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生命活動に関連して放出される化学分子の存在を証明することは困難… 系外惑星“K2-18b”にジメチルスルフィド存在するのか

2024年05月22日 | 系外惑星
太陽以外の恒星の周りを公転する太陽系外惑星(系外惑星)の中には、地球のように適度な温度と豊富な液体の水を持つかもしれない惑星がいくつか見つかっています。

その一つ“K2-18b”について、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による大気組成の観測の結果、豊富なメタンと二酸化炭素に加えて、生命活動と関連のあるバイオマーカーとして注目されている“ジメチルスルフィド”が見つかったと、2023年9月に発表された研究では報告されていました。

でも、今回の研究では、この報告に否定的な結果でているんですねー

本研究では、“K2-18b”模した惑星の大気をコンピュータでモデル化。
シミュレーションにより熱や光によって生じる化学反応を再現してみると、この観測データを元にジメチルスルフィドを検出できたという先の研究結果は、怪しことが示されたそうです。

ただ、“K2-18b”については、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による追加観測が予定されています。
なので、今後の観測でジメチルスルフィドが検出される可能性は残されているようです。
この研究は、カリフォルニア大学リバーサイド校のShang-Min Tasaiさんたちの研究チームが進めています。
図1.赤色矮星“K2-18”(左側の赤色の天体)の周りを公転する惑星“K2-18b”(右側の青色の天体)のイメージ図。“K2-18”には、他に“K2-18c”という惑星も公転している(中央の褐色の天体)。(Credit: Illustration: NASA, CSA, ESA, J. Olmsted (STScI) / Science: N. Madhusudhan (Cambridge University))
図1.赤色矮星“K2-18”(左側の赤色の天体)の周りを公転する惑星“K2-18b”(右側の青色の天体)のイメージ図。“K2-18”には、他に“K2-18c”という惑星も公転している(中央の褐色の天体)。(Credit: Illustration: NASA, CSA, ESA, J. Olmsted (STScI) / Science: N. Madhusudhan (Cambridge University))


生命活動に関連して放出される化学分子

観測技術の進歩によって、天文学者は地球と似た環境を持つと推定される系外惑星をいくつも見つけています。

地球と似た環境があれば、そこに独自の生命体が存在するかもしれないと考えるのは自然なことです。

では、仮に独自の生命体が存在するとして、その証拠はどのようにして見つければいいのでしょうか?

生命活動に関連して放出される化学分子を見つけることは、生命探索の大きな手掛かりの一つとなります。
バイオマーカーと呼ばれるこれらの分子は、生命活動によって大量に生成されることを特徴としています。

分子の種類によっては、生命活動に伴って生成される量の方が、その他の要因によって生成される量を上回ることもあります。


代表的なバイオマーカーの発見

地球から約120光年彼方に位置する惑星“K2-18b”は、ジメチルスルフィドと呼ばれる硫黄化合物の発見が報告されたことで注目されました。

ジメチルスルフィドは、生命と関係のない自然界の化学反応でも生成されます。
でも、地球では特に植物プランクトンの活動によって大量に生成されることが知られている、代表的なバイオマーカーとなります。

2023年9月のこと、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測結果を元に、“K2-18b”の大気組成を調べた研究成果が発表されます。
すると、この研究成果が大きな注目を集めることになるんですねー

それは、バイオマーカーの一つジメチルスルフィドの発見に加え、二酸化炭素とメタンが豊富に見つかった一方で、アンモニアが見つからなかったことが理由でした。

この組み合わせは、1%の水素を含む温暖な気候の大気と、その下に液体の水で構成された海が存在する環境で得られると考えられています。

ただ、最も興味深い分子ジメチルスルフィドについては、その存在を示す信号が弱いため、この結果を発表した研究者自身も予備的な結果だと認めていました。
図2.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測された“K2-18b”の大気組成。真ん中の赤い帯内にジメチルスルフィドの存在を示すスペクトル線が現れている。(Credit: Illustration: NASA, CSA, ESA, J. Olmsted (STScI) / Science: N. Madhusudhan (Cambridge University))
図2.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測された“K2-18b”の大気組成。真ん中の赤い帯内にジメチルスルフィドの存在を示すスペクトル線が現れている。(Credit: Illustration: NASA, CSA, ESA, J. Olmsted (STScI) / Science: N. Madhusudhan (Cambridge University))


シミュレーションによる推定

今回の研究では、“K2-18b”のような大気組成を持つ天体で、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が観測可能なほどの高濃度なジメチルスルフィドが生じるのかをシミュレーションしています。

ジメチルスルフィドは生命活動もしくは自然のプロセスによって発生し、恒星からの紫外線によって分解されます。

ジメチルスルフィドの濃度がジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測できるほどのレベルになるのかどうかを最終的に決定するのは、生じる量から分解する量を差し引いた値になります。

本研究では、生物が全く存在しない場合から、地球よりも豊富な生物が存在する場合までの様々な条件を設定。
ジメチルスルフィド以外の化合物も含めた、様々な分子の生成量を推定しました。

他の分子の生成が想定されたのは、いくつかの硫黄化合物が雲の生成に関与していると考えたからです。
雲は日光を遮断し、紫外線によってジメチルスルフィドが分解されるのを防ぐ効果があります。

シミュレーションの結果、ジメチルスルフィドの濃度がジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の性能で“K2-18b”の大気中から検出できるほど高くなるには、地球の20倍以上の生物の存在が必要だと分かりました。

さらに分かったのは、これほど生命豊かな環境を想定しても、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測データからジメチルスルフィドの存在を証明することは、困難であることに変わりはないこと…

この結果からすると、“K2-18b”が生命あふれる惑星だと考えるよりも、ジメチルスルフィドを検出したという結果が幻であると考えるほうが妥当なのかもしれません。
図3.今回の研究結果により、“K2-18b”は地球よりはるかに生命が豊富か、もしくはバイオマーカーの検出が幻という両極端な可能性が見えてきた。現時点では後者の可能性が妥当だと考えられる。(Credit: Shang-Min Tsai (AI生成))
図3.今回の研究結果により、“K2-18b”は地球よりはるかに生命が豊富か、もしくはバイオマーカーの検出が幻という両極端な可能性が見えてきた。現時点では後者の可能性が妥当だと考えられる。(Credit: Shang-Min Tsai (AI生成))
ただ、2024年後半にはジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による“K2-18b”の追加観測が予定されています。
この観測により、今回の研究が示す少し残念な結果は早めに覆る可能性もあります。

現在の観測結果だけでは、ジメチルスルフィドの存在をはっきり確定させることはできません。
この追加観測によって、白黒をはっきりさせるデータが得られるかもしれませんね。


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