雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

世界記憶遺産 ・ 小さな小さな物語 ( 788 )

2016-04-03 16:38:48 | 小さな小さな物語 第十四部
世界記憶遺産を廻って、どうも面白くない話が渦巻いています。
いわゆる南京事件が中国により世界記憶遺産に登録されたことに、わが国政府はじめ多くの方々がかなり立腹のようで、ユネスコへの分担金の見直し云々といった話さえ出てきています。一方で、わが国が申請し認められたシベリア抑留に関する件については、ロシアがわが国に対して苦情を申し述べています。
いずれも、戦争から引き起こされた悲劇であって、「真実」というものを正確に見極めることはなかなか難しいと思うのですが、七十年もの時間を経て、国家間の軋轢の原因になっているとすれば、何とも痛ましい限りです。

この件に関して、いずれの出来事も、見る角度によって違う姿を持っていることは否定することが出来ません。問題はその程度だ、という主張も分かりますが、自分の主張が認められた方には喝采を送り、認められない方には政治利用だと不満を述べ、分担金を払わないなどとごねるのは、少々格好が悪い気もします。
今回の一連のことに関するニュースや解説など聞いていますと、要は、わが国の外交力というか、交渉力の弱さが感じられてなりません。
戦後、敗戦国として国連に加盟させてもらい、必死に一員として認められようとしている努力を、結局は、分担金を多く出すことでしか示すことが出来なかった部分が、最近になって、国連やユネスコに対する分担金の不満として表面化してきているのではないでしょうか。
分担金の問題は、もっと正々堂々とした議論のもとで、公正な形に是正を求めるのであって、気に入らない意見が通ったからと言って分担金を払わないというのは、筋が違うと思います。わが国は、アメリカと同じような行動を取る力などないのですから。

そもそも、世界記憶遺産というものは、ユネスコが運営管理しているもので、世界遺産、無形文化遺産と共に、三つの遺産とされていますが、後の二つが国連の条約に基づくものであるのに対して、世界記憶遺産はユネスコによる選定により決められているので、若干メカニズムが違うわけです。
わが国では、姫路城をはじめとした世界遺産や、能や歌舞伎といった無形文化遺産に対しては、観光資源としての効果の期待もあって熱心ですが、世界記憶遺産の方は、記憶とはいっても登録されるのは文書や書物などで、今一つ地味なだけに、あまり関心を示さなかったようですから、もし政治的に利用されたのだとしても、わが国の取り組み方にも問題があったように思われます。

第二次世界大戦の敗戦国であるわが国は、残念ながら、戦争に於ける恥部に当たる部分を厳しく糾弾されることがあります。七十年を経てもなお消え去ることはなく、それらの中には、誇張されたり歪められたりしている物も少なくないはずです。公式記録や裁判記録だといっても、勝者による敗者を裁く記録が、公平なものだなどとても考えられません。
しかし、先の大戦では、わが国の国民も惨憺たる経験をしましたが、他国の人々を苦しめ傷つけたことも事実です。
今更どうすることも出来ないのですから、他国の主張に非があるのであれば、一つ一つ粘り強く真実を見つけ出し主張を積み重ねることしかないと思うのです。
同時に、「人の振り見て我が振り直せ」という言葉もあります。人の嫌がることは、たとえそれが正義だとしても、いつまでも責め続けるのは考え物だと思います。

( 2015.1018 )

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 監督の器 ・ 小さな小さな... | トップ | ラグビー日本代表チームに感... »

コメントを投稿

小さな小さな物語 第十四部」カテゴリの最新記事