2021年3月6日 読売新聞「編集手帳」
赤ちゃんはお母さんでなくとも、
誰が近づいてもかわいらしく笑う。
いわゆる「3か月微笑」は、
動けない乳児が大人に世話をしてもらうための本能だという。
気象エッセイストの倉嶋厚さんは赤ちゃんと花は似ていると書いていた。
動かずとも色、
匂いで虫や鳥を引きつけ、
花粉を運んでもらって命をつなげていくからだ。
きのう東京・神保町の古書店街に出かけたとき、
歩道のプランターにパンジーらしき花が“微笑”しているのに気づいた。
昆虫よろしく顔を近づけると、
くしゃみが出た。
はて「虫媒花(ちゅうばいか)」でも花粉を飛ばすのかと疑ったものの
スギ花粉がマスクの内に入ったせいだろうと思い直した。
スギに代表される「風媒花(ふうばいか)」は、
風まかせで首尾よく同族の花に行き着くのが難しいため、
大量の花粉をまく必要があるらしい。
植物学者の稲垣栄洋さんの例えが分かりやすい。
<顧客がどこにいるかわからず、
駅前で手当たりしだいに配るポケットティッシュと同じ>
(『植物の不思議な生き方』朝日文庫)
ふむそうか。
スギ花粉はティッシュなのかと感じ入りつつ、
きょうもティッシュが手放せない。