06/22 私の音楽仲間 (593) ~ 私の室内楽仲間たち (566)
伯爵へ敬意?
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伯爵へ敬意?
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[演奏例の音源]は、40秒ほどの短いものです。 曲は
Beethoven の弦楽四重奏曲『ラズモーフスキィ』第2番
から、第Ⅲ楽章の一部です。
それにしても、妙な編集ですね。 ホ長調から、すぐホ短調
に変わると、すぐに終わってしまいました。 曲をご存じのかた
は、お聴きになって 「何じゃ? こりゃ!」
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最初に聞こえたのは、“ロシア民謡の主題” です。 楽章の
ホ長調部分 (B) だけに登場し、まずは Viola が歌います。
上の[譜例 1]がその様子で、最初の音が主音の Mi です。
続いて短調で聞こえたのが、下の[譜例 2]の主題で、その前半
部分でした。 譜例は楽章冒頭の、ホ短調部分 (A) の様子です。
どちらのテーマも、最初の3つの音が 【Mi Si Mi】 である点は同じ
ですね。
気付きにくいのは、音の向きやリズムを変えてあるからで、
もちろん偶然とは考えられません。
この短調のテーマも、実は “ロシアの主題” から出来ている
こと、また、この第Ⅲ楽章に限らず、曲全体が “ロシアの主題”
に由来することについては、これまでにも触れてきました。
この楽章の構成は、“スケルツォとトリオ” (A B A)に当ります。
ただし 【A B A B A】のように、何度も繰り返されます。
したがって、A は単に “Allegretto”、B は “Maggiore” (長調)
と記されているだけです。
このような例は、Beethoven の他の作品でも見られます。
さて私は、この曲で A と B の長さを比較してみました。
そこで貴方への質問ですよ。 楽譜に書かれた小節の数
は、A、B のどちらが多い…と予想されますか?
解答は、このページの最後にあります。
次の[譜例 3]は、B (ホ長調の部分) の最後の部分です。
先ほどの[演奏例の音源]は、“↓ 3” (小節の2拍目)
から始まっていました。
↓
1 2 3 4
↓ ↓ ↓ ↓
● ● ●
↑ ↑ ↑
音源に先立つ部分では、下降4度が Viola とチェロで
執拗に繰り返されています。 これは主題の一部ですね。
主題は、やがて全員で、Viola (1)、チェロ (2)、Vn.Ⅰ (3)、
Vn.Ⅱ (4)の順に模倣されます。 このうち、ただ一人、主題
を忠実に再現しているのが、(3) Vn.Ⅰです。
さて謎々まがいの、先ほどの質問です。
この楽章の、A (ホ短調)、B (ホ長調、ロシアの主題)
では、どちらの小節数が多いでしょうか?
結果は…。 A : 50数小節、B : 80数小節 でした。
ただし、A の内部には “繰り返し部分” が2箇所あり、
「初回のみ繰り返せ」…と指示されています。
B のほうが長い…。 これは、“ロシアの主題” に敬意を
表してのことでしょうか?
「それもあるがね、これだけ何回も下降4度、上昇4度を
聞かせているんだよ。 こうやってタネを明かしているのに、
いつになったら気付いてくれるのさ。」
まるで作曲者が、そう言っているようです。
…無理ですよ、Beethoven さん…。 私はですね、不自然な
音源まででっち上げ、Violin の高音域だけで B と A を連続
させてみたけど、それでも物の見事に繋がってしまうんです…。
「ほう、そうかね。」
かなり意識したとしても、聴くだけじゃ見破れませんよ。 まあ
その気になって、分析的な態度に徹すれば別ですけど。 譜面
だって、普通に眺めているだけじゃ解らないんですから。
「…おまけに、お前は老眼で、見通しが利かんからな。」
作曲技術と構築性、執念と感性の諸々、そして、さりげなさ。
どれ一つ取っても凄い。 おまけに、それらすべてが一体と
なっているんですからね。
「いつになく素直じゃのう。」
はい、いくらボロクソに言われても、口答えなどしません。