雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

その角を曲がりますか ・ 小さな小さな物語 ( 1502 )

2022-07-25 14:46:56 | 小さな小さな物語 第二十六部

私は今『今昔物語』を勉強中ですが、この膨大な説話集は、仏教にまつわる物語が中心ですが、仏教との関連がほとんどない物語も沢山あります。
中には、かなり残酷なものや、差別的なもの、年令制限をつける必要があるのではないかと思うものも含まれています。それらを拙い訳文で紹介させていただいていることに躊躇することもあるのですが、時代背景によるものと勘弁していただくことにしています。

そうした作品の中で、「鬼」とか「妖怪」とか「妖精」といった物(?)がよく登場します。残虐な性質の持ち主もいれば、案外良い奴の場合もあります。いずれの場合でも、少なくとも平安時代の頃までは、妖怪などと人間との境界はかなり低かったのかも知れません。
「栄花物語」などでも再々登場しますが、物の怪というのも怖ろしい存在で、冷泉天皇が常に苦しめられていたという場面もあります。
崇徳天皇や菅原道真などの祟(タタ)りは特に有名ですが、古代史を学ぶにあたっては、祟りとか物の怪の存在を理解しなくては、歴史の真実に近づけないという人もいらっしゃいます。
そして、それは何も遠い祖先たちの迷信だと笑うことなど出来ないことで、現在においても、その種の様々な伝説に基づく遺跡は存在し祀られています。有名な物では、平将門の首塚とされるものは、綿々と引き継がれていて、今では東京都のど真ん中ともいえる千代田区大手町に立派な石碑になって祀られています。

さて、そうした鬼や妖怪や精霊たちは、時と場所を選ばずに現れるかといえば、必ずそうではなく、大体決まった条件下に姿を見せるようです。昼よりは夜、喧騒地より静かな所、水辺なども好まれるようです。
そして、案外以外なのは、道路にもよく出現するようで、百鬼夜行といわれる百人にも及ぶ鬼の団体は、都大路などを真夜中に堂々と行進しているそうです。
また、道の中でも交差点、つまり四つ辻、あるいは三叉路なども妖怪や精霊に好まれる場所のようです。この傾向は、わが国に限ったことではなく、他国の伝承などでも四つ辻に絡む妖怪や精霊がいらっしゃるようです。

ところで、現代に生きる私たちは、都大路や高速道路上に百鬼夜行の一団を見たという情報に接することは、まあ、ないでしょう。
しかし、真夜中に、田舎道の、それも細い曲がりくねった道で、両側は雑草地のような所で、さらに墓地でもあれば、一人で歩くのは少々勇気がいります。そうかといって、妖怪や精霊は簡単に姿を見せてはくれないでしょうし、鬼となれば、人間の方が遙かに性悪であることを知ってしまったのか、滅多に現れないものです。
ただ、その一人で歩かなければならない道が、人生という道であったとした場合は、どうでしょうか。少々曲がりくねっていても一本道であれば、速度はともかく進む方向に困ることはありません。しかし、三叉路や四つ辻に行き着いたとすれば、難しく苦しい判断を迫られます。
「ああ、あの時、反対側の道を選んでいたら」と、甘酸っぱい思いと共に、取り返すことの出来ない時の流れを感じることもあるかもしれません。
さあ、あなたは、その角を曲がりますか・・・。

( 2022.01.20 )


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