雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

五節の舞姫 ・ 望月の宴 ( 118 )

2024-08-23 08:00:44 | 望月の宴 ③

     『 五節の舞姫 ・ 望月の宴 ( 118 ) 』


このようにしているうちに日が過ぎて、五節の舞姫が二十日に宮中に参入する。
侍従宰相というのは内大臣(藤原公季・道長の叔父にあたる。)の子、実成宰相のことであろうが、舞姫の装束を中宮(彰子)がお遣わしになる。
右宰相中将(藤原兼隆・道長の従兄弟にあたる。)が、舞姫の御鬘(オンカズラ・日陰の蔓。舞姫の冠に垂らす飾り。)の下賜をお願いなさったのでお遣わしになる。そして、そのついでに、筥一双に薫物(タキモノ)を入れてお遣わしになる。心葉(ココロバ・筥の覆いの組紐の飾り。)は梅の枝をあしらっている。
今年の五節の舞姫は、互いにたいそう張り合っているとの噂である。

中宮の御座所の向かいにある東の立蔀(タテジトミ・板張りの塀。目隠しのために置かれた物らしい。)に、隙間なくずらりと灯がともされているが、その光りの中を、さりげなく参入してくる舞姫たちの様子はきまり悪そうであるが、途中で避けることの出来ない道筋なので、仕方あるまいと見受けられる。
業遠朝臣(ナリトウノアソン・東宮権亮兼丹波守。)の舞姫のかしづき(介添役、六~八人ほどが付いた。)に、錦の唐衣を着せていると大評判であるが、いかにも風変わりであるが、それはそれなりの趣向だと取沙汰されている。あまりにも着重ねていて、たおやかな身のこなしが出来ないとけなす向きもあるが、そうした非難は当世風ではないと言える。
右宰相中将も出来うる限りのことをした。樋洗(ヒスマシ・便所の清掃などにあたる下級の女。)二人の衣装を調えている姿が、いかにも田舎風だと、見る人の笑いを誘っていた。
内大臣の子息の藤宰相(実成)の舞姫は、他の人より、今少し当世風で華やかなところが勝っているように見える。かしづきが十人もいる。又廂(マタビサシ・廂の外側に設けられた部屋。孫廂。中宮の女房たちが見物している。)の御簾を下ろして、その下からこぼれ出ている衣の端々や、これ見よがしに得意顔をしている女房たちよりも見栄えがしていて、灯火の光を受けて風情深く見えた。
また、東宮亮(東宮権亮か?)の舞姫に、中宮から薫物をお遣わしになった。大きな銀製の筥にしっかりと入れられている。尾張守匡衡(藤原中清が正しい)も舞姫を出しているので、殿の上(倫子)が贈物をお遣わしになった。

その夜は、御前の試み(天皇が舞姫の舞を見る行事。)なども終り、童女・下仕御覧の儀(舞姫に付き添ってきた童女と下仕を天皇が引見する。)はどうであろうかと待ち遠しかったが、定刻の頃になると、一同そろって歩み続いて出てきたので(舞姫は孫廂に、下仕は前庭に並ぶ。)、内にも外にも目をやって騒いでいる。
帝(一条天皇)がお渡りになり御覧になる。
若宮(敦成親王)がいらっしゃったので、撤米(ウチマキ・悪霊除けのため米をまき散らす。)をして大声を挙げているようだ。
業遠の出した童女に、青い白橡(アオイシラツルバミ・襲の色目で、表が青、裏が黄。)の汗衫(カザミ・童女の上着)を着せている。すばらしいものだと思っていると、藤宰相の出した童女には、赤色(襲の色目で、表が赤、裏が二藍。)の汗衫を着せ、下仕の唐衣には青色(青い白橡と同じ。)を着せているのが対照的で憎らしいほど立派である。宰相中将の童女にも五重の汗衫を着せていて、尾張守の童女には葡萄染(エビゾメ・襲の色目で、表が蘇芳、裏が縹。)を三重にして着せている。
袙(アコメ・汗衫の下に着る物。)は、みな濃いのやら薄いのやら様々である。

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