これまで、天文学者たちの頭を悩ませてきたことがあります。
それは、銀河内の物質の密度が中心から外縁に向かって一定の割合で減少していること。
このことは、銀河によって年齢や形状、大きさ、星の数が様々なことを考えると、不可能に思える現象でした。
この謎を解くため、今回の研究では星とダークマターが互いに影響し合い、規則的な質量構造を作り出しているという説を立てています。
でも、この説を裏付けるメカニズムは、これまで発見されていませんでした。
そこで研究チームは、チリの超大型望遠鏡“VLT”を用いて22個の銀河を詳細に観測。
銀河の質量構造におけるダークマターと星の分布の関連性を調査しています。
その結果、質量密度の類似性は銀河自体ではなく、天文学者が銀河を測定しモデル化する方法に起因することが分かってきます。
銀河全体の質量密度プロファイルは、星の質量構造とは無関係に、ダークマターの量と強い相関を持つことも明らかになりました。
どうやら、過去の単純化されたモデルでは、銀河の複雑さをとらえきれていなかったため、誤った測定結果が得られていたようです。
本研究により、銀河の進化におけるダークマターの役割について、新たな知見が得られるかもしれません。
なぜ多くの銀河で質量密度の減少の仕方が類似しているのか
宇宙に存在する銀河は、その中心部に星が密集するバルジ、それを取り巻く円盤状のディスク、そして銀河全体を包み込むように広がるダークマターハローという、大きく分けて3つの構造から成り立っています。
これらの構造は、銀河の形成と進化の歴史を理解する上で重要なカギを握っています。
でも、その質量分布、特にダークマターの分布については、まだ多くの謎が残されていました。
約25年前のこと、天文学者たちは銀河の形態や進化の歴史が大きく異なるにもかかわらず、その質量プロファイル、すなわち中心部から外縁部にかけての質量密度の減少の仕方が、多くの銀河で驚くほど類似しているという不可解な現象に気付きます。
この謎に対する一つの解釈として提唱されたのが、“バルジ―ハロー共謀”と呼ばれる仮説でした。
この仮説が指摘しているのは、ダークマターと星の分布が互いに説明のつかない方法で相互作用し、補完し合うように調整されていること。
これにより、規則的な質量構造が生まれているというものでした。
でも、この“バルジ―ハロー共謀”が具体的にどのようなメカニズムで実現されているのかは不明量なので、仮説の域を出ていません。
銀河の質量分布の精密な解析
この“バルジ―ハロー共謀”仮説を検証するため、今回の研究で用いているのは南米チリのパラナル天文台(標高2635メートル)に建設された超大型望遠鏡“VLT”。
研究チームは、“MAGPI; Middle Ages Galaxy Properties with Integral field spectroscopy”サーベイと呼ばれるプロジェクトで取得されたデータを用いて、銀河の質量分布の精密な解析を行っています。
このサーベイは、宇宙の“中世”に当たる赤方偏移z~0.3(※1)の銀河を観測対象としていて、“VLT”に搭載された3次元分光装置“MUSE; Multi Unit Spectroscopic Explorer”が用いられています。
このため、銀河の運動を詳細に調べることが可能となり、これまでの観測では解明が難しかった銀河の内部構造を明らかにする強力なツールとなっています。
解析に用いられたのは、MAGPIサーベイで観測された銀河のうち22個のデータ。
銀河の重力ポテンシャルと星の軌道を計算することで、銀河の質量分布を詳細に推定する手法ににより解析を実施しています。
これまでのジーンズモデルでは、銀河の形状を軸対象と仮定したり、軌道構造に関する制約が大きすぎるなどの問題点がありました。
一方、シュヴァルツシルト軌道モデルでは、銀河の形状をより現実に近い三軸不等楕円体として扱うことができ、軌道構造についてもより自由度の高いモデリングが可能となっています。
質量分布は銀河の形成や進化の歴史によって大きく異なる
MAGPIサーベイのデータとシュヴァルツシルト軌道モデルを用いた解析の結果、銀河の質量分布は、これまで考えられていたほど均一ではなく、ダークマターの分布も銀河によって大きく異なることが明らかになりました。
銀河によって大きく異なっていたのは、ダークマターの密度が星の密度を上回る半径“クロスオーバー半径”でした。
ある銀河では、クロスオーバー半径は銀河の明るさの半分を含む半径“有効半径”よりも内側に位置しているに対し、別の銀河ではクロスオーバー半径が10有効半径以上も外側に位置しているケースも確認されています。
このことから、“ダークマターと星の分布が互いに補完し合うように調整されている”という“バルジ―ハロー共謀”は否定。
“銀河の質量分布、特にダークマターの分布は、銀河の形成や進化の歴史によって大きく異なる”ことが示唆されました。
ダークマターハローが銀河の質量分布に与える影響
本研究では、ダークマターハローの質量分布を記述するため、“NFW; Navarro-Frenk-White”プロファイルと呼ばれるモデルを用いています。
これは、ダークマターハローの質量密度が中心から一定の法則に従って減少していくことを表すモデルで、その形状は銀河の進化や環境によって変化すると考えられています。
これまでの研究では、ダークマターハローの形状を平均的なものと仮定することで、銀河の質量分布を単純化しようとする試みもありました。
でも、今回の研究結果が示すように、ダークマターハローの形状は銀河によって大きく異なっていて、単純化されたモデルでは銀河の質量分布を正確に記述できないことが明らかになりました。
また、本研究では銀河の質量密度プロファイルの傾き、すなわち中心部から外縁部にかけての質量密度の減少の度合いも、銀河によって大きく異なることが明らかになっています。
これは、“バルジ―ハロー共謀”仮説が前提としていた点、質量密度プロファイルの傾きがある程度均一であることと矛盾するものです。
質量密度プロファイルの傾きは、総質量密度プロファイルの傾き(γtot)と星の質量密度プロファイルの傾き(γ*)に分けて考えることができます。(※2)
この値は、“バルジ―ハロー共謀”仮説が予測する結果とは反対で、ダークマターハローが銀河の質量分布に与える影響は、単純な共謀関係では説明できないことを示唆しています。
そこで、研究チームが指摘しているのは、質量密度プロファイルの傾きのバラつきが、銀河の形成史や環境、特にダークマターハローの形成過程の違いを反映している可能性があること。
例えば、銀河同士の合体や銀河団のような高密度環境における銀河間相互作用は、ダークマターハローの形状や質量分布に影響を与え、ひいては質量分布プロファイルの傾きにも影響を与える可能性があります。
本研究では、他にも以下のような重要な知見が得られています。
ダークマターの占める割合
有効半径内のダークマターの質量割合(fDM(r<Re))の平均値は10%、標準偏差は19%と報告されています。
この値は、局所宇宙の銀河サーベイ“MaNGA”の結果と類似していますが、“SAMI”サーベイの結果よりも低い値となっています。
この違いは、観測対象となった銀河のサンプルの違いや、質量推定に用いられた手法の違いなどが影響している可能性があります。
例えば、“SAMI”サーベイでは本研究よりも多くの銀河が観測されていますが、質量推定にはジーンズモデルが用いられています。
銀河の形状と軌道構造
シュヴァルツシルト軌道モデルを用いることで、銀河の三次元的な形状と、その内部における星の軌道構造を詳細に調べることが可能になりました。
本研究で解析対象となった22個の銀河のうち、わずか3個だけが真に扁平な形状(扁球形)で、残りの銀河は程度の差こそあれ全てが三軸不等楕円体であることが明らかになっています。
さらに、明らかになったのは、銀河の形状と軌道構造の間には密接な関係があること。
扁平な銀河は回転運動が支配的であるのに対し、より複雑な形状を持つ銀河ではランダムな運動をする星が多い傾向が見られました。
これは、銀河の形成過程におけるダークマターの重力相互作用が、星の軌道運動に影響を与えていることを示唆しています。
ジーンズモデルとシュヴァルツシルト軌道モデルの比較
同じ銀河の質量分布を、ジーンズモデルとシュヴァルツシルト軌道モデルを用いて推定した場合、その結果に無視できない差が生じるケースが確認されています。
これは、これまでのジーンズモデルに基づく研究では、銀河の質量分布、特にダークマターの分布が最小評価されていた可能性を示唆しています。
銀河の質量分布を推定する上で簡便で広く用いられてきた手法がジーンズモデルです。
でも、ジーンズモデルは銀河の形状を軸対象と仮定したり、軌道構造に関する制約が大きすぎるなどの問題点がありました。
一方、本研究で用いられたシュヴァルツシルト軌道モデルは、より現実に近い銀河のモデリングが可能で、より正確な質量分布の推定を可能にします。
今回の研究は、“バルジ―ハロー共謀”仮説を否定し、銀河の質量分布、特にダークマターの分布が銀河によって大きく異なることを示しました。
でも、銀河の形状や進化の歴史が、具体的にどのようにダークマターハローの形状や質量分布に影響を与えるのか、その詳細なメカニズムは未解明のままです。
今後、より多くの銀河の観測データを取得し、シュヴァルツシルト軌道モデルのような高精度な解析手法を用いることで、ダークマターハローの形状と銀河の進化の関係を、より詳細に解明していくことが期待されます。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡のような次世代の観測装置を用いれば、より遠方(初期)の宇宙に存在する銀河を観測することが可能になります。
初期宇宙の銀河の質量分布を調べることで、ダークマターハローがどのように形成され、銀河の進化にどのように関わってきたのかを解明する上で重要な手掛かりが得られるはずです。
こちらの記事もどうぞ
それは、銀河内の物質の密度が中心から外縁に向かって一定の割合で減少していること。
このことは、銀河によって年齢や形状、大きさ、星の数が様々なことを考えると、不可能に思える現象でした。
この謎を解くため、今回の研究では星とダークマターが互いに影響し合い、規則的な質量構造を作り出しているという説を立てています。
でも、この説を裏付けるメカニズムは、これまで発見されていませんでした。
そこで研究チームは、チリの超大型望遠鏡“VLT”を用いて22個の銀河を詳細に観測。
銀河の質量構造におけるダークマターと星の分布の関連性を調査しています。
その結果、質量密度の類似性は銀河自体ではなく、天文学者が銀河を測定しモデル化する方法に起因することが分かってきます。
銀河全体の質量密度プロファイルは、星の質量構造とは無関係に、ダークマターの量と強い相関を持つことも明らかになりました。
どうやら、過去の単純化されたモデルでは、銀河の複雑さをとらえきれていなかったため、誤った測定結果が得られていたようです。
本研究により、銀河の進化におけるダークマターの役割について、新たな知見が得られるかもしれません。
この研究は、マッコリ―大学のASTRO 3D研究者であるCaro Derkenne博士を中心とした研究チームが進めています。
本研究の詳細は、天文学と天体物理学の研究を取り扱う査読付きの学術雑誌“Monthly Notices of the Royal Astronomical Society(王立天文学会月報)”に“The MAGPI survey: evidence against the bulge–halo conspiracy”として掲載されました。DOI:10.1093 / mnra / stae1836
本研究の詳細は、天文学と天体物理学の研究を取り扱う査読付きの学術雑誌“Monthly Notices of the Royal Astronomical Society(王立天文学会月報)”に“The MAGPI survey: evidence against the bulge–halo conspiracy”として掲載されました。DOI:10.1093 / mnra / stae1836
図1.超大型望遠鏡“VLT”がとらえた画像の一つ。大質量銀河が群れを成している様子が写っている。中心にある銀河は、それぞれ太陽の約1250億倍の質量を持つ(ダークマターを含む)。(Credit: Trevor Mendel, ANU) |
なぜ多くの銀河で質量密度の減少の仕方が類似しているのか
宇宙に存在する銀河は、その中心部に星が密集するバルジ、それを取り巻く円盤状のディスク、そして銀河全体を包み込むように広がるダークマターハローという、大きく分けて3つの構造から成り立っています。
これらの構造は、銀河の形成と進化の歴史を理解する上で重要なカギを握っています。
でも、その質量分布、特にダークマターの分布については、まだ多くの謎が残されていました。
約25年前のこと、天文学者たちは銀河の形態や進化の歴史が大きく異なるにもかかわらず、その質量プロファイル、すなわち中心部から外縁部にかけての質量密度の減少の仕方が、多くの銀河で驚くほど類似しているという不可解な現象に気付きます。
この謎に対する一つの解釈として提唱されたのが、“バルジ―ハロー共謀”と呼ばれる仮説でした。
この仮説が指摘しているのは、ダークマターと星の分布が互いに説明のつかない方法で相互作用し、補完し合うように調整されていること。
これにより、規則的な質量構造が生まれているというものでした。
でも、この“バルジ―ハロー共謀”が具体的にどのようなメカニズムで実現されているのかは不明量なので、仮説の域を出ていません。
銀河の質量分布の精密な解析
この“バルジ―ハロー共謀”仮説を検証するため、今回の研究で用いているのは南米チリのパラナル天文台(標高2635メートル)に建設された超大型望遠鏡“VLT”。
研究チームは、“MAGPI; Middle Ages Galaxy Properties with Integral field spectroscopy”サーベイと呼ばれるプロジェクトで取得されたデータを用いて、銀河の質量分布の精密な解析を行っています。
このサーベイは、宇宙の“中世”に当たる赤方偏移z~0.3(※1)の銀河を観測対象としていて、“VLT”に搭載された3次元分光装置“MUSE; Multi Unit Spectroscopic Explorer”が用いられています。
※1.膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移(記号z)の度合いを用いて算出されている。
“MUSR”の特徴は、1ピクセルごとにスペクトルが取得できることにあります。このため、銀河の運動を詳細に調べることが可能となり、これまでの観測では解明が難しかった銀河の内部構造を明らかにする強力なツールとなっています。
解析に用いられたのは、MAGPIサーベイで観測された銀河のうち22個のデータ。
銀河の重力ポテンシャルと星の軌道を計算することで、銀河の質量分布を詳細に推定する手法ににより解析を実施しています。
これまでのジーンズモデルでは、銀河の形状を軸対象と仮定したり、軌道構造に関する制約が大きすぎるなどの問題点がありました。
一方、シュヴァルツシルト軌道モデルでは、銀河の形状をより現実に近い三軸不等楕円体として扱うことができ、軌道構造についてもより自由度の高いモデリングが可能となっています。
質量分布は銀河の形成や進化の歴史によって大きく異なる
MAGPIサーベイのデータとシュヴァルツシルト軌道モデルを用いた解析の結果、銀河の質量分布は、これまで考えられていたほど均一ではなく、ダークマターの分布も銀河によって大きく異なることが明らかになりました。
銀河によって大きく異なっていたのは、ダークマターの密度が星の密度を上回る半径“クロスオーバー半径”でした。
ある銀河では、クロスオーバー半径は銀河の明るさの半分を含む半径“有効半径”よりも内側に位置しているに対し、別の銀河ではクロスオーバー半径が10有効半径以上も外側に位置しているケースも確認されています。
このことから、“ダークマターと星の分布が互いに補完し合うように調整されている”という“バルジ―ハロー共謀”は否定。
“銀河の質量分布、特にダークマターの分布は、銀河の形成や進化の歴史によって大きく異なる”ことが示唆されました。
ダークマターハローが銀河の質量分布に与える影響
本研究では、ダークマターハローの質量分布を記述するため、“NFW; Navarro-Frenk-White”プロファイルと呼ばれるモデルを用いています。
これは、ダークマターハローの質量密度が中心から一定の法則に従って減少していくことを表すモデルで、その形状は銀河の進化や環境によって変化すると考えられています。
これまでの研究では、ダークマターハローの形状を平均的なものと仮定することで、銀河の質量分布を単純化しようとする試みもありました。
でも、今回の研究結果が示すように、ダークマターハローの形状は銀河によって大きく異なっていて、単純化されたモデルでは銀河の質量分布を正確に記述できないことが明らかになりました。
また、本研究では銀河の質量密度プロファイルの傾き、すなわち中心部から外縁部にかけての質量密度の減少の度合いも、銀河によって大きく異なることが明らかになっています。
これは、“バルジ―ハロー共謀”仮説が前提としていた点、質量密度プロファイルの傾きがある程度均一であることと矛盾するものです。
質量密度プロファイルの傾きは、総質量密度プロファイルの傾き(γtot)と星の質量密度プロファイルの傾き(γ*)に分けて考えることができます。(※2)
※2.総質量密度プロファイルの傾き(γtot)は、銀河のバリオン(陽子や中性子などの粒子で構成された普通の物質)成分とダークマターハローの両方の寄与を含んでいる。星の質量密度プロファイルの傾き(γ*)は星の分布にのみを表していて、ダークマターハローの影響は含まれない。
本研究では、総質量密度プロファイルの傾きのバラつき(σtot=0.30±0.03)は、星の質量密度プロファイルの傾きのバラつき(σ*=0.19±0.02)よりも大きいことが報告されています。この値は、“バルジ―ハロー共謀”仮説が予測する結果とは反対で、ダークマターハローが銀河の質量分布に与える影響は、単純な共謀関係では説明できないことを示唆しています。
そこで、研究チームが指摘しているのは、質量密度プロファイルの傾きのバラつきが、銀河の形成史や環境、特にダークマターハローの形成過程の違いを反映している可能性があること。
例えば、銀河同士の合体や銀河団のような高密度環境における銀河間相互作用は、ダークマターハローの形状や質量分布に影響を与え、ひいては質量分布プロファイルの傾きにも影響を与える可能性があります。
本研究では、他にも以下のような重要な知見が得られています。
ダークマターの占める割合
有効半径内のダークマターの質量割合(fDM(r<Re))の平均値は10%、標準偏差は19%と報告されています。
この値は、局所宇宙の銀河サーベイ“MaNGA”の結果と類似していますが、“SAMI”サーベイの結果よりも低い値となっています。
この違いは、観測対象となった銀河のサンプルの違いや、質量推定に用いられた手法の違いなどが影響している可能性があります。
例えば、“SAMI”サーベイでは本研究よりも多くの銀河が観測されていますが、質量推定にはジーンズモデルが用いられています。
銀河の形状と軌道構造
シュヴァルツシルト軌道モデルを用いることで、銀河の三次元的な形状と、その内部における星の軌道構造を詳細に調べることが可能になりました。
本研究で解析対象となった22個の銀河のうち、わずか3個だけが真に扁平な形状(扁球形)で、残りの銀河は程度の差こそあれ全てが三軸不等楕円体であることが明らかになっています。
さらに、明らかになったのは、銀河の形状と軌道構造の間には密接な関係があること。
扁平な銀河は回転運動が支配的であるのに対し、より複雑な形状を持つ銀河ではランダムな運動をする星が多い傾向が見られました。
これは、銀河の形成過程におけるダークマターの重力相互作用が、星の軌道運動に影響を与えていることを示唆しています。
ジーンズモデルとシュヴァルツシルト軌道モデルの比較
同じ銀河の質量分布を、ジーンズモデルとシュヴァルツシルト軌道モデルを用いて推定した場合、その結果に無視できない差が生じるケースが確認されています。
これは、これまでのジーンズモデルに基づく研究では、銀河の質量分布、特にダークマターの分布が最小評価されていた可能性を示唆しています。
銀河の質量分布を推定する上で簡便で広く用いられてきた手法がジーンズモデルです。
でも、ジーンズモデルは銀河の形状を軸対象と仮定したり、軌道構造に関する制約が大きすぎるなどの問題点がありました。
一方、本研究で用いられたシュヴァルツシルト軌道モデルは、より現実に近い銀河のモデリングが可能で、より正確な質量分布の推定を可能にします。
今回の研究は、“バルジ―ハロー共謀”仮説を否定し、銀河の質量分布、特にダークマターの分布が銀河によって大きく異なることを示しました。
でも、銀河の形状や進化の歴史が、具体的にどのようにダークマターハローの形状や質量分布に影響を与えるのか、その詳細なメカニズムは未解明のままです。
今後、より多くの銀河の観測データを取得し、シュヴァルツシルト軌道モデルのような高精度な解析手法を用いることで、ダークマターハローの形状と銀河の進化の関係を、より詳細に解明していくことが期待されます。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡のような次世代の観測装置を用いれば、より遠方(初期)の宇宙に存在する銀河を観測することが可能になります。
初期宇宙の銀河の質量分布を調べることで、ダークマターハローがどのように形成され、銀河の進化にどのように関わってきたのかを解明する上で重要な手掛かりが得られるはずです。
こちらの記事もどうぞ