3月22日 編集手帳
米アカデミー賞を受賞したドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」が、
日本の一部映画館で上映中止に追い込まれた8年前の騒動は記憶に新しい。
和歌山県太地町のイルカ漁を“告発”した映画で、
内容が反日的だと反発した団体が街宣活動を予告した。
しかし、
作品に批判があるのなら、
言論表現を通じて反論するのが民主主義社会の原則である。
「ザ・コーヴ」の主張に異を唱えた映画「ビハインド・ザ・コーヴ」(八木景子監督)が今、
米国の動画配信大手などを通じて世界に提供されている。
「日頃は静かな日本人が声を上げた」と注目された。
先月のロンドン・フィルムメーカー国際映画祭でも受賞作に選ばれた。
監督は作品の中でイルカ漁の批判者に、
なぜ食文化の違いを理解しないのかと疑問をぶつけていく。
「問題への個人的感情は別として、
物事には常に二つの見方があることに気づかされる」と評した海外メディアもある。
食文化から歴史認識まで様々な分野で世界への発信が問われている。
相手に真摯(しんし)に向き合い、
疑問点は鋭く突く。
人々の心に届くのは、
そんなしなやかなメッセージだろう。