MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

冷酒と親の意見は…

2010-06-18 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

06/18 私の音楽仲間 (172) ~ 私の室内楽仲間たち (152)




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      Beethoven『ラズモーフスキィ』第2番




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




 学園祭の特設ステージでK君たちが演奏した、『ラズモーフ
スキィ』の第2番
。 その様子を、離れた客席の下手側から
見守る私。 40年以上前のお話でした。

 そして今、演奏者としてこの曲に触れる機会がやっと巡って
きました。



 もちろんその間に、この曲を耳にしたことが無かったわけでは
ありません。 スコアも何度となく見てきました。 しかし、自らが
楽器を持って曲を実体験できるのは、大きな喜びです。 長年
待ち続けただけに、私にとっては特別の感慨があります。




 ところで、"特設ステージ" といっても、大昔の大学祭のこと。
決して見栄えのするものではありませんでした。 会場も大きい
とは言え、古めかしい講義室に過ぎません。

 机や椅子は、大学などでよく見かけますよね。 あの、机の
部分が横に長く繋がり、椅子がパタンと前に倒れる、一体型
スタイルです。

 その机の何十人分かの上に、広い板を敷いただけの、簡単
なステージです。 照明と言えるようなものは皆無で、演奏者
の表情すら、よく見えません。 その上、「聴衆がじっと静聴…」
どころか、覗いては去っていく "観客" の方が多いという、半ば
雑然とした雰囲気の中での演奏です。



 しかし、"オケ二年生" の自分にとっては、そんなことは問題では
ありません。 とにかく食い入るように神経を集中していたのです。

 Beethoven の緊密な音楽に。 そして先輩方と一緒に演奏する、
K君の様子に。




 ふと楽器を持っている我に帰ると、もう第楽章も終わりです。
"Molto Adagio"、「深い感情を込めて」と記されていたので、つい
"タイム スリップ" してしまったのでしょうか。




 続く第楽章は、A : "Allegretto" と、 B : "Maggiore" の二つの
部分から出来ています。 実質的にAは Scherzo、Bは Trio に
当り、これが "ABABA" のように繰り返されます。

 Aの部分はホ短調 (Mi-Minore) で、Bの "Maggiore" (長調) とは
明確な対比を成しています。



 このBの部分に差し掛かると、ホ長調の新しい主題を歌い
始めるのが Viola です。 私のパート ViolinⅡは、滑らかな
三連符でこれに絡みます。

 再び私は、K君に三連符で絡んでいるような錯覚を起こしま
した。 顎を自由に振りながら演奏する、K君の演奏スタイル
は、今でも脳裏に焼き付いていて忘れられないのです。



 次いで、同じ主題は ViolinⅡ、そしてチェロ、ViolinⅠと順番に
引き継がれます。 それぞれの最初の部分には "Theme russe"、
つまり "ロシアの主題" と記されています。




 いよいよ行進曲調の第楽章が始まりました。 2/2拍子、
Presto でハ長調の主題が 奏されますが、先へ進むに連れ、
調性は徐々にホ短調へ向かって収束していきます。



 曲が終わり、我に帰ってみると、私は仲間とちょうど弾き
終えたところでした。 古めかしい特設ステージではなく、
照明が明るい練習室です。





  現在私は、ある学生オーケストラの指導に関わりつつ、
「室内楽、室内楽…」と、うるさく口にして薦めています。
ところが彼らの間にその習慣が定着するのは、なかなか
難しいようなのです。

 練習スケジュールが密なため? 場所が見つからない
から? それとも、難しいし、負担が増えるからなのかな?




 では自分が同年代の頃はどうだったかと言えば、今まで
3回に亘ってお読みいただいたとおりの有様でした。 ただ
強いて付け加えれば、熱心な提唱者、リーダーが「仲間の
中に何人かいた」ことでしょうか。

 合宿でも、休憩時間などに寸暇を惜しんで譜面を持ち寄り、
学年の差も無く、ともに楽しんだものです。 自発的に。



 もちろんK君も、自分が楽しみたいからこそ、「やろう!」と、
みなに声をかけたに違いありません。 でも今思えば、自分
にとっては単に貴重な交流の場であったばかりか、格好の
鍛錬の場だったような気がしてなりません。




 そう言えばK君は、思った事、感じた事を率直に言ってくれる
指導者タイプでした。 私も厳しく叱責されたことがあります。
単に楽器の演奏技術面に止まらず。

 でも今から思えば、それにはみな自分で思い当ることがあり、
まさに自分が未熟なゆえでした。



 「親の意見と冷酒 (ひやざけ) は後できく」…という諺があります
よね? それを思い出しながら、「自分は一体そのときから、
どれほど進歩したのかなぁ…?」と、今でも苦笑いするのです。




 K君は長らく神戸市民交響楽団に在籍し、ここでもコンマス
として、長年励んでこられたそうです。 つい先日のことですが、
「引退した」と聞いたので、半ば驚きながら、メールの文面をよく
読んでみました。

 すると、「コンマスを引退し、ViolinⅡパートのリーダーとして
頑張っている」とあったので、なぜかほっとしたものです。



 卒業後、一度だけ神戸のお宅にお邪魔し、歓待してもらって
から、すでに40年近くが過ぎ去りました。 以来、顔を合わせる
機会には残念ながら恵まれていません。




 「もしK君との室内楽が、今実現すれば…!」

 「きっと、また叱られるだろうな…。」



 私はときどき勝手に、一人であれこれ想像するのです。





 音源です。



ブダペスト弦楽四重奏団:1951年5月録音

バリリ四重奏団      :1956年録音

音源ページ




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