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ロンドンから徒然に

2度目のフィラデルフィア美術館展

2007-10-14 | アート
 いくら急いでいる人でも、美術館に走って行くなんてことがそうそうあるもんじゃないですよね。それがアメリカのフィラデルフィア美術館では、入口への階段を駆け上る人を数多く見ます。子供もおとなもお年寄り(こちらはちょっとゆったりですが)も、男女さえ関係なくです。そして上り着いたらみんな右手を大きく突き出してポーズ!
 どうしてだか分かります?実はこのフィラデルフィア美術館の階段は、映画『ロッキー』で主役のシルベスター・スタローンがトレーニングで駆け上り、右の拳を突き上げる例のシーンが撮影された場所なのです。
 
 ロッキーはある意味アメリカン・ドリームの象徴ですが、フィラデルフィアと言えばそのアメリカがヨーロッパの植民地から独立した際に、かの有名な独立宣言が採択された土地です。1876年には独立100周年を記念してアメリカ初の万博が開催され、その時に美術展会場として使われたメモリアル・ホールがフィラデルフィア美術館の起源となり、130年を超える歴史が刻まれました。
 その間のアメリカの繁栄は個人の富をも築き、そこから現れたコレクターの寄贈で、現在の所蔵作品が潤っています。それらの富の象徴を今回日本にいる僕達が享受できるというわけです。フィラデルフィア美術館展がこの10日から東京都美術館で始まっています。

 実はこの展覧会、東京に先立って7月から9月にかけて京都市立美術館で開催されました。京都に遊びに行った時に訪ねたので、僕にとってはこれが2度目の鑑賞ですが、場所が変わり展示の仕方が変わると不思議なことに作品の印象はまた変わって見えますね。その大きささえ違って見えるから不思議です。
 さて、展示の作品は広範囲に渡り、写実主義から、印象派&ポスト印象派、キュビズムとエコール・ド・パリ、シュルレアリスム、そしてアメリカ美術と続き、各作品には分かり易い解説が添えられ、さながら質が高く体裁の良い美術の教科書という感さえあります。特筆すべきは彫刻を除く72点全てが油彩ということでしょう(ワイエスの1点だけが厳密にはテンペラでしたが)。

 “見もの”は色々ありますが、日本初公開となるルノワールの『大きな浴女』はこれまでもあまりアメリカ国外に出たことがない作品なので観ておいた方がいいでしょう。ルノワールの典型的な裸婦像のひとつに入るのでしょうが、その中でも傑作と言われるだけあって、ひと際輝いて見えます。
 その横にある8歳の少女を描いた『ルグラン嬢の肖像』の可憐な姿や髪の毛の繊細なタッチも見事ですし、近くの女学生から「カワイイ!」の声が上がっていた『アリーヌ・シャリゴ(ルノワール夫人)の肖像』には彼の愛情溢れた表現の明快さが見てとれます。この絵を生涯手元に置いていたというエピソードを聞くとなおさら感慨ひとしおです。

 またマチス・ファンの僕としては『青いドレスの女』に再び会えたのは嬉しいです。遠くからひと目でマチスと分かる赤・黄・青(プラス白・黒)のシンプルな色使いと大胆な構成。ため息が出るくらい綺麗です。
 先日観たフェルメールもそうですが、当初は色んなものが精密に描かれていたのに、その後余計なものを削ぎ落とすようにしたその過程も興味深いです。

 考えてみたら、当初ヨーロッパではアカデミーなどの権威力のせいで受け入れられなかった印象派が、アメリカで認められ人気が出たんですよね。先入観なく本能的に、好きなものを好きと思えるアメリカの単純さのおかげで、こんな素晴らしい作品群が現在に残されていると思うと、アメリカ人の性分にちょっと感謝したくなります。

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