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モバライダー mobarider

初期の宇宙に“ガス欠”に陥った大質量銀河を発見

2021年10月23日 | 銀河・銀河団
ビッグバンから30億年の間に形成された初期の大質量銀河には、星を作るための材料になる冷たい水素ガスが大量に含まれているはずです。

でも、“アルマ望遠鏡”と“ハッブル宇宙望遠鏡”を用いて初期の宇宙を観測してみると、星の材料を使い果たした奇妙な初期大質量銀河が6つも見つかったんですねー

短い時間で大量の星を作り、そして突然星を作るのをやめてしまった銀河…
いったい何が起きているのでしょうか?
NASAの“ハッブル宇宙望遠鏡”で撮影された銀河団“MACSJ 0138”の画像に、“アルマ望遠鏡”のデータを合成した画像。拡大された部分に見えるオレンジや赤の明るい点は“アルマ望遠鏡”で観測された冷たいチリの広がり。この冷たいチリは、銀河団内の銀河に存在する星の形成に必要な冷たい水素ガスの量を推測するのに役立った。
NASAの“ハッブル宇宙望遠鏡”で撮影された銀河団“MACSJ 0138”の画像に、“アルマ望遠鏡”のデータを合成した画像。拡大された部分に見えるオレンジや赤の明るい点は“アルマ望遠鏡”で観測された冷たいチリの広がり。この冷たいチリは、銀河団内の銀河に存在する星の形成に必要な冷たい水素ガスの量を推測するのに役立った。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/S. Dagnello (NRAO), STScI, K. Whitaker et al.)

星の形成が止まってしまった銀河

初期の宇宙で星の形成が止まっている銀河がありました。
この銀河を観測したのは、“REQUIEM(REsolving QUIEscent Magnified at high redshift)”と名付けられたプロジェクトでした。

宇宙で最も質量の大きい銀河たちは猛烈な勢いで活動していて、非常に短い時間で星を生み出していました。

初期の宇宙には星形成の材料になるガスは豊富にあるはずです。
なので、当初はビッグバンから数十億年後に、これらの銀河は星形成にブレーキをかけたと考えていたんですねー

でも、今回の研究では、初期の銀河は実際にはブレーキをかけたのではなく、ガス欠になっていたのではないかと結論付けることになります。

では、銀河はどのように形成され、どのように星形成活動を停止するのでしょうか?

このことを理解するために、研究チームでは“ハッブル宇宙望遠鏡”を用いて銀河に存在する星の詳細を明らかにしています。

また、“アルマ望遠鏡”では銀河のチリが放つミリ波の観測が行われ、銀河内のガスの量を推測することができました。

重力レンズ効果を自然の望遠鏡として利用する

“REQUIEM”の目的は、星形成休眠中の銀河をより高い解像度で観測することです。

この観測により、研究者は銀河の内部で何が起きているのかを明確に把握することができます。

ただ、銀河は新しい星をあまり作っていないと、すぐに暗くなってしまいます。
なので、望遠鏡で詳細に観測することは難しくなるんですねー

このため“REQUIEM”が考えたのは、強い重力レンズを自然の望遠鏡として利用することでした。
重力レンズ効果を受けた銀河を“ハッブル宇宙望遠鏡”や“アルマ望遠鏡”を用いて観測することで、この問題を解決しています。

重力レンズ効果とは、銀河の光が私たちに近い場所にある他の銀河の周りで曲がることで、元の銀河の姿が引き伸ばされたり拡大されたりする現象です。
恒星や銀河などが発する光が、途中にある銀河などの重力がレンズのような役割を果たすことで、曲げられたり拡大されたりする現象を重力レンズ効果という。これにより遠くの銀河が大きく拡大され、アルマ望遠鏡の高い解像度と相まって、銀河の詳しい様子を調べることができる。

観測では、重力レンズ効果に“ハッブル宇宙望遠鏡”や“アルマ望遠鏡”の解像力や感度が相まって、自然の望遠鏡として機能することになります。

これにより、星形成活動が止まりかけている銀河が実際よりも大きく明るく見え、何が起きていて起きていないのかを知ることができました。

ガスの枯渇により星形成活動を停止

今回の観測で分かってきたのは、研究対象となった6つの銀河で星形成活動が停止したのは、冷たいガスを星に変換する効率が急激に低下したのではないこと。
星形成活動の停止は銀河内のガスが枯渇したか、ガスが外部に取り除かれた結果だと分かりました。

なぜ、このようなことが起こるのかはまだ分かっていません。

考えられるのは、外部からのガスの供給が絶たれたこと。
あるいは、超大質量ブラックホールが膨大なエネルギーを注入して銀河内のガスを高温に保っているのかもしれません。

こうなってしまうと、銀河は燃料タンクを補充することができず、星形成のエンジンを再起動することができない状態になってしまいます。

6つの銀河のうち4つでは、チリからの電波がそもそも検出されませんでした。

このことが示唆しているのは、銀河の星に対して塵の量が1万分の1以下しかないこと。
チリとガスの存在比が天の川銀河と同じだとしても、これらの銀河におけるガスの総質量は、星の総質量の100分の1しかないことになってしまいます。

今回の研究は、今後何年にもわたって初期宇宙の研究の指針となる情報を提示しています。

研究で初めて測定することになったのは、遠方の星形成休眠中の銀河に含まれる冷たいチリからの電波でした。

天の川銀河にごく近い場所以外で、この種の測定を行ったのは今回が初めてのこと。
さらに、今回の研究によって、星形成が停止した銀河がどれだけのガスを持っているかを確認することができました。

初期の大質量銀河の星形成の材料を十分な感度調べること、言い換えれば銀河の燃料タンクの残量を読み取ることができたわけです。

この情報は、これらの銀河の冷たいガスの特性に関して、これまで決定的に欠けていたものでした。

研究チームは、これらの銀河が“ガス欠”状態になっていること、何かがガスの補充と新しい星の形成を妨げていることまでは明らかにしました。

でも、初期の大質量銀河で起きる星形成活動を何が支配しているのか?
この問いについては、まだ解決の一歩目を踏み出したにすぎないんですねー

大質量銀河がなぜこれほど初期の宇宙に形成されたのか。
また、大量の冷たいガスが容易に手に入ったのに、なぜ星の形成をやめてしまったのか。
まだまだ、多くのことが分かっていません。

この巨大な宇宙の怪物たちが約10憶年の間に1000億個の星を形成した後、なぜ突然星の形成を停止したのか。
“REQUIEM”は、この疑問に最初の手掛かりを提供してくれています。


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