2021年3月4日 NHKBS1「国際報道2021」
今アメリカでアジア系の住民に対する暴行事件が相次いでいる。
新型コロナウィルスを持ち込んだのは中国人だという見方が広まり
アジア系の住民が狙われるようになったのである。
地下鉄で突然切り付けられ顔に傷を負った男性もいる。
日本人が巻き込まれるケースも急増。
偏見に基づいた犯罪
「ヘイトクライム」がアメリカに住んでいるアジア系住民に対して増えている。
ニューヨーク市によると
アジア系へのヘイトクライムの件数は
2019年にはわずか1件だったが
2020年には確認されているだけでも30件と急増している。
ジャズピアニストの海野雅威さん。
去年9月ニューヨークで暴行を受け大けがをした。
年末に日本に戻りリハビリを続けている。
事件から半年
骨折した右肩は今も自由に動かすことが出来ない。
海野さんが被害にあったニューヨークの地下鉄の駅。
夜7時半ごろ改札口付近で8人の少年たちに呼び止められた。
危険を感じ地上へと向かった海野さん。
しかし近くの公園で捕まり
全身を殴られたり体を地面にたたきつけられするなど15分にわたって激しい暴行を受けた。
当時公園には多くの人がいたが誰も止めに入らなかったという。
(ジャズピアニスト 海野雅威さん)
「なぜそんな理不尽に通りがかりの人を襲うんだということは
自分の身に起きて痛みを伴っていますから
どういうショックか言いようがない。」
13年前ジャズの本場ニューヨークに渡った海野さん。
次第に演奏が認められるようになり
グラミー賞を受賞したトップミュージシャンと共演するまでになった。
しかし新型コロナの影響で広がった差別や偏見は海野さんの人生を大きく変えた。
(ジャズピアニスト 海野雅威さん)
「チャイニーズだと言って“やってしまえ”というような声を聞きました。
私が暴行を受けてチャイニーズとか言われたときに
“ああ これなんだ”と思って。
金目当てとかじゃなくてストレス発散で
見かけたアジア人に殴りかかるとか
そういう怖さになっています。」
新型コロナウィルスを持ち込んだのは中国だという見方が広がるアメリカ。
トランプ前大統領の度重なる発言が憎しみを増幅させた。
(アメリカ トランプ前大統領)
「チャイナウィルス。」
「チャイナウィルス。」
「チャイナウィルス。」
深刻な被害が出始めたのはチャイナタウン。
そしてアジア系の住民へと被害が広がっていった。
タイから移住してきた84歳の男性は
突き飛ばされて大けがをし2日後に亡くなった。
事態を重く見たバイデン大統領。
アジア系の住民に対する差別をなくしたいと大統領令に署名した。
(アメリカ バイデン大統領)
「私たちはもうひとつの悲劇に直面している。
アジア系住民などに対するヘイトクライムだ。
これらは間違っている。
私たちの国の品性を損なう。」
差別に立ち向かおうと
アジア系の住民が団結する動きも出てきている。
2月末ニューヨークで開かれた集会には約350人が集まり
アジア系住民に対する暴力を非難した。
「私たちは無視される存在であってはならない。
声を上げるべきだ。」
(アジア系人権団体 代表)
「私たちが怒り おびえていることを広く知ってもらい助けてほしいと思います。」
警察でも異例の取り組みが始まっている。
去年8月ニューヨーク市警では
アジア系住民を狙った犯罪を専門に扱うチームが結成された。
中国や韓国などから移住してきた警察官が声を上げたのがきっかけだった。
(ニューヨーク市警 アジア系特別捜査班 隊長)
「目的は全てのアジア系住民の被害者の役に立つことです。
わざわざ“アジア人も同じ仲間だ”というメッセージを出さなければけないのは
悲しいことです。」
人種の壁を越えて連帯しようという動きは海野さんの周辺でも起きている。
ジャズドラマーのジェローム・ジェニングスさん。
2人は何度も演奏を重ねてきた間柄。
見事な音色を響かせる海野さんのことを親友だと思っていたと言う。
(ジャズドラマー ジェローム・ジェニングスさん)
「海野さんは多くのものを費やして居場所を勝ち取った。
彼は外から来て僕たちの文化に溶け込んだ。
だから尊敬しているんだ。」
ジェニングスさんは事件後
海野さんのけがの治療や今後の生活を支えるためにネットで寄付を募った。
海野さんの長年のファンや差別に反対する人たちなどから予想をはるかに上回る寄付が集まった。
(ジャズピアニスト 海野雅威さん)
「被害を受けて誰とも交流したくない心境だったのです。
そっとしておいてくれと。
だけどそれじゃいけないって声を上げてくれたのです。
私の代わりに。
私のことを愛してくれる人がこんなにいるんだと 分かったので
受けた傷は大きいですけど
それよりも大きい愛も感じているというのが心境です。」
(ジャズドラマー ジェローム・ジェニングスさん)
「アフリカ系やアジア系に憎しみが向けられたら
僕らは結束しないといけない。
何かを変えることが出来るからね。」
海野さんは医師から
ピアノを元のように弾ける保証はないと言われている。
それでも再び演奏できるようになることが差別を乗り越えることだと信じている。
(ジャズピアニスト 海野雅威さん)
「音楽で人がつながれるという
言葉関係なくつながることが出来るという実感があります。
差別をなくすためにも
私はジャズミュージシャンとして演奏活動を続けていきたい
それだけです。」