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謎の天体現象“高速電波バースト”はマグネター表面の星震で発生している? 地震とよく似ている高速電波バーストの発生メカニズム

2023年12月20日 | 宇宙 space
短時間に大量の電波パルスを発する“高速電波バースト(FRB; Fast Radio Bursts)”は、その正体やメカニズムなどに多くの謎があり、現在も研究が続いています。

今回、東京大学が発表したのは、中性子星で発生している可能性のある謎の天体現象“高速電波バースト”の謎を解明したこと。
高速電波バーストの統計的性質を調べることで、地球の地震と性質が酷似した“余震”が起きていることを発見しています。

この成果は、東京大学大学院 理学系研究科の戸谷友則教授たちの研究チームによるもの。
詳細は、英国王立天文学会が刊行する天文学術誌“Monthly Notices of the Royal Astronomical Society”に掲載されました。
図1.中性子星/マグネターのイメージ図。(Credit: ESO/ L. Calçada(出所:東大Webサイト))
図1.中性子星/マグネターのイメージ図。(Credit: ESO/ L. Calçada(出所:東大Webサイト))


短時間に強力な電波パルスを発する謎の天体現象

高速電波バーストは、マイクロ秒~ミリ秒という短時間に強力な電波パルスを発する天体現象で、数十億光年もの彼方で発生していると考えられています。
ただ、その起源となる天体の正体や発生のメカニズムは未だ分かっていません。

2007年の発見以降、600個以上が検出されていて、そのうちの50個ほどは繰り返してバーストを起こす“リピーター”だとされ(それ以外がリピーターとなるかどうかは分かっていない)、中にはすでに数千回も検出されている活発な高速電波バースト源もいくつかあります。

起源天体の候補として上がっているのは、中性子星(※1)やマグネター(※2)、巨大ブラックホールなどなど…
その中でも、高速電波バーストと関連が深いとされるのが、宇宙最強の磁気を持つ中性子星“マクネター”です。

周期的なパルスを発する中性子星“パルサー”(※3)も強い磁気を持っていますが、マグネターは通常のパルサーの100倍以上、100億テスラ(地磁気は0.00003~0.00006テスラ)という強力な磁気を帯びていることが特徴です。

マグネターでは時折、ガンマ線やX線のフレアが観測されていて、高速電波バーストの検出例もあります。
※1.中性子星は、太陽の10~30倍程度の恒星が、一生の最期に大爆発した後に残される宇宙で最も高密度な天体。主に中性子からなる天体で、ブラックホールと異なり半径10キロ程度の表面が存在し、そこに地球の約50万倍の質量が詰まっていている。一般に強い磁場を持つものが多い。

※2.マグネター(磁石星)は中性子星の一種で、10秒程度の自転周期を持つ、主にX線で輝く天体。100億テスラ以上の超強磁場を持つと推定されていて、磁気エネルギーを開放することで輝くと考えられている。

※3.パルサーは中性子星の中でも、規則正しいパルス状の可視光線や電波が観測される“天然の発振器”と言える天体。多くが超高速で自転していて、地球から観測すると非常に短い周期で明滅する規則的な信号がとらえられるので、パルサーと呼ばれている。パルス状の信号が観測されるのは、パルサーからビーム状に放射されている電磁波の向きが、自転とともに変化しているからだと考えられている。


高速電波バーストと地震の類似点

マグネターによる高速電波バーストの発生メカニズムの詳細は不明です。
ただ、有力とされる説はあるんですねー

それは、強い磁気エネルギーが徐々にマグネター内部から浮上してきて、それが表面を覆う固体地殻を歪め、そこに蓄積されたエネルギーがある時突然、星震(地震)によって解放されるというものです。

そのため、地球で起きる地震や太陽フレアとの類似性が、これまで議論されてきました。

そこで、今回の研究で注目したのは、1つの中性子星で発生している多数の高速電波バーストの発生時刻の統計的性質でした。

まず、最も活動的な3つの高速電波バースト源から検出された7000回弱のバーストの発生時刻と、それらのエネルギーの間に相関があるかを調査。
これには、数学的手法の“二点相関関数”を適用しています。

その結果、1つのバーストが発生した直後は、関連した余震のバーストが起きやすくなっていることが判明。
また、余震の起きやすさ(頻度)が、経過時間のべき乗(1/tp)で減衰することも確認されました。

余震の頻度が、このように変化することは地球の地震でよく知られていて、世界的に“大森法則”または“大森・宇津法則”と呼ばれています。
図2.高速電波バースト及び地震の発生時刻とエネルギーの分布の一例(エルグはエネルギーの単位で1erg=1/107J)。下側はこれらを解析して得られた相関関数、つまり“余震の起こりやすさ”を、前のイベントからの経過時間の関数で示したもの。どちらの現象でも、1つの現象の継続時間(高速電波バーストは数ミリ秒、地震は数分)より長い時間領域で、直線的に右下がりになっている。これは余震の頻度が時間差tのべき乗(1/tp)で減衰していることが示されている。高速電波バーストと地震で、この性質がよく似ていることが分かる。(出所:東大Webサイト)
図2.高速電波バースト及び地震の発生時刻とエネルギーの分布の一例(エルグはエネルギーの単位で1erg=1/107J)。下側はこれらを解析して得られた相関関数、つまり“余震の起こりやすさ”を、前のイベントからの経過時間の関数で示したもの。どちらの現象でも、1つの現象の継続時間(高速電波バーストは数ミリ秒、地震は数分)より長い時間領域で、直線的に右下がりになっている。これは余震の頻度が時間差tのべき乗(1/tp)で減衰していることが示されている。高速電波バーストと地震で、この性質がよく似ていることが分かる。(出所:東大Webサイト)
さらに、あるバースト/地震の後、余震の発生確率が10~15%という点も、高速電波バーストと地震で共通していました。

高速電波バーストや地震の活動性は変動していて、活動性の高い時期は多くのバーストや地震が起きます。
でも、これらの余震が起こる確率は、どちらの現象でも普遍的で、常に安定して同じ確率で起きていることも分かりました。

また、あるバースト/地震とそれに続く余震の間には、エネルギーの相関は見られないことも共通していました。

唯一異なっていたのは、大森法則のべき指数pの値が高速電波バーストで2程度、地震で1程度という点だけ。
これだけ多くの類似点が偶然の一致で生じたとは考えにくく、2つの現象の間には本質的な共通点があることを示唆しています。

一方で、太陽フレアにも同じ解析を実施してみると、高速電波バーストや地震とは全く異なる結果が得られました。

これは、中性子星表面や地球の地殻が固体であるのに対して、太陽表面が流体である点が理由として考えられます。

今回の研究により、余震の性質については、高速電波バーストと地震の間に大きな類似性が見られるのと同時に、太陽フレアとは明確に異なることが判明しました。

このことは、高層電波バーストの発生メカニズムが、地震によく似たものであることを強く示唆しています。
ここまで具体的に地震との類似性を示す他の天文現象は無く、高速電波バーストの起源を解明する上で強力な手掛かりとなるはずです。

また、リピーター高速電波バーストの観測データは、今後も増加していくことが期待されています。
なので、より多くの高速電波バースト源からのバーストデータを今回の手法で解析すれば、高速電波バーストの余震の性質の普遍性や高速電波バーストの他の性質との関連を調べることができ、高速電波バースト現象の理解をさらに深められる可能性があります。

また、地震の余震の起きやすさの大森法則は、地球の地殻の物理的性質や破壊プロセスに関連していると考えられています。

例えば、大森法則のp値の違いを理論モデルと比較検討することで、中性子星の固体地殻の物理的性質に関する情報を引き出せる可能性があります。

中性子星の内部は、宇宙で最も高密度に物質が凝縮している場所です。
なので、原子核物理学など、物理学の基礎理論の検証という観点でも重要となるものです。

今後、この研究を進めることで、高速電波バーストを使って中性子星の内部物質を探るという、新たな可能性も見えてきますね。


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