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太陽よりも高温な恒星を公転する巨大ガス惑星を理解するにはどうすればいいのか? 比較対象になる表面温度が8000℃の褐色矮星“WD0032-317B”を発見

2023年08月22日 | 褐色矮星
極端な高温に晒された巨大ガス惑星では、大気を構成する分子が分解して、非常にエキゾチックな化学成分を示すと考えられています。

でも、このような条件が揃っている惑星が発見されたのは、これまでに1例だけだったんですねー

そこで、今回研究の対象になったのは、巨大ガス惑星ではないものの、それに非常に近い性質を持ち、約8000℃もの高温に晒された褐色矮星“WD0032-317B”でした。

8000℃と言えば太陽の表面よりも高い温度。
“WD0032-317B”の存在は、高温の惑星環境を研究する上で、良い観測対象になる可能性があるようです。
この研究は、ワイツマン科学研究所のNa'ama Hallakounさんたちの研究チームが進めています。
図1.白色矮星を公転する褐色矮星のイメージ図。白色矮星は褐色矮星よりもはるかに重いが直径は小さな天体なので、その周りをさらに大きな天体が公転しているように見える。(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center)
図1.白色矮星を公転する褐色矮星のイメージ図。白色矮星は褐色矮星よりもはるかに重いが直径は小さな天体なので、その周りをさらに大きな天体が公転しているように見える。(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center)

灼熱の木星型惑星“ホットジュピタ-”

1995年に発見された“ペガスス座51番星b”を皮切りに、極端に恒星に近い軌道を公転する巨大ガス惑星“ホットジュピタ-”が数多く発見されています。

太陽系の巨大ガス惑星である木星や土星とは違い、ホットジュピタ-は恒星からの強い放射に焙られ続けるので、蒸発した大気が流出している様子も観測されています。

また、極端な高温に晒されていることから、低温の惑星では見られない化学成分が次々に見つかっていて、興味深い対象として日夜観測と研究が行われています。

2017年に発見された“KELT-9b”は、その極端な事例の1つとして知られています。

公転軌道が恒星“KELT-9”に極めて近い上に、“KELT-9”自体が太陽よりも高温なタイプの恒星(表面温度は約9300℃)なので、“KELT-9b”の昼側の気温は約4300℃に達しています。
主星“KELT-9”からの潮汐力の影響で自転周期と公転周期が一致し、“KELT-9b”が常に主星に対して同じ面を向け続けている状態。この現象を潮汐ロック(潮汐固定)と呼ぶ。主星の近くを公転している場合など、受ける潮汐力が大きい場合に比較的よくみられる現象。月が地球に同じ面を向けているのも同じ現象。
“KELT-9b”の昼側の温度は、低温なタイプの恒星表面よりも高い温度で、これまでに知られている中では最も高温の惑星でした。

極端な高温とそれによる激しい大気循環、恒星から降り注ぐ強力な紫外線によって、“KELT-9b”は水、メタン、水素といった化学的に安定な分子ですら原子単位に分解され、通常は重すぎて大気中に現れることのないテルビウムなどの金属元素が存在しています。

そう、“KELT-9b”はホットジュピタ-が蒸発する詳しいい過程、極度の高温によって生じるエキゾチックな大気の様子、巨大ガス惑星の内部の組成を間接的に知る手段として、非常に貴重な存在と言えるんですねー

ただ、安定な分子が分解するほどの極端な環境にある惑星は、今のところ“KELT-9b”の1例しか知られていません。

これは、太陽よりも重い“KELT-9”のような恒星での惑星発見の事例がほとんどない上に、詳細な大気成分を探るための観測が難しいという技術的な困難さがあるためです。

比較できる対象の不在は、超高温の惑星の大気を研究する上で一つの障壁になっていました。

恒星になれなかった天体“褐色矮星”

今回、研究の対象になった“WD0032-317B”は惑星ではないものの、よく似た性質を持つ“褐色矮星”と呼ばれるタイプの天体です。
図2.褐色矮星とその他の天体の比較。褐色矮星は巨大ガス惑星と軽い恒星(赤色矮星)の間の性質を持つ。(Credit: MPIA / V. Joergens / WikiMedia Commons)
図2.褐色矮星とその他の天体の比較。褐色矮星は巨大ガス惑星と軽い恒星(赤色矮星)の間の性質を持つ。(Credit: MPIA / V. Joergens / WikiMedia Commons)
褐色矮星は、巨大ガス惑星と恒星の中間に属する天体で、その重さは木星の13倍から80倍あります。

褐色矮星の中心部では、重水素やリチウムの核融合反応が起こっていますが、存在量が非常に少ない原子核を素にしている反応なので、すぐに停止してしまうことに…
その後は、赤外線放射をしながらゆっくりと冷えていくことになります。

褐色矮星は高温のタイプでも表面温度は2000度未満で、なかには100℃を下回って水の雲を持つ例すらあります。
この点で、褐色矮星は巨大ガス惑星の非常に重いタイプとみなすことができます。

今回、研究対象になった褐色矮星“WD0032-317B”は、地球から約1410光年彼方に位置する白色矮星“WD00320317”をわずか2.3時間周期で公転しています。

“WE0032-317”は恒星ではなく白色矮星ですが、その表面温度は約3万7000度と推定されています。
白色矮星は、超新星爆発を起こせない太陽のような軽い恒星が赤色巨星の段階を経て進化した天体。外層からガスや塵を放出し硬い芯(コア、中心核)だけが残されたコンパクトな星で、中心部の核融合は停止している。太陽程度の質量が、地球程度の大きさに閉じ込められているので、白色矮星は強大な重力で圧縮されている。
白色矮星と褐色矮星の組み合わせは、これまでに12例しか見つかっておらず、その中でも“WD0032-317”はかなりの高温になります。

このため、“WD0032-317B”はかなりの高温と強烈な紫外線に晒されていると推定されますが、正確な環境は分かっていませんでした。

そこで、研究チームは過去の観測結果に基ずく複数のモデルを構築し、“WD0032-317B”の環境を推定しています。

最も難しかったのは、白色矮星の放射の特性を決める中心核の組成でした。
今回の研究では、“ヘリウム核(ヘリウムを主体とした中心核)”と“ハイブリッド核(炭素など様々な元素が混合した中心核)”という2つの仮定を元に計算行っています。

その結果、推定された“WD0032-317B”の昼側の気温は、ヘリウム核モデルでは7600℃、ハイブリッド核モデルでは8500℃。
この温度は、“KELT-9b”を上回り、恒星である太陽の表面温度(5500℃)よりも高いものでした。

その一方で、夜側はどちらのモデルでも約1700℃だと推定されるので、昼夜の温度差は6000℃前後もあることになります。

また、“WD0032-317B”が受ける極紫外線(非常に高エネルギーの紫外線)は、“KELT-9b”の5600倍であると推定されています。
“KELT-9b”と同様に、“WD0032-317B”も常に主星に対して同じ面を向け続ける潮汐ロック(潮汐固定)の状態にあると考えられる。
これほど極端な熱と紫外線を受ける環境では、褐色矮星自体の赤外線放射は無視できるので、“WD0032-317B”は事実上巨大ガス惑星と同等とみることが出来ます。
そう、“KELT-9b”と比較できる観察対象になり得るんですねー

“WD0032-317B”のさらなる詳細な観測は、極端な環境に置かれた巨大ガス惑星の大気成分の変化や、どのように大気が蒸発していくのかを調べるための良い指標になるはずですよ。


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