07/04 私の音楽仲間 (178) ~ 私の室内楽仲間たち (158)
Beethoven の 『ラズモーフスキィ』第2番
これまでの 『私の室内楽仲間たち』
前回は Beethoven が四重奏曲の中で、「ロシアの主題」を
厳格に用いている様子を、ご一緒に見てきました。
[譜例 ②]
この譜例は前回もご覧いただいたものです。 第Ⅲ楽章の
"Maggiore" (長調) の箇所で、まず Viola が歌い始めます。
素朴なロシア民謡ですが、Beethoven はこれをどのように
用いているのでしょうか?
[譜例 ④]
これは同じ部分のスコアです。 背後では Vn.Ⅱが三連符
で絡んでいますが、その後は歌を引き継ぎます。
しかしよく見ると、"単純な" 伴奏音形の中には、主題と同じ
素材 (モティーフ = 動機) が使われているのが解ります。
まず最初の三連符は、主題中の動機Bの反行形です。
三連符なので一見すると目立たず、また同時に、全体が
スム―ズに流れるのに貢献しています。
これに続く三つの音符は、[動機C]そのものです。
反行形C’もときどき見られます。
Viola の57小節目にも、このC’のような形が見られます。
しかし先へ進むと、スラーの掛かり方が変わり、B’が執拗
にチェロなどで繰り返されて終結感を高め、音楽は冒頭の
"短調" の部分へ引き戻されます。
[譜例⑤]は、その第Ⅲ楽章冒頭の部分です。
ご覧になってお気付きのとおり、最初の小節も、「ロシアの
主題」と関連があることが判ります。 ただし動機BやCは、
意図的に避けられているように見えます。
最初の三つの音は "Mi"、"Si"、"Mi" と動いており、[動機A]と
は親戚のA’です。 上行形だけで出来ているので、一見した
だけではそれと判りません。
チェロには4小節間に亘って、やはり "Mi"、"Si"、"Si"、"Mi" と、
A’が拡張されて聞かれます。 「単なる終止形」と見ることも
出来るのですが。
また続く3度の上行は、D’とでも言えるでしょう。
全体を「一つのアルぺッジョ (分散和音)」と見ることも、
もちろん可能です。
この楽章は、"A"、"B"、"A"、"B"、"A" のように、全体が何度
も繰り返されます。 「ロシアの主題」そのものが出てくるのは
"B" の部分ですが、結果的には、この主題の動機が絶えず
顔を出していることになります。 メリーゴーラウンドのように、
代わる代わる。
だから執拗に反復して演奏するように、指定されているの
かもしれません。 「同じ素材だということが、何回目で解った
かね…?」と、まるで作曲者にテストされているようです。
聴いている私たちをからかうのなら、ちゃんと "Scherzo" と
書いておけばいいのに…。
今度は第Ⅳ楽章の冒頭部分です。
[譜例⑥]
第Ⅲ楽章の主部では見られなかった、BやCが使われて
いますね。
Vn.Ⅱには、"Sol"、"La"、"Si"、"Do" という上行形があり、
これもBと関連しています。 ただし、今回は触れていない
別のモティーフである可能性もあります。
また Viola には "Mi"、"Fa"、"Mi" と、C’とも言うべき形が
あります。
「和声進行から偶然そうなった」、「取り立てて指摘する
までもない」…とも言えますが、少なくとも Beethoven が
モティーフとの関連に気付かなかったはずはありません。
たとえ結果的にそうなったにせよ。
またこれを聞く側も、半分無意識ながら、「同じところへ
帰って来た」と感じるでしょう。 短いサイクルですが。
「ロシアの主題」そのものが現われるのは、第Ⅲ楽章の中ほど
でした。 しかし、楽章の主部もこれと関連していたばかりでなく、
主題中の別の動機が、直後の第Ⅳ楽章の冒頭で新しい主題を
形成しているのです。
素材を均等に使う、過不足の無い論理性、均整美、果ては
作曲者の民主主義的理想まで感じさせます。
その意味でも、第Ⅳ楽章冒頭のC (Vn.Ⅰ、装飾音付き) は、全体
の流れに埋没するのでなく、はっきり際立たせた方がいいのでは
ないでしょうか。 これを演奏する際のことですが。
ご覧いただいたように、前後に位置して「ロシアの主題」を挟み
込む、二つの部分も、主題と密接な関連を持つことが解りました。
ところが Beethoven の創意工夫は、これだけに止まらない
ようなのです。
(続く)
音源はこれまでと同じものです。
ブダペスト弦楽四重奏団:1951年5月録音
バリリ四重奏団 :1956年録音
音源ページ
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