なぜ、冥王星の内部にある地下海は凍結しないのでしょうか?
衛星のエウロパやエンケラドスなら木星や土星から受ける潮汐力が熱源になるのですが、冥王星には大きな熱源は無いはず…
今回、数値シミュレーションから示されたのは、地下にメタンハイドレートが存在していれば説明が可能だということ。
他にも、巨大な盆地や窒素の大気の存在も説明できるようですよ。
冥王星も地下に海を持っている
木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドス。
これら氷を主成分とする氷衛星のいくつかには地下に厚い氷があり、その下に“地下海”と呼ばれる凍らない海を持つことが、惑星探査機やハッブル宇宙望遠鏡による観測などから明らかになっています。
この地下海には生命が存在している可能性があると考えられている。
ただ、地下海が存在しているのは巨大ガス惑星の衛星だけではありません。
地表温度がマイナス220度と極寒の氷天体である冥王星にも地下海が存在していることが、NASAの探査機“ニューホライズンズ”の観測データから示されているんですねー
冥王星のハート型模様に見える地域の左半分は、窒素の氷河で覆われた白い巨大な盆地になっています。
この盆地が赤道付近に存在するということが示しているのは、盆地の地下の氷が薄く地下海が厚いということ。
厚い地下海が存在していなければ、この盆地は極に向かうように冥王星が回転してしまうそうです。
(左)冥王星の自転軸、赤道、軌道方向の関係。 白いハート型は赤道付近にある。 (右)地形データを元に作成された冥王星表面の高度図。 ハート型の左半分は周りよりも高度が低く盆地になっている。 |
なぜ海は凍らない?
それでは、氷衛星よりも冷たく熱源にも乏しい冥王星の地下海がなぜ凍結しないのでしょうか?
この謎について、北海道大学の研究チームは新しいアイディアを提唱。
主にメタンを閉じ込めたガスハイドレートが、地下海と氷地殻の間に存在しているとして、数値シミュレーションを行っています。
水分子でできた“かご”の中に気体分子を閉じ込めた氷のような物質がガスハイドレートです。
特にメタンを閉じ込めたメタンハイドレートは地球の海底にもあり、
天然資源として近年注目されている物質。
研究チームでは、メタンハイドレートが通常の氷と比べて、熱伝導性が悪く高い粘性を持つことに注目します。
今回のシミュレーションで用いた冥王星内部構造のモデル。 氷の厚い地殻と地下海との間にメタンハイドレート層が存在する。 |
メタンハイドレートが存在しない場合は何億年も前に地下海は完全に凍結するのですが、メタンハイドレートが存在する場合には断熱材として機能し、表面は極寒でも地下海はほとんど凍結しないことが分かります。
冥王星内部の熱・構造シミュレーションの例。 横軸は時間経過、縦軸は冥王星中心からの距離、色は温度を示す。 (左)メタンハイドレートが存在しない場合、地下海は10億年ほど前に完全に凍結してしまう。 (右)メタンハイドレートが存在する場合、地下海は凍結しない。 |
すると、メタンハイドレートが存在しない場合には100万年程度、存在する場合には10億年以上もかかることが分かります。
盆地の地下にある薄い氷の下にある厚い地下の海は、長期間維持できるようです。
地下に海を持っている天体は特徴的な大気構成をしている
地下にガスハイドレート層が存在すると考えると、もう一つ説明がつくことがあります。
それは、冥王星の大気に窒素が多く一酸化炭素が少ないこと。
メタンや一酸化炭素はガスハイドレート層に取り込まれやすく地表にあまり出ませんが、窒素分子は取り込まれにくいので表面に出てくることが出来るんですねー
ガスハイドレート層がいわば分子吸着フィルターのような役割を果たすということです。
今回、地下海の長期維持メカニズムを新たに提唱することができ、地下海を持つ氷天体が想定以上に多く存在する可能性を示すことになりました。
また、地下海の存在が大気組成を特徴的なものにし、それは観測可能なことも示すことに…
これらのことは、宇宙における海や生命の研究において重要なことになります。
地球外生命の探査という点でも大きな成果になりますね。
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