10月16日 編集手帳
富士山について、
気象庁の関係者に伝わる小話がある。
山頂付近で気象を観測する職員が同窓会に出席すると、
みんなに言われた。
「景色のいい所で仕事ができて、
じつにうらやましい」
職員は頭をかきかき答えたらしい。
「しかし、
ぼくのいる所からは富士山は見えないんだよ」。
富士山といえば、
そこからの見晴らしがいかにすばらしくとも、
麓から眺める山そのものの美観に勝るものはないにちがいない。
山麓に位置する山梨県富士吉田市がきのう、
「初雪化粧宣言」を発表した。
昨年より11日早い。
7合目から山頂まで雪に覆われたことが確認されている。
気象庁が発表する初冠雪(今年は先月26日)とはやや趣旨がちがう。
美しく雪化粧をしましたよ、
というお知らせである。
内陸側からの報告だが、
歌集も出している詩人の堀口大学に次の歌があるのを思い出した。
<正面を探して置けと言い置いて天人去りし富士の山かな>。
いわれてみれば、
どこからでも富士山は富士山の姿をしている。
眺める人のいる場所こそ、
正面なのだろう。
ここ数日、
朝の空気が冷たい。
白に染まる頂が冬ちかしと告げる。