雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

ご破算で願いましては ・ 小さな小さな物語 ( 1501 )

2022-07-25 14:49:39 | 小さな小さな物語 第二十六部

「ご破算で願いましては・・・」
この言葉、今も元気に使われているのでしょうか。
おそらく、そろばん(珠算)を学んだことがある人であれば、読み上げ算で、先生なりリーダーなりの人が、「ご破算で願いましては」と声高く呼びかけるのに対して、緊張しながらそろばんに向かった記憶があるのではないでしょうか。
この言葉の意味は、というほど考えることもないのでしょうが、「いま、そろばん上にある数字を崩して下さい」といったものだと思うのですが、最後の部分の「は」は、「は」が正しいのか、「わ」が正しいのか、なんて考えてしまいました。まあ、文章としては「は」なのでしょうが、経験的には「わァ-」と気合いを入れられていたような気もするのです。 

時々テレビなどで、「そろばん日本一」とか「暗算の名人」といった人が紹介されることがありますが、まるで神業と表現したいような、すばらしい技術(?)を見せてくれます。
電卓が登場して以来、そろばんの出番は大幅に減少しました。おそらく、企業の事務現場では、よほど特殊な例を除けば、そろばんを常備している所はないのでしょう。
ただ、少し前から、子供の教育の一環として、そろばんの効用が見直されているそうです。
わが国にそろばんが伝えられたのは、西暦1500年より以前のようですが、現存しているそろばんで最古の物は、戦国時代の名将前田利家愛用の物(異説あり)だというのですから、案外歴史は新しいのかも知れません。
そろばん発祥の地ということになりますと、おそらく中国ということになるのでしょうが、実は、現在私たちが目にする形体とは全く違うのでしょうが、軸や玉を用いて計算するような道具は、世界中の広い地域で、それも相当古い時代から用いられていたようなのです。
つまり、私たちの文明は、戦いと共にあったと言われることが多いのですが、それと同じ程度に、そろばんが寄り添っていたのかも知れません。

「ご破算で願いましては」という言葉が古いというわけではありませんが、今風に表現すれば、「リセット」ということになるのでしょうか。
ずいぶん歯切れの良い言葉ですが、それだけ軽く感じてしまうのは私だけなのでしょうか。
例えば、ゲームなどにおいて、思い通りに行かないと思うと、その時点で「リセット」して、もう一度やり直し、また、うまく行かなければ「リセット」する。まことに安易で便利な機能です。

私たちは、日々の生活を送っている中で、他人の目にはいかにも平々凡々に見えるものであっても、時には、ここで「ご破算にすることは出来ないか」と思った経験の一度や二度はあるのではないでしょうか。
残念ながら、誰かが「ご破算で願いましては」と言ってくれるようなことはまずありません。まして、自分自身が気楽に「リセット」することなど出来るものではありません。
いかに先が見えず、挽回不可能の状態であっても、「ご破算」は叶わず、傷ついた体を嘗めながらでも自らが進むべき道筋を見つけざるを得ないのでしょう。
ただ、どのような難題であっても、完全な敗北も含めれば、解決できないことなどないはずです。そして、もしかすると、「ご破算で願いましては」の状態の時にこそ、私たちが学ぶべき何かがあるような気はするのですが・・・。

( 2022.01.17 )


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2 コメント

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Unknown (yo-サン)
2022-01-17 15:23:23
「ご破算で願いましては」
何とも懐かしい言葉です。今は昔、ソロバン学校(現在は概ね珠算教室かと)に通っていました。
読み書き・ソロバンでしたからね。小学校3年から6年まで通ったのかと。
我が町は静かな城下町ですが、当時は2ヵ所の教室がありました。

私宅は呉服商を生業としています。戦前、絹織物産地問屋がルーツです。
なので帳場には今でもソロバンがあります。四つ玉、五つ玉、勿論電卓も使ってはいますが、私はあの大きな五つ玉の弾く音がとても心地よくて好きです。
京都は室町の問屋さん辺りもずっとソロバン対応でした。計算をすると言うよりも値段交渉の大事な道具です。
盤上に入れられた値段を表す玉を互いに上下させながら交渉します。

つい由なしことを。
しかしながら、時には心の中の諸々鬱陶しいことなどは一気に「ご破算」・リセットもいいのではと思います。これは私の専門分野のカウンセリング心理学的考察です。

失礼致しました。
Let's take a coffee break 
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コメントありがとうございました (雅工房)
2022-01-17 20:18:06
yo-サンさま
子供の頃、私もかなり長い間そろばんを習いました。
このテーマは、「ご破算」という言葉だけを借りるつもりでしたが、つい懐かしくて長く書いてしまいました。
今日は、阪神淡路大震災から27年目に当たる日でした。当時、「一週間前に戻れないものか」などと思ったことが何度かなりました。現在でも、似たようなことを考えることがないわけではありませんが、「じゃあ、リセットしてやり直すか」と言われますと、それも勘弁して欲しいように思います。
いつもご教示ありがとうございます。これからも書き続けたいと思っていますので、よろしくお願いします。
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