ウィーンが危機遺産に 問われる世界遺産の意義

１１月２９日　国際報道２０１７


ヨーロッパで街そのものが世界遺産に登録されている場所は６０か所以上ある。
このうち今年ユネスコの世界遺産委員会で
街の景観を壊す恐れがあるなどとして取り上げられた都市は
リバプール ザルツブルグ ウィーン ブダペスト ネセバル ベラトの６か所。
この中でも重大な危機にあると判断されたものは「危機遺産」に指定される。
リバプールは港の大規模開発計画が景観を損なう恐れがあるとして
２０１２年に危機遺産となった。
世界遺産委員会は開発計画の見直しを求めるなどの勧告を行うが
改善が見られなかった場合には世界遺産としての登録を抹消される場合もある。

２００１年に街の中心部全体が世界遺産に指定されたウィーン。
街を象徴するゴシック建築のシュテファン大聖堂。
ハプスブルグ家の栄華を伝えるホ―フブルク王宮。
ヨーロッパの９００年の歴史を今も伝える美しい街として知られている。
世界遺産に指定された地区は「歴史地区」と呼ばれ
新たに建てる建物の高さが制限されるなど
景観が保護されてきた。
しかし今年７月 ユネスコの世界遺産委員会は
ウィーンを「危機遺産」に指定した。
世界遺産としての普遍的な価値が失われる恐れがあるというのである。
原因は歴史地区の中で高さ７３ｍの高層ビルを建設する計画である。
市も全面支援していて
ホテルのほか市営のスケートリンクや多目的ホールなどが整備される。
実現すれば歴史地区の景観が大きく変わるこれまでにない計画である。
ユネスコの担当者は計画の見直しを迫るため危機遺産に指定したと言う。
（ユネスコ オーストリア　モナ・マイリッチ氏）
「国際社会に警鐘を鳴らすため
　危機遺産に登録しました。
　ウィーンの世界的・普遍的な価値が失われないためにもです。」
指定を受けて市は計画を見直すのか。
担当者からは意外な答えが返ってきた。
（ウィーン市 都市計画担当　ルドルフ・ツンケ氏）
「抹消されたら残念だが
　街の価値が変わるわけでもない。
　世界遺産から抹消されても
　ウィーンは世界の中でも美しい街の一つであり続ける。」
少子高齢化が進むウィーン市では社会保障費が年々増加している。
財政を支えるため新たな企業や富裕層を接客的に誘致する必要があると言う。
さらにあげた理由はイギリスのＥＵヨーロッパ連合からの離脱決定である。
多くの企業がロンドンからの移転を計画している今こそ
歴史地区での高層ビルの建築を許可すべきだと強調する。
（ウィーン市 都市計画担当　ルドルフ・ツンケ氏）
「ウィーンは博物館だと思われては困る。
　何千もの人が働き暮らしている。
　だから開発と歴史保存のバランスを見つけるべきだ。」
計画を止めようと署名活動を始めた市民もいる。
文化保護活動に取り組む都市景観保護団体の代表 ヘルベルト・ラージンガーさんである。
ラージンガーさんは歴史地区を一望できる丘の上に出向き
新たな企画が実現すれば景観がどう変わるのかを合成写真で再現して
一人でも多くの賛同を得ようとしている。
（都市景観保護団体　ラージンガーさん）
「こんなきれいな景色におぞましい建物なんて
　顔を殴られるようなものだ。
　市は目を覚まして許可を取り消すべきだ。
　すべてが破壊されるのだから。」
しかし市民の関心は低く
反対の署名も思うように集まらないのが実情である。
（ウィーン市民）
「市はこれまでうまくやってきたから
　今回もよく考えてのことでしょう。
　ウィーン市が世界遺産でなくなっても別に影響はないと思う。」
実際に世界遺産の登録を抹消された街もある。
ドイツ東部の都市ドレスデンである。
市の中心を流れるエルベ川と芸術の都として栄えた旧市街地が調和して
美しい風景を作り出していることが評価され
２００４年に世界遺産に登録された。
ところが市は交通渋滞を緩和するためだとして
４年前エルベ川に新たな橋を建設した。
市内の渋滞は大きく解消されたが
“景観を台無しにした”という理由で世界遺産の登録を抹消されてしまったのである。
それでも観光客は減っていない。
去年訪れた人の数は約２００万人で
年々増加する傾向にある。
評価されちるのは古い建物と新しい建物のバランス。
進化し続ける町並みが多くの観光客を呼び寄せている。
（市民）
「何の影響もないよ。
　世界遺産登録抹消の前も後も美しい街に変わりない。」
「何よりも大切なのはここに住む人たちの暮らしでしょう。」
ドレスデン市の担当者は
ウィーンが危機遺産に指定されたことで
世界遺産そのものの意義も問われていると指摘する。
（ドレスデン市 広報官　カイ・シュルツ氏）
「世界遺産に登録されるとユネスコの言いなりになってしまう。
　もしウィーンの世界遺産の登録を抹消されれば
　世界の都市は登録を望まなくなるだろう。」