)”といいます。

国立天文台では口径20メートルの電波望遠鏡を水沢局(岩手県)、入来局(鹿児島県)、小笠原局(東京都小笠原)、石垣島局(沖縄県)の4か所に設置。
この4か所の電波望遠鏡を用いた高い解像度の観測によって、天体までの距離や運動を精密に計測する“位置天文観測”を行っています。

そして、これら位置天文観測データを用いて進めているのが、天の川銀河の3次元立体構造のほか、星の形成や進化、銀河中心の超大質量ブラックホールや超高速ジェットなどの研究です。
図4.国立天文台が運用するVERA望遠鏡の配置。岩手県奥州市水沢、鹿児島県薩摩川内市入来、沖縄県石垣市、東京都小笠原村父島の4か所に口径20メートルの電波望遠鏡を設置し、それらを連携しVLBI(Very Long Exploration Interferometer)技術を用いた観測をすることで口径2300キロに及ぶ巨大望遠鏡と同じ分解能を引き出す。(Credit: 国立天文台)
図4.国立天文台が運用するVERA望遠鏡の配置。岩手県奥州市水沢、鹿児島県薩摩川内市入来、沖縄県石垣市、東京都小笠原村父島の4か所に口径20メートルの電波望遠鏡を設置し、それらを連携しVLBI(Very Long Exploration Interferometer)技術を用いた観測をすることで口径2300キロに及ぶ巨大望遠鏡と同じ分解能を引き出す。(Credit: 国立天文台)

天の川銀河の中心周りでは分子雲が高速で移動している

“いて座B2”は、天の川銀河の中心に位置する巨大ブラックホールから約300光年離れたところにあり、そこでは新しい星が大量に生まれています。

研究チームは、VERAの特徴である2ビーム観測※1によって、“いて座B2”から発せられている水メーザーのモニター観測を実施。
すると、“いて座B2”までの距離は約24,000(-5,500/+10,000)光年であり、巨大ブラックホールに対して秒速約140キロメートルの速度で動いていることが明らかになります。(図2)
※1.4つのVERA電波望遠鏡の特徴は、同時に2つの天体を観測できる2ビーム電波望遠鏡であること。ひとつの受信機の視野を観測天体に、もうひとつの受信機の視野を観測天体の近くにある参照天体に向けて、同時に観測することによって大気揺らぎを補正し、天体の位置決定精度を向上させている。この観測手法は相対“VLBI”と呼ばれている。
この結果は、これまでの先行研究で提唱されていた距離や運動と矛盾せず、VERAによる直接的な測定が先行研究を裏付けることになりました。
そう、天の川銀河の中心周りで、分子雲が高速で動いている様子を確認するこができたんですねー
図5.左:“いて座B2”から発せられた水メーザーの運動を示したもの。星が生まれている場所から発せられているアウトフローに付随した水メーザーの動きが見られる。色付きの矢印は、矢印の大きさが水メーザーの固有運動、色が水メーザーのドップラー速度を示している。背景の等高線はアメリカの電波干渉計VLAによって観測されたダスト放射の強度。右:電波で観測した天の川銀河の中心部分。(Credit: 左図:Sakai et al.、右図:MeerKAT/SARAO)
図5.左:“いて座B2”から発せられた水メーザーの運動を示したもの。星が生まれている場所から発せられているアウトフローに付随した水メーザーの動きが見られる。色付きの矢印は、矢印の大きさが水メーザーの固有運動、色が水メーザーのドップラー速度を示している。背景の等高線はアメリカの電波干渉計VLAによって観測されたダスト放射の強度。右:電波で観測した天の川銀河の中心部分。(Credit: 左図:Sakai et al.、右図:MeerKAT/SARAO)
今後、VERAに東アジアの電波望遠鏡を加えた東アジアVLBI観測網を用いて、より高感度な観測を行うことで、“いて座B2”以外の分子雲に対しても3次元位置と速度の測定を行うことができるそうです。

天の川銀河中心にある分子雲が、どのように動いているかを把握することで、巨大ブラックホールに物質が運ばれていくメカニズムが明らかになると期待されます。
本研究の中心となった酒井大裕特任助教は、国立天文台と株式会社 岩手日報社との包括的連携協定に基づいて採用されています。
なお、今回の研究成果は、日本天文学会欧文研究報告(PASJ: Publications of the Astronomical Society of Japan)において、“Water maser distributions and their internal motions in the Sagittarius B2 complex”として掲載されました。


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