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ロンドンから徒然に

Making Visible

2013-12-12 | アート
 谷川俊太郎の作品に「クレーの天使」という詩集があります。もう随分前に読んだきりなので、果たして記憶が合っているかは自信がないのですが、殆ど素描に近いシンプルなクレーの絵に合わせたように、全てひらがなで書かれた詩集でした。

 確か表紙になっているのは「忘れっぽい天使」。その絵のあどけなさとひらがなの柔らかさから漠然と読み進めると、誌の内容はこれがどうしてなかなかの手強さで、最初に抱いた印象は(決して悪い意味ではないですが)裏切られてしまいます。
 そして今度は詩の印象がクレーの天使に及んできて、あの幼さが実は歳を取って全てを悟りきった後に来るピュアさに見えてくるのです。

 その感覚があながち間違いではないと確信するのはずっと後のこと。これらの絵がクレーの最晩年に描かれたということ、そしてその時の彼を取り巻く環境を知ってからのことです。
 ドイツではナチスから「退廃芸術」の烙印を押されて、追放の上に預金も凍結され、さらには皮膚硬化症という難病で、手さえ自由に動かなくなった中で、この天使達を描いていたのです。その無垢な穏やかさにたどり着くまでの心の動きを思うと、詩がさらに深い意味を持ってきます。



 今テート・モダンで大々的なクレーの回顧展が行われています。展示の中心となっているのはバウハウス時代のもので、この天使達にはお目にかかれなかったのですが、ずっと絵の近くにいるような気がしていました。

 展覧会のタイトルは「Making Visible」。
 アートは目に見えるものを再現するのではなく、見えないものを見えるように描くのだ、というクレーの言葉から取られています。
 今、色んな意味で僕にとっては深い言葉です。

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