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どの恒星の周りも公転していない自由浮遊惑星に連星は存在する? 候補の一つ“JuMBO 24”で観測データを得ることに成功

2024年03月12日 | 宇宙 space
どの恒星の周りも好転していない“自由浮遊惑星”は、どのように誕生するのでしょうか?

これまでの理論では、惑星系内に破壊的な力学が働いた結果だと考えられてきました。
でも、その場合には自由浮遊惑星は単独で存在することになるはずです。

今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測で2023年に発見されたばかりの連星関係にある自由浮遊惑星の候補、全42組を“カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)”で観測しています。

その結果、唯一“JuMBO 24”の観測に成功し、連星関係の自由浮遊惑星だという追加の証拠が得られることになります。
このような連星関係にある自由浮遊惑星の誕生は、これまでの形成論ではうまく説明できないので、興味深い観測対象として注目されています。
この研究は、メキシコ国立自治大学のLuis F. Rodriguezさん、Laurent Loinardさん、そしてLuis A. Zapataさんの研究チームが進めています。
図1.連星の自由浮遊惑星“JuMBO 24”のイメージ図。(Credit: Gemini Observatory & Jon Lomberg)
図1.連星の自由浮遊惑星“JuMBO 24”のイメージ図。(Credit: Gemini Observatory & Jon Lomberg)


恒星の周りを公転していない惑星

惑星というと、太陽のような恒星(主星)を中心として公転している天体をイメージするかもしれません。
でも実際には、恒星など特定の天体の周りを公転していない惑星が、いくつも見つかっています。
これらは“自由浮遊惑星(Free-Floating Planet)”と呼ばれています。

自由浮遊惑星も、元は恒星の周りを公転する惑星として誕生したと考えられています。
でも、惑星同士が極端に接近して公転軌道が乱されると、一部の惑星は恒星の重力を振り切って放浪し始めると考えられています。
このことから、自由浮遊惑星には“はぐれ惑星(Rouge Planet)”という別名もあります。

このような破壊的な重力相互作用を経験する惑星からは、衛星や伴星が外されてしまうので、自由浮遊惑星に連星は存在しないと考えられています。

もし、連星同士の距離が近い場合には、低確率で連星関係を保ったまま存在する可能性もあります。
でも、そのような接近した連星を観測によって見分けることは、現状では不可能と考えられていました。

これらの理由から、現状では自由浮遊惑星の連星を見つけることは、できないと考えられています。


連星関係にある自由浮遊惑星の観測に成功

2023年のこと、ヨーロッパ宇宙機関のSamuel G PearsonさんとMark K McCaughreanさんは、連星の可能性がある自由浮遊惑星の候補“JuMBO”(※1)を42組も発表しました。
※1.直訳すれば二重木星質量天体を意味するJupiter Mass Binary Objectの略になる。
これらの候補は、元々ハッブル宇宙望遠鏡によるオリオン座のトラペジウムの観測データの中に、予備的な候補として存在していたもの。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で追加観測を行うことで発見され、有力候補に挙がりました。
図2.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測された“JuMBO”の一例(JuMBO 24)。見た目には連星に見え、木星の数倍程度の質量を持つことが示唆されているが、実際に連星かどうかは決定的ではない。(Credit: Samuel G Pearson & Mark J McCaughrean, arXiv (2023) 図3よりトリミング)
図2.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測された“JuMBO”の一例(JuMBO 24)。見た目には連星に見え、木星の数倍程度の質量を持つことが示唆されているが、実際に連星かどうかは決定的ではない。(Credit: Samuel G Pearson & Mark J McCaughrean, arXiv (2023) 図3よりトリミング)
42組のうち2組は三重連星の可能性もあり、その全てが数十億キロ~数百億キロ離れた連星関係にあると推定されています。

ただ、どの連星候補も現時点では発見が決定的とは言えないので、追加の観測が必要でした。

そこで、今回の研究で実施しているのは、“カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)”を用いた“JuMBO”の追加観測でした。
その結果、唯一“JuMBO 24”についての観測データを得ることに成功しています。
図3.今回観測を行た“カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)”。(Credit: NRAO, AUI & NSF)
図3.今回観測を行た“カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)”。(Credit: NRAO, AUI & NSF)
“JuMBO 24”は、2つの自由浮遊惑星のそれぞれが木星の11.5倍程度の質量を持ち、互いに42億キロ離れていると推定されています。
2023年の研究で挙げられた42組の“JuMBO”の中で、“JuMBO 24”は最も合計質量が重く、また地球からの距離が最も近いという性質を持っていました。
ただ、この性質が唯一観測に成功した理由なのかどうかは、現時点では分かっていません。

“カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)”による電波観測のデータを分析した結果、“JuMBO 24”の方向には2つの電波源があり、確かに2つの天体が存在することが示されました。
このことから、“JuMBO 24”は連星関係にある自由浮遊惑星の可能性が高いことになります。
図4.“カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)”による“JuMBO 24”の観測結果。青色が濃いほど電波が強く、わずかに縦長なのは、実際には2つの電波源に分離できることを示している。白い四角はジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による“JuMBO 24”の位置。(Credit: Luis F. Rodríguez, Laurent Loinard & Luis A. Zapata.)
図4.“カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)”による“JuMBO 24”の観測結果。青色が濃いほど電波が強く、わずかに縦長なのは、実際には2つの電波源に分離できることを示している。白い四角はジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による“JuMBO 24”の位置。(Credit: Luis F. Rodríguez, Laurent Loinard & Luis A. Zapata.)
でも、連星の自由浮遊惑星の存在は、これまでの形成論では予言されていないので、“JuMBO 24”の存在は大きな謎と言えるんですねー
その謎を解明する上でも“JuMBO 24”は興味深い観測対象と言えます。

一方、なぜ他の候補天体は観測できなかったのでしょうか?
その理由は、単に実在しないからという可能性もありますが、観測波長の違いが原因となっているのかもしれません。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は赤外線領域で、“カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)”は電波領域で観測を行います。
電波での観測は、他の波長と比べて解像度が低いので、電波ではノイズと区別ができずに見えないだけという可能性もあります。
他の連星候補が観測できなかった理由については、今後の追加観測で明らかになるはずです。

連星を成しているという点以外にも“JuMBO 24”には謎がありました。

例えば、“JuMBO 24”から放出される電波の強さは、赤外線放射から予測される自由浮遊惑星の電波放射よりもずっと高い値を示していました。
電波放射が強いのは連星が理由なのか、それとも他の性質が関係しているのかは、まだ分かっていません。

また、“カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)”とジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の間の観測波長である、ミリ波やサブミリ波で観測する“アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array = ALMA:アルマ望遠鏡)”の観測データの分析では、“JuMBO 24”を含むすべての“JuMBO”が見つかりませんでした。

見つからな型理由は、単純に観測データの精度不足の可能性があるので、将来の観測では興味深いデータが得られるかもしれません。
これからの観測が待たれますね。


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