雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

味わう心 ・ 小さな小さな物語 ( 784 )

2016-04-03 16:43:54 | 小さな小さな物語 第十四部
季節は秋たけなわ、味覚の秋という言葉があるように、果物を始め美味しい食べ物があふれています。
果物などのように、そのまま食べる物はともかく、いくら味覚の秋といっても素材の美味しさだけで賞味できるものはそう多くないように思われます。
テレビの料理番組などで、「素材の美味しさを活かしました」などという言葉を聞くことがありますが、いつも疑問に感じるのは、その素材を活かす調理方法こそ難しいのではないかと思ってしまうのです。

「行列のできる店」とか、「B級グルメコンテスト」とか、商魂による影響も強いのでしょうが、日本人は「美味しい物」に特別弱いようです。グルメというのはフランス語だそうですから、美味しいものに拘るのは何も日本人に限ったことではないようですが、日本料理の繊細さばかりでなく、海外から伝わってきた料理や食品に対しても積極的にチャレンジしているようで、こと食べ物に関してはその守備範囲の広さと積極性に関しては、世界各国の中でもかなり上位にランクされるのではないでしょうか。

かつて、「味」を形作る素となる基本味とは、甘味・酸味・塩味・苦味の四つと考えられていて、それらの配分によってあらゆる食味を作り出すことが出来ると考えられていたようです。ところが、それだけではどうしても説明できない味があることを日本の学者が発見し、「うま味」と名付けられました。現在ではグルタミンなど多くのうま味成分が発見されています。
実際に私たちが感じる味覚には、これらの他にも、辛味や渋味やアルコール、炭酸などの働きも少なくないと考えられ、化学的な分析だけでは説明できないのではないでしょうか。
さらに言えば、温度や湿度も影響するでしょうし、食事をする相手や場所、体調や精神状態などを加えていけば、「味覚」の奥行きはどんどん深くなって行きます。

高級ホテルやレストランの食事は、多分素晴らしいものなのでしょうし、場末の、人によっては尻込みしたくなるような居酒屋や飲食店に、驚くほどの美味な料理があることも、時々耳にすることです。
それらのいずれも、きっと素晴らしい料理であり、優れた味が提供されているのでしょう。しかし、そのどちらであっても、あるいは、それ以外のあらゆる味覚を司る最大のものは、「味わう心」の状態ではないでしょうか。
そして、もしかすると、食べ物に限らず、私たちの日常の多くの場面に、この「味わう心」が少なからぬ働きをしているように思うのです。

( 2015.10.06 )



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