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本当に火星サイズの天体が原始の地球に衝突して月が形成されたのか? 地球と月のマントル組成を比較するため“SLIM”が月面着陸へ

2023年12月18日 | 月の探査
2024年1月4日更新
JAXAは、2023年9月7日に打ち上げた小型月着陸実証機“SLIM(Smart Lander for Investigating Moon)”について、2024年1月から2月の着陸予定としていました。
現状、“SLIM”の運用が順調に実施できていることを踏まえ、月面着陸についての予定が発表されたんですねー

1月19日に近月点を高度15キロまで低下させた“SLIM”は、2024年1月20日(土)の午前0:00頃(日本標準時)着陸降下を開始し、午前0:20(日本標準時)頃に月面に着陸。
また、上記のタイミングで着陸を実施しない場合、次の着陸機会は2024年2月16日ころになる予定です。

着陸に成功すれば日本初の月面着陸となり、世界でもアメリカ、旧ソ連(ロシア)、中国、インドに続く5か国目になります。

“SLIM”は精度100メートル以内のピンポイント着陸を目標としています。
月のような重力天体においては他に類を見ない高精度着陸となり、現在検討が行われている国際宇宙探査計画などにおいても成果の活用が期待されています。

“SLIM”は、2023年12月25日16:51(日本標準時)に月周回軌道投入に成功。
所定の計画通りの軌道変更を達成し、探査機の状態は正常とのことです。
今後の“SLIM”の月周回軌道。水色の線は現在の月周回軌道、緑色の線は高度約600キロの円軌道、黄色の線は高度約600キロ×150キロの楕円軌道、赤色の線は高度約600キロ×15キロの楕円軌道。(Credit: JAXA)
今後の“SLIM”の月周回軌道。水色の線は現在の月周回軌道、緑色の線は高度約600キロの円軌道、黄色の線は高度約600キロ×150キロの楕円軌道、赤色の線は高度約600キロ×15キロの楕円軌道。(Credit: JAXA)
“SLIM”の月周回軌道は、周期約6.5時間、月に最も近いところ(近月点)では高度約600キロ、月から最も遠いところ(遠月点)では高度約4,000キロで、月の北極点と南極点を結ぶ楕円軌道になります。

今後は2024年1月中旬までに遠月点を低下させ、高度約600キロの円軌道に軌道を調整。
その上で、近月点を降下し、着陸開始への準備を開始することになります。
図1.月面に着陸した“SLIM”(イメージ図)。(Credit: JAXA)
図1.月面に着陸した“SLIM”(イメージ図)。(Credit: JAXA)


ピンポイント着陸を目指す小型月着陸実証機“SLIM”

“SLIM”はH-IIAロケット47号機(H-IIA・F47)に搭載され、種子島宇宙センターを2023年9月7日8時42分11秒(日本時間)に離床。
ロケットからの分離後、予定していた地球周回軌道への探査機投入に成功し、午前9時45分に“SLIM”からの信号受信で太陽補足制御を完了していました。

その後、“SLIM”は10月1日に、地球周回軌道から離脱し、月を目指す月遷移軌道に乗ることに成功。
10月4日には、月周回軌道投入に向けて軌道を変更するために、地球を公転する月の重力を利用して軌道を変更するスイングバイを実施していました。

“SLIM”の目的は、月面の狙った場所へのピンポイント着陸技術の実証。
着陸誤差は100メートル以内を目指しています。

これまでの月面着陸機の誤差は数キロから十数キロ以上だったので、“SLIM”は驚異的な着陸精度を目指していることになります。

このピンポイント着陸技術によって実現するのが、これまでの“降りやすいところに降りる”着陸ではなく、“降りたいところに降りる”着陸への質的な転換。
月惑星の資源探査では、軌道上からリモートセンシングで資源分布を推定し、その後実際に地面を探査することになるので、その際に威力を発揮することになります。


本当に火星サイズの天体が原始の地球に衝突して月が形成されたのか

“SLIM”は1月20日の月面着陸で、月の地球側にある“神酒の海(Mare Nectaris)”の西に位置するSHIOLIクレーター付近の傾斜地に、正確にピンポイント着陸を行うための航法と、二段階式により安全なタッチダウンを行う技術を実証することになります。

同地点には月のマントルに由来するカンラン石が散らばっています。
“SLIM”は着陸後に搭載するマルチバンド分光カメラで、このカンラン石の組成を分析することになります。

なぜ、カンラン石を分析するのでしょうか?
それは月の起源を探るためです。
月は、ジャイアントインパクト(巨大衝突)という形成過程を経て形成されたと考えられています。

ジャイアントインパクト説によれば、45億年前に火星サイズの天体“テイア”が、作られて間もない原始の地球に衝突。
この衝突から生まれた破片が、かなり急速(おそらく数百万年強の間)に分離し、月を形成したと考えられています。

そこで、月のマントルに由来するカンラン石の組成を分析し、その結果を地球のマントルと比較することで、ジャイアントインパクト説を検証する訳です。

カンラン石は比重が大きいので、通常は地下深くに埋まっています。
地表に露出したカンラン石はクレーター付近に存在していますが、これはクレーター形成時に、衝撃で地下から掘り起こされたものと考えられています。

JAXAは、2007年に打ち上げた月周回衛星“かぐや(SELENE)”で月面のリモートセンシングを実施し、月面におけるカンラン石の分布を突き止めていました。

また、組成分析にあたっては宇宙線の影響の少ないカンラン石を用いる必要があります。
このため、宇宙線の影響をあまり受けていないカンラン石が存在するとみられる若いクレーターを探査。
その結果、着陸地点をSHIOLIクレーターに選定しています。

着陸地点はクレーター付近になるので15度程度の斜面になっています。
“SLIM”は“2段階着陸方式”と呼ばれる方法で、行きたい場所が斜面であっても、安全な着陸を実現しています。

これは、月面に対して垂直の姿勢で降下し、着陸直前に機体を斜めに傾けて半円形をした脚で一度接地してから、斜面に向かって倒れ込むように横向きに設置するという特徴的な着陸方法になります。
図2.“SLIM”は、月周回軌道を離れてからは、月面に対して垂直の姿勢で降下。着陸直前に機体を斜めに傾けて横向きに設置するという特徴的な着陸方法を採用している。(Credit: JAXA)
図2.“SLIM”は、月周回軌道を離れてからは、月面に対して垂直の姿勢で降下。着陸直前に機体を斜めに傾けて横向きに設置するという特徴的な着陸方法を採用している。(Credit: JAXA)
斜面にある着陸目標地点では、この方式が最も転倒リスクが小さく、かつシンプルで軽量な着陸脚システムになるようです。

これまでアポロ計画により月の岩石が持ち帰られてきました。
でも、残念ながらそれらの岩石は、“SLIM”で分析しようとしているマントル由来のカンラン石ではありませんでした。

“SLIM”が搭載するマルチバンド分光カメラは、望遠機能があり、まず広いところを見て岩石を選定。
狙いを定めた岩石に対してズームをかけて詳しく分析が行えるようですよ。


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