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ロンドンから徒然に

絵のモデル

2012-05-15 | アート
 昔フェルメールの話をしても誰も知っている人がいなかったくらいなのに、このところの日本での人気といったらどうでしょう。
 いつ頃から美術ファンだけでなく一般の人にまで知れ渡る“常識”となったのかと考えると、やっぱり2000年に大阪市立美術館で行われた《フェルメールとその時代》展の影響が大きかったんじゃないかと思います。
 何しろ日本で初めて公開された1968年から前年までの30年余りの間に、重複を除くと4点しか来ていなかった彼の作品を、一気に5点も見る機会ができたわけですからマスコミも放っておきません。

 ただ、僕が個人的にはけっこうこれも大きな理由じゃないかなと思っているのは、その5点の中に《真珠の耳飾りの少女》が含まれていたからということ。
 愛される絵というのはそのモデルに負うところも大きいと思いません?あの絵の中の少女に魅せられた人は相当多いと思います。

 さて、その観点からルシアン・フロイドの絵を見ると……
 以前もこのブログで取り上げたことがありますが、かつて存命画家の作品として史上最高値の3,400万ドルを付けたこともあって、誰もが思い浮かべるのはこの絵ではないでしょうか?『Benefits Supervisor Sleeping 眠る給付金管理者』。フェルメールの少女と比べることがいいかどうかはともかく、こちらもある意味皆に愛されている作品には違いありません。



 今National Portrait Galleryで開催中の展覧会《LUCIAN FREUD PORTRAITS》で、この絵を含む彼のポートレート約130点を見ることができます。寂しいのは、既に“存命画家”と言えなくなったことですね。



 通路まで含めると10に分かれたスペースで、1940年の作品から昨年亡くなる直前まで描かれていたと思われる作品まで、70年にも及ぶ彼のキャリアを堪能することができます。
 特に件の作品が展示されているスペースには、他にも彼女を描いた作品の幾つかと、男性としてはおそらくこちらも皆に知られているLeigh Boweryの肖像画があり、それら等身大の大きさの絵がこちらを威圧してくる様子は圧巻です。いや、本当に恐いくらい。

 フロイド自身は何かのインタビューで、自分は空想で絵を描くことは出来ず、目の前に見た実物だけを描く、と言っていますが、その“実物”というのは単に目に見えるものではなく、その内面まで入り込んだその人物の真理、真実みたいなもの。だから見ているこちら側も、逆に自分の内面が見透かされているみたいでちょっとおののいてしまうのかも。
 もしかしたら祖父(ジークムント・フロイト)みたいに精神分析医になっていたら、また違ったタイプとして成功していたかもしれませんね。

 この絵を見た夜、ジムに身体を動かしに行くと、奥の方の鏡の前で無心にポーズを取っている男性の姿が目立ちました。さて、フロイドが生きていたら彼の肉体に感心を示したかな?

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