2月14日」読売新聞「編集手帳」
『銭形平次捕物控』の作者、
野村胡堂は私生活まで「刃物」を遠ざけた。
晩年の随筆に書いている。
<私は剣というものが嫌いで、
うちにも、
刃物らしい刃物は置いてない。
ナイフでさえ、
ろくに切れるものはない…
だから私は剣戟(けんげき)というものを書いたことがない。
チャンバラは私の捕物帳にはない。
人を殺すというようなバカ気たことは大嫌いである>
(「平次と生きた二十七年」)
このため平次の捕物は武具として十手を振り回すものの、
剣を受け止める使い方が主になる。
飛び道具はご存じ真ん中に穴のあいた丸い銭のみ。
映画になったほか、
大川橋蔵主演のテレビシリーズは長寿番組になった。
映画関係者はこの路線を「善良性の時代劇」と呼んだそうで、
『水戸黄門』も同じ流れかもしれない。
穏健ゆえ、
戦争を経験した昭和の人々の心に入りやすかったともいわれる。
平次も撮影された太秦撮影所のある京都市が、
振興に動くという。
時代劇に特化した映画賞を創設することになった。
令和に受け入れられる時代劇とはさて何だろう?
若い映画人の刺激になるといい。
平次超え、
黄門超えをめざそう。