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金やプラチナなど貴金属の元素を含む星は、100億年以上前に天の川銀河の元になった小さい銀河で生まれていた

2022年12月09日 | 銀河・銀河団
宇宙が誕生した138億年前
そして、その数億年後から形成されてきたと考えられている天の川銀河。
でも、誕生から形成の過程は謎に満ちていて、今でも解明されていないことがたくさんあるんですねー

今回の研究では、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ“アテルイⅡ”を用いて、天の川銀河ができる様子を世界最高解像度でシミュレーションすることに成功。
その結果、金や、プラチナなど鉄より重い貴金属の元素を多く含む星は、100億年以上前、天の川銀河の元になった小さい銀河で形成されたことを明らかにしています。

また、本シミュレーションで形成された星の元素量、運動は天の川銀河の星の観測と一致。
今後、国立天文台のすばる望遠鏡などでの観測が進むと、貴金属に富んだ星を指標として、長年の謎であった100億年以上前の天の川銀河形成史を辿れるようになるようです。
今回の研究で行われた天の川銀河形成シミュレーションによる星とガスの分布。黄色で描かれているのが星、水色で描かれた粒子がガスを表す。(Credit: 平居悠)
今回の研究で行われた天の川銀河形成シミュレーションによる星とガスの分布。黄色で描かれているのが星、水色で描かれた粒子がガスを表す。(Credit: 平居悠)

星の元素組成には銀河の歴史が刻まれている

私たちが暮らす地球、そして太陽系を含む大きな星の集まりが天の川銀河です。

その天の川銀河は、どのように形成されたのでしょうか?
このことを明らかにすることは、天文学における長年の課題になっています。

私たちの身の回りのほとんどの元素は星の中で合成されていますが、その星の元素組成から、天の川銀河の形成を理解する手掛かりを得ることができます。

星がその一生を終える際、元素はその星の周辺に撒き散らされ、次世代の星に引き継がれていきます。

つまり、星の元素組成には、その星が形成されるまでの銀河の歴史が刻まれていることになります。

鉄より重い貴金属元素に富んだ星

国立天文台のすばる望遠鏡などの観測から、天の川銀河には鉄より重い元素(金やプラチナなどの貴金属)と、鉄との比が太陽の5倍以上の星がいくつもあることが確認されています。
すばる望遠鏡は、国立天文台がハワイのマウナケア山頂で運用する口径8.2メートルの光学赤外線望遠鏡。今回の研究では、すばる望遠鏡に搭載された高分散分光器(HDS : High Dispersion Spectrograph)によって観測された恒星の分光データを用いている。
さらに、ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星“ガイア”は、これらの星の多くは太陽とは異なる軌道を持つことを明らかにしてくれました。
“ガイア”は、ヨーロッパ宇宙機関が2013年12月に打ち上げ運用する位置天文衛星。可視光線の波長帯で観測を行い、10憶個以上の天の川銀河の恒星の位置と速度を三角測量の原理に基づいて測定する位置天文学に特化した宇宙望遠鏡。測定精度は10マイクロ秒角(1度の1/60の1/60の1/10マンの角度)であり、これは地球から月面の1円玉を数えられる精度。
こうした特徴は、鉄より重い元素に富んだ星々が、天の川銀河の形成史を強く反映して形成された可能性を示唆しています。

でも、これらの星が銀河の歴史の中で、いつ、どのように形成されたのかは明らかになっていませんでした。

そこで、今回の研究では、天の川銀河が形成される様子を138億年前の宇宙誕生から現在までシミュレーション。
国立天文台が運用する天文学専用スーパーコンピュータ“アテルイⅡ”が用いられました。

その結果、明らかになったのは、鉄より重い貴金属元素に富んだ星の多くは、100億年以上前、天の川銀河の元になった小さい銀河で形成されたことでした。

天の川銀河の元になった小さい銀河

今回の研究では、世界最高解像度の天の川銀河シミュレーションを実施することに成功しています。

このシミュレーションでは、宇宙初期の密度のムラからダークマターとガスが重力によって集まり、その中で星が形成されていく様子を計算しました。
“ダークマター”は、銀河の性質を説明するために考案された仮設上の物質で、宇宙の全質量・エネルギーの約27%を占めていると考えられている。銀河を構成する星がバラバラにならず形をとどめている原因を、光を放射しない物質の重力効果に求めたのが“ダークマター説”の始まり。
この計算は、研究チームが独自に開発した数値計算コードと“アテルイⅡ”を用いることで、これまでより10倍程度高い解像度を実現。
これにより、これまで分解できなかった天の川銀河の元になった小さい銀河を空間的に分解し、その中で星が生まれる様子を探ることができるようになりました。
今回の研究のテストシミュレーションの映像(100分の1の解像度で計算したもの)。黄色く輝くのが星、淡く雲のように広がって描かれているものがガスを表す。シミュレーション:斎藤貴之(神戸大学/東京工業大学 ELSI)、可視化: 武田隆顕(VASA Entertainment Co. Ltd.)。(Credit: 斎藤貴之、武田隆顕)

シミュレーションでは、鉄よりも重い元素に富んだ星が「いつ・どこで・どのように」形成されたのかを解析しています。

星が形成された時期を調べて分かったのは、鉄より重い元素に富んだ9割以上の星が、宇宙誕生から40億年以内に形成されたこと(図2)。
シミュレーションでは、これらの星々の多くは、まだ形成途中の小さい銀河で誕生していました。

こうした小さい銀河では、ガスの量が少ないので、一度の貴金属合成現象でも銀河全体の鉄よりも重い元素の割合が高くなります。

そのような環境で星が生まれると、その星に引き継がれる鉄よりも重い元素の量も高くなるわけです。
図2:シミュレーションから得られた鉄の量と星が生まれた時刻の関係。赤点が鉄より重い元素に富んだ星。黄色、緑色、青色のカラーグラデーションは全ての星。(Credit: Hirai et al.)
図2:シミュレーションから得られた鉄の量と星が生まれた時刻の関係。赤点が鉄より重い元素に富んだ星。黄色、緑色、青色のカラーグラデーションは全ての星。(Credit: Hirai et al.)

100億年以上前の天の川銀河形成史

さらに、すばる望遠鏡などで観測した天の川銀河の星の貴金属量と、シミュレーションで予測された貴金属元素のひとつであるユーロピウム(Eu)の量を比較。
すると、よく似た分布をしていることが示されました(図3)。

この結果は、天の川銀河に見られる鉄よりも重い元素に富む星の多くは、100億歳以上の年齢を持ち、宇宙初期の天の川銀河の形成史を今に伝える星々であることを意味しています。

今回の研究では、2017年に重力波が検出された連星中性子星合体から放出される貴金属量を仮定することで、天の川銀河の鉄よりも重い元素量を図3のように矛盾なく説明できています。
図3:ユーロピウムと鉄の比の分布。オレンジ色、青色はそれぞれ天の川銀河の観測とシミュレーションによる結果。鉄よりも重い元素の代表例として観測例の多いユーロピウムで比較。(Credit: Hirai et al.)
図3:ユーロピウムと鉄の比の分布。オレンジ色、青色はそれぞれ天の川銀河の観測とシミュレーションによる結果。鉄よりも重い元素の代表例として観測例の多いユーロピウムで比較。(Credit: Hirai et al.)

今回の研究成果は、鉄よりも重い元素に富んだ星々の起源を、世界最高解像度の天の川銀河形成シミュレーションで明らかにできたことです。

この成果により、鉄よりも重い元素に富んだ星々を指標として、これまで謎であった100億年以上前の天の川銀河形成史を探ることが可能になりました。

これにより期待されるのが、宇宙全体から私たちを形作る元素のスケールまで、分野の垣根を超えた研究が展開されること。

こうした研究が、「私たちはどこから来たのか?」という問いへの手掛かりを与えてくれるのかもしれません。

今後は、理化学研究所のスーパーコンピュータ“富岳”によるシミュレーションや、すばる望遠鏡などによる観測を駆使して、138億年に渡る天の川銀河形成史解明に挑むそうです。


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