宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

弱い放射を初めて観測! 周期的に信号を放射す中性子星“パルサー”が短時間だけ信号を途絶する現象“パルサー・ヌリング”

2023年10月27日 | 宇宙 space
中性子星の一種“パルサー”は、電子時計並みに正確な信号を発することで知られています。
ただ、形成から時間が経った古いパルサーでは、短期間信号が途絶する“パルサー・ヌリング(Pulsar Nulling)”が発生することもあるんですねー

今回の研究対象となっているのは、偶然観測したパルサー・ヌリング中に放射された弱い信号。
この電波の解析結果から、パルサー・ヌリングの原因をある程度絞り込めたそうです。
この研究は、中国科学院国家天文台の韩金林(Han Jinlin)さんたちの研究チームが進めています。
中性子星のイメージ図。(Credit: Kevin Gill (CC BY 2.0))
中性子星のイメージ図。(Credit: Kevin Gill (CC BY 2.0))

短時間だけ信号が途絶する現象“パルサー・ヌリング”

中性子星のうち、周期的な信号を放射しているタイプを“パルサー(Pulsar)”と呼びます。

パルサーの信号周期の正確さは電子時計に匹敵するほどで、1960年代に発見されてから間もない頃には、地球外文明の信号ではないかと考えられたほどです。

基本的にパルサーの信号は周期的に繰り返されています。
でも、まれに短時間だけ途絶することが1970年から知られていました。

この現象は“パルサー・ヌリング”と呼ばれています。

パルサー・ヌリングは古いパルサーで多く見られるので、パルサー周辺の磁場の構造やプラズマの密度などの変化が、信号の発生源となる荷電粒子(電気を帯びた粒子)の生成を一時的に止めてしまうことが、原因ではないかと考えられています。

ただ、パルサー・ヌリング中に信号が届かないということは、信号が途絶している間の様子を知るための情報も届かないことを意味します。
なので、これまで信号途絶中の正確な状況を知ることはできませんでした。
中性子星は、太陽の10~30倍程度の恒星が、一生の最期に大爆発した後に残される宇宙で最も高密度な天体。主に中性子からなる天体で、ブラックホールと異なり半径10キロ程度の表面が存在し、そこに地球の約50万倍の質量が詰まっていている。一般に強い磁場を持つものが多い。
パルサーは中性子星の中でも、規則正しいパルス状の可視光線や電波が観測される“天然の発振器”と言える天体。多くが超高速で自転していて、地球から観測すると非常に短い周期で明滅する規則的な信号がとらえられるので、パルサーと呼ばれている。パルス状の信号が観測されるのは、パルサーからビーム状に放射されている電磁波の向きが、自転とともに変化しているからだと考えられている。

パルサー・ヌリング中に観測された信号“矮小パルス”

中国科学院国家天文台の韩金林さんたちの研究チームは、中国の貴州省に設置された電波望遠鏡“500メートル球面電波望遠鏡(FAST; Five-hundred-meter Aperture Spherical radio Telescope)”を用いて、天の川銀河に存在する多数のパルサーを観測するプロジェクトを進めています。

観測対象の中には、パルサー観測の歴史の初期から存在が知られていて、しばしばパルサー・ヌリングが発生する“FSR B2111+46”も含まれていました。

この観測プロジェクトにおいて、“FSR B2111+46”は単なる観測対象の1つに過ぎませんでした。
でも、2020年8月24日・8月26日・9月17日のデータを分析してみると、パルサー・ヌリング中だったにも関わらず“FSR B2111+46”から届いたパルス信号が数十個含まれていることが明らかになります。

信号の強度は非常に弱く、パルスの幅も狭いもので、これは“FSR B2111+46”自身から放射されたものである可能性がありました。

研究チームは、観測された弱い信号の正体を探るため、2022年3月8日に再び“FSR B2111+46”を2時間観測。
その結果、パルサー・ヌリング中に100個以上の信号を観測することに成功し、強度だけでなくパルスの幅も通常のパルス信号とは異なることが改めて明確に示されました。

研究チームでは、パルサー・ヌリング中に観測されたこの信号を“矮小パルス(dwarf pulse)”と名付けています。
“FSR B2111+46”の電波観測結果の一例。番号237番のパルス(左側の237と書かれた横線、および右側中央のグラフ)が矮小パルスで、他のパルスと比べて強度も幅も小さいことを特徴としている。(Credit: Chen, et al.)
“FSR B2111+46”の電波観測結果の一例。番号237番のパルス(左側の237と書かれた横線、および右側中央のグラフ)が矮小パルスで、他のパルスと比べて強度も幅も小さいことを特徴としている。(Credit: Chen, et al.)
観測された信号を強度と幅で分けた分布図。矮小パルス(dwarf pulses)は通常のパルス(normal pulses)とは異なる分布域にあることが分かる。(Credit: Chen, et al.)
観測された信号を強度と幅で分けた分布図。矮小パルス(dwarf pulses)は通常のパルス(normal pulses)とは異なる分布域にあることが分かる。(Credit: Chen, et al.)

荷電粒子生成の一時停止がパルサー・ヌリングの原因

興味深いことに、矮小パルスの偏光特性は通常のパルス信号と比べて変化していませんでした。

このことは、少なくともパルサー・ヌリングが、パルサー周辺磁場の構造変化によって起こるという仮説を否定するものになります。

一方で、矮小パルスは通常のパルス信号では非常にまれな“スペクトル反転”(より短い波長の電波で強い放射が発せられる現象)が起こりやすいことも観測されています。

このことから研究チームは、荷電粒子生成の一時停止がパルサー・ヌリングの原因ではないかと予測しています。

パルサー表面の磁極の近くでは、磁場によって周期的に作られる溝の中で膨大な放電現象が発生することで、荷電粒子が周期的に生成されて電波が発生します。
これが、周期的なパルス信号の発生源だと考えられています。

でも、古いパルサーでは時々この放電が発生せず、荷電粒子の生成も極めて少なくなってしまうことがあります。

この場合、電波はほとんど、または全く発生しないので、遠く離れた私たちには“信号が届かないパルサー・ヌリング”として観測されるというわけです。

パルサー・ヌリング中の矮小パルスの発見は今回が初めてのこと。
電波の強度と周波数の特性により“500メートル球面電波望遠鏡”以外の電波望遠鏡では観測が困難なことから、これまで見逃されていたのかもしれません。

今回の“500メートル球面電波望遠鏡”による矮小パルスの観測は偶然によるものでしたが、すでに“500メートル球面電波望遠鏡”は他のいくつかのパルサーでも矮小パルスのような信号をとらえることに成功しています。

観測データが増えれば、今回推定された矮小パルスの発生機構が正しいかどうかの検証も行えるはずです。


こちらの記事もどうぞ



最新の画像もっと見る

コメントを投稿