今どきのお葬式は、「家族葬」でというケースが増えているようです。理由は簡単、お金も手間もかからないからであります。昔とは状況が違います。例えば以前は現役の社会人の方の親御さんが亡くなると、会社から弔電や花輪が届き、社内にはメールやFAXで訃報が開示されました。関係先や会社の仲間が大勢通夜に参列しました。ご近所さんや親せきも大勢駆け付け大きな葬式を出すのが一つのステータスでもありました。
ところが、高齢化が進んでくると、だいたいは会社を退職しているので、本人の訃報すら流れなくなります。やれ個人情報がどうしたとか面倒になってますし。
親せきも少なくなり友人関係もお互いに疎遠になったころ親が亡くなったら盛大な葬儀は不要でありますな。
で、会葬者がほとんどいないのですから、もう家族葬にしようという話になるのでしょうね。
すると、お坊さんの実入りも減ります。以前大きな式なら数人のお坊さんがお経をあげました。初七日・四十九日と出番も多いのでしたね。バブルの頃は東京のお坊さんは、一人お葬式があるとベンツが買える、とか言われてました。しかし、世間体もなにも考えなくなると、いろいろと省略するようになるのです。
戒名もまた簡略化されます。普通は、葬式や通夜に来る会葬者は戒名を見ます。その位牌の立派さや戒名の文字数(戒名の文字が多くなると戒名料はどんどん高くなります)で葬式のお金のかけ方や故人の経済力やらなにやらを推し量るのですね。
一番下に来る「位号」が男性ならば信士・
居士・
院信士・
院居士などとランク付けされます。お寺さん側が、そのお宅の先祖代々の貢献度によって決めますから、お金を積んでも位号は買えないのです。戒名全体では最低3文字から、十数文字まであるようです。その字数と位号などによって戒名料は数万円から数百万円になるのでありますな。
それで、書道筆の定価であります。これが、筆に刻印も毛の種類も書かれていないものは、無縁仏みたいなもので戒名もなし、ほとんどただに近いような安物になります。それから、鼬筆とか羊毛という筆の毛の表示があると、千円程度にはなりましょうか。さらに羊毛筆は高級・希少な毛になるに従って表記や文字数が変わります。これがおおむね価格に反映されるのです。軸やだるま(穂の留め口)他のパーツにも差をつけるので、それも当然なのです。
羊毛と表記されても実際は羊ではなく、山羊の毛であります。その部位によって、 細嫩頂光鋒(さいどんちょうこうほう) 細嫩光鋒 細微光鋒 細光鋒 などに分かれております 。山羊の首の下や胸に生える上質の毛がいいとされ、最高級なのは飴色のような半透明で、墨の含みがいいとか柔らかいとかの理由と、希少性によって非常に高価なのだそうです。
筆作りの職人さんは、そうした希少価値のある毛を更に選別し、長さを揃え、毛先を同じ長さにして平らにするという昭和年代に考案された長鋒筆(軸が細く、筆の穂が長い)を作ります。斑竹軸、水牛の角の「だるま」などの高級な材料を使い、仕上げは戒名ならぬ「命名」、毛の種類・筆の銘名、制作した職人名・筆舗など刻むのです。こだわりが細部にまで施されます。
例えばかなり古い筆で、中筆「 細嫩頂光鋒 白富士 幽玄斎作」というものが手元にありますが定価5万円のラベルが付いております。(どうやら伝説的な筆の様ですが)。勿論数十年前の筆ですから、現在市販されていません。 毛の量も少なく、穂の長さも5㎝ちょっとの小ぶりな筆にしては破格の値段ですね。 もしこれが、毛の長さが10㎝を超えるような長鋒・大筆であれば 数十万円したでしょう。
これは、先日投稿した写真でありますが。一番下の筆(未使用の記念筆)も「特品 細嫩頂光鋒」と刻まれ、作者の名前もありました。筆の名が無く桐箱に「お礼」と書かれていましたから、贈答用に特注したと思われますが、恐らく5万円は下らないでしょうか。
わが師である藤原先生「筆は値段ではないのよ」とのお言葉ではありますが、それでも名だたる書家さんが使うような高級筆(勿論中古)にあやかって、いくらかでもいい書をかきたい、と思うのはまさにワタシの俗人たる所以であります。 少しでも文字を多く立派な戒名を付けて欲しいという、「見栄」でもありましょうか。 |
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