雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

実りの秋 ・ 小さな小さな物語 ( 783 )

2016-04-03 16:45:14 | 小さな小さな物語 第十四部
実質的な「秋」とはどの期間なのか、ということになれば様々な意見があるように思われますが、現在の暦でいえば、9・10・11月を指すのが一般的なようで、立秋から立冬の前日までという考え方は少数派ではないでしょうか。
しかし、実感といいますか、体感といいますか、現在のわが国の九月前半は、秋という感覚には程遠い残暑の季節のような気がします。
そう考えた場合、「秋本番」ということになれば、やはり、10月の声を聞いた頃からではないでしょうか。
ところが、その秋本番を迎えるとともに、「爆弾低気圧」とか称される、全く秋には不似合いな暴れ者がわが国のほぼ全土に暴風雨をもたらしてしまいました。特に北海道などは記録的な暴風のようで、被害のほどが心配されます。

さて、「秋」には、様々な形容語が冠せられることがよくあります。
もちろん、秋に関わらず、春・夏・冬にもそれぞれの季節感を表す表現があり、古来、私たちの先人たちの得意であり、文化の中核をなすもののように思われます。
その中でも、やはり秋は特別なように気がします。
芸術の秋、読書の秋となれば文化の香りが漂いますし、味覚の秋、食欲の秋となれば人間の本能の逞しさを感じますし、スポーツの秋となれば澄んだ大空を見上げてみたくなります。
そして、「実りの秋」となれば、私たちが農耕民族であり、営々と積み重ねた地道な努力の結実を期待し喜ぶ姿が連想されます。

「秋」という言葉は、「トキ」と読まれることがあります。重要な時期を表現する場合に使われるようで、例えば、「今こそ、危急存亡の秋である」といった具合です。
つまり、農耕を中心とした、かつてのわが民族にとっては、青物や麦などの収穫も重要とはいえ、やはり米の収穫こそが最大の関心事であり、命を繋ぐ源泉でもあったのです。
折から、米はTPPで何かと話題になることが多く、国民の米の消費は減少傾向が続いているようです。さらに言えば、わが国が農耕民族だなどと言うのは死語に近い状態にあると思われます。
それでも、「実りの秋」という言葉は、今も健在のようです。

今回の「爆弾低気圧」による被害が心配されますし、先だっての洪水など、残念ながらわが国土は自然災害に襲われる宿命を背負った地勢にあります。
災害の後始末で、芸術の秋だ、スポーツの秋だなどと浮かれておれない方も少なくないことでしょう。
しかし、これからしばらくは、秋本番の空気が爽やかで青空が美しい季節であります。そして、「実りの秋」は、言葉ばかりでなく、地道な努力に対しては、必ず「秋(トキ)」を呼んでくれることも健在だと思うのです。
スポーツも結構、読書も結構、食欲の秋はさらに結構。ただ、この季節に、刈り取ることばかり考えず、「やがて来る秋(トキ)」のために、田を耕すなり、種を蒔くことも考えたいものです。

( 2015.10.03 )



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