MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

名前があった小惑星

2010-10-01 00:00:00 | 星と音楽・科学一般

10/01       『名前があった小惑星』

            ~ 小惑星の名 (16)



     (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10)

     (11) (12) (13) (14) (15) (16)




 『小惑星の名』は、2008年10月 ~ 2009年2月にかけ、この
場で連載した記事です。

 上記の15回をアップしてからは更新を怠っていました。




 「小惑星の名前」と言っても、その数は、2010年9月の時点で
16,000個もあります。 その中から、クラシック音楽に関連した
ものを中心に、[Wikipedia]などの資料から、ごく一部を挙げた
だけに過ぎません。

 さらに興味のある方は、ページ末のサイトをご参照ください。




 小惑星は、主として火星と木星の間の軌道をまわっている、
たくさんの小天体 (小惑星群) の一つです。




 ところが、小惑星のすべてに名前があるわけではありません。
命名される資格を持つものだけでも、現時点で250,000個に
登りますが、大半が名前の無いまま放置されているというの
が実情です。



 太陽系内外で発見された天体 (小惑星とは限りません) は、まず
仮符号をを付けられ、待機します。 そしてその後も何年間か
観測が続けられ、軌道が確定されて初めて小惑星として認め
られ、小惑星番号が与えられます

 そして命名は、「さらにその後に行われる」というのが、今日
での約束ごとになっています。 命名権は発見者、あるいは
その観測団体にありますが、他の者に譲っても、もちろん構い
ません。 発見者本人が亡くなるなどして、自分で命名できない
例も珍しくありません。



 命名の一例を挙げれば、1984年2月8日、エドワード・ボーエル
(Edward L. G. Bowell)
に発見された天体があります。 これは、まず
"1984 CC1" という仮符号が付けられた後、1986年に "小惑星
3355
" として認定され、"オニヅカ" と名付けられています。




 それでは番号付きの250,000個の他には?

 まだ番号の無いものだけでも280,000個以上あり、現在も観測
が続けられています。 その他にも未発見のものがあると考えら
れるので、総数は800,000~1,000,000個とも言われています。




 ところで1930年の発見以来、惑星の一員であった冥王星が、
2006年8月の国際天文学連合総会において、準惑星 (矮(わい
惑星)
に格下げされてしまったのをご記憶の方も多いでしょう。



 この天体はその後、2006年9月8日には小惑星の仲間として
分類され、小惑星番号134,340番が割り当てられました。 最初
から名前があるという、変わった小惑星が誕生したわけです。

 とは言うものの、その運行に変化があったわけではありません。
90,487日もかけて、太陽の周りを悠然と公転しています。 これを
地球の1年である365.2422日で割ると…。 247.74 年になります。



 冥王星はその軌道が歪んでいるため、ときどき海王星の軌道
の内側に入り込むことでも知られています。 最近も1999年まで
は20年間、そのような状態でした。

 しかし海王星と接近することがあっても、それは決して "接近"
と言える距離ではありません。 むしろ「反発し合っていて近づか
ない」と言ってもいいほどです。



 かつて惑星の中の新参者として発見された、この冥王星。
まるで、将来仲間から追い出されるのを、最初から予期して
いたかのようです。 海王星クンともしっくり行かず、案の定
"派閥の空気" も読めなかったようで、2階級の降格になり
ました。




 「もう惑星の肩書は無いのか…。 まあ、準惑星だろうが、
はたまた小惑星と呼ばれようが、私は別に変わらないよ。
相変わらず同じコースを歩むだけさ。 陽当りの悪いのに
は元々慣れてるからね…。」

 どうやら出世コースとは縁遠い "スター" が登場したようです。



 おっと、スターと呼んではいけませんでした。 なぜなら本来
恒星を意味するのが "Star"。 自分で光り輝かないと、そう
呼ばれる資格はありません。

 ちなみに小惑星は "asteroid" (アステロイド) と呼ばれますが、
これは元々 "恒星もどき" の意味。 観測の精度が悪かった
時代に発見されたので、そう名付けられ、実態とは大きくかけ
離れている例の一つです。



 そう言えば、突然のスター誕生を思わせる名の "超新星" は、
実際は恒星が一生を終える際の大爆発。 これも観測上そう
見えるほど強烈な光を放つので、"Supernova" (スーパーノヴァ)
などと言われて注目を集めただけですよ、冥王星さん。



 「名は体を表わす」とは限らない。



 日蔭者の冥王星さん、仲良くやろうね…?



        [冥王星の画像




 参考サイト



  小惑星の一覧



  [人名に因む名を持つ小惑星

     うち [作曲家



  [生物名に由来する小惑星



  [地名に由来する小惑星



  [日本神話に関する名を持つ小惑星



  [フィクションの作品に因む名を持つ小惑星




こだわり? 戯れ?

2010-07-09 00:00:01 | 星と音楽・科学一般

07/09 私の音楽仲間 (183) ~ 私の室内楽仲間たち (163)




      Beethoven『ラズモーフスキィ』第2番




   この集いは、すでに何度かお読みいただいているグループです。

         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




 第楽章の書法を目にすると、私たちは一瞬言葉を失い
ます。 これを一体、どう表現したらいいのでしょう…?



 とにかく、パート譜だけを眺めていたのでは、まず理解
できない音楽です。 また、瞑想の雰囲気を湛えた楽章
とは言え、聞く者の耳を、外面的な響きで酔わせようと
しているのでもありません。



    [譜例





 ここで Beethoven が用いている素材は、同じ音程の繰り返し
そこから新たに派生する動機、それらの対位法的な模倣など
です。

 個々の素材は、その特徴が見極められた上で、登場する
頻度、場面などが厳格に管理されています。 「素材を極限
まで使い尽くそう」とする、克己、彫琢の厳しさが窺えます。

 いわば "絶対音楽" 的な手段が用いられ、筆致は整然と
した論理性に貫かれています。



 演奏者が瞑想のうちに茫洋としてしまうのでは、このような
音楽は伝わりませんね。

 「Beethoven が何をしようとしているのか」も。 また彼が
「如何に緻密な作業と労力を積み重ねているのか」も。



 作曲も、演奏も、実に奥深い世界だと痛感させられます。




 また、上記の[譜例]の冒頭を、もう一度見てみましょう。
"2度音程" が続けて現われる箇所です。



 これを見ると、思い出してしまうものがあります。

 それは第Ⅰ楽章でご覧いただいた箇所で、そこでは
"3度音程" が、4回連続しています。

 35小節目などのチェロに見られます。 

    [譜例





 このように、同じ音程を何度か繰り返すことによって、Beet-
hoven は新しい動機、主題を作ろうとしています。



 チェロの最初の4つの音符は、"3度" と "2度" の繰り返し
から出来ています。 その順番をちょっと変えると、[譜例
の第Ⅱ楽章の主題になるわけです。

 この二つの主題には密接な関連があるだけでなく、作曲者
の強い愛着さえ感じられます。




 再び第楽章に戻ります。



 最初の[譜例]は楽章の冒頭でしたが、そこではあまり
活躍していないものがありますね。 「ロシアの主題」の中
の、[3度の幅で動くつの音]です。

    [譜例





 もちろん Beethoven が忘れているのではありません。 これ
は以後、たとえば次のように用いられます。



    [譜例] (16 ~ 21小節)





 Vn.Ⅱから順番に登場する、2つの音符の音程は、先ほどの
2度から、長3に拡がっています。 "捉えどころの無い2度"
に比べれば、はるかに "情感豊かな音程" で、ここで初めて
重要な役割を与えられました。

 また各パートの最初の音は、"Si" → "Mi" → "Si" と、4度、
5度
音程で配置されています。



 なおここで Vn.Ⅰは、上下に幅広く跳躍しながらも、やはり同じ
"3度音程" を一緒に奏でています。




 下降するから、上向するへと拡がった音程は、この
後どうなっていくのでしょうか?



 37小節目では、下降する "完全4度" が現われます。 今度は
Viola とチェロの2人で、しかも3回連続して繰り返されます。

 また両者の間の音程はを保ったままです。 Viola の2、3
小節目は、チェロの1、2小節目の模倣でもあります。

 何と言う徹底ぶりでしょうか。



    [譜例] (35 ~ 40小節)





 なお直前の4小節間では、Viola がオクターブ (8度) で
跳躍しています。

 先ほど[譜例]で動いていた ViolinⅠでは、最大の
跳躍幅は7度でした。 ここでは音程が広くなるとともに、
4分音符が間に入り、周期が長くなっています。




 Beethoven は相変わらず、すべての音程素材を使いこなし、
均整の取れた論理、普遍的な響きを目指そうとしているので
しょうか? それとも、個々の魅力的な音程と、純粋に戯れて
いるだけなのでしょうか。

 いずれにせよ、「天体のハーモニーを思い、星を見つめる」
だけに止まっていたら、この楽章は出来なかったでしょう。




 「第Ⅱ楽章のアイディアが生まれたのは、星を見つめながら、
天体のハーモニーを思い浮かべていたときだった。」

 何度もお読みいただいた一節で、弟子のチェルニ―が聞いた
という、作曲者の言葉です。 信憑性を一笑に付す学者が多い
そうですが、貴方はどうお考えですか?

 "瞑想的な雰囲気"、"星空"…と来れば、何やら出来過ぎの感
もしないではありません。




 しかしこの楽章における Beethoven の作曲姿勢を見る限り、
「まんざら嘘でもなさそうだ」と私は感じるのです。

 その手法が相変わらず緻密なだけではありません。 様々
な音程、音符の数、そして繰り返される回数など、"数字" に
対するこだわりが、随所で見られるからです。



 数字と言えば、思い浮かぶのは数学天文学。 いずれも
「瞑想に耽る」と言うよりは、「厳密な正確さが求められる学問」
です。 ここでの Beethoven の態度は、「後者に近い」と言える
でしょう。



 冒頭の青線赤線部などでは、パート間に跨る "音程の法則"
が見られました。 これはあたかも、天体間を支配する法則の
ようです。

 また各パートの "対位法的な模倣" による動きは、星々の運行
さえ思わせます。 まさに "天体のハーモニー (調和)" です。



 ニュートンの唱えた万有引力の法則に、Beethoven が興味を
抱いていたかどうかは判りませんが、天文学についての書物
を深く読み込んでいた」との記述
も見かけます。




 ところで惑星には "見かけの逆行運動" というのがあります。
これは《東→西→東→西》のように複雑な運動なので、かつて
の天動説では説明に大変苦労しています。 図をご覧になると、
まるで第Ⅱ楽章冒頭の主題そっくりだと思いませんか?

            図① 図②

 この運動は "遊星、惑星" と呼ばれる一因ともなりました。
英語 "Planet" の元となった、ギリシャ語 "プラネテス" は
「放浪する者」(πλανήτης) という意味なのだそうです。




 「せっかく瞑想に耽りながらいい気持ちでウトウトしてるのに、
ロマンの夢を覚ますでない!」

 …と、またしても作曲者から抗議の電話がかかってきそうです。




 帝政ロシアからやっとヴィーンへ戻ったかと思ったら、今度は
星空の探索…。 長旅、本当にお疲れさまでした。




  (この項終わり)




 音源はこれまでと同じものです。



ブダペスト弦楽四重奏団:1951年5月録音

バリリ四重奏団      :1956年録音

音源ページ




          関連記事 『私の室内楽仲間たち』

           『ラズモーフスキィ』第
               43年後の追体験
               冷酒と親の意見は…


      歌劇『ボリス・ゴドノフ (バリース・ガドゥノ―フ)』
               「ロシアの主題」
               永遠のテーマ
               為政者の悲哀
               下層に生きた作曲者


           『ラズモーフスキィ』第
               Beethoven が "変" 曲 ?
               民謡から造形美へ
               Beethoven の多彩なメニュー
               調材の妙味
               呼び交わすモティーフたち
               密雲を貫く星の煌めき
               こだわり? 戯れ?
               目立たない設計図
               いい加減な奴らめ
               伯爵へ敬意?
               滅多にない





密雲を貫く星の煌めき

2010-07-08 00:00:01 | 星と音楽・科学一般

07/08 私の音楽仲間 (182) ~ 私の室内楽仲間たち (162)




      Beethoven『ラズモーフスキィ』第2番




   この集いは、すでに何度かお読みいただいているグループです。

         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




 「この楽章のアイディアが生まれたのは、星を見つめながら、
天体のハーモニーを思い浮かべていたときだった。」

 弟子のチェルニ―に、Beethoven が語ったと言われる一節
です。 (信憑性の点では疑問が残りますが。)




 しかし、そこに散りばめられていたのは星ならぬ、創意工夫
と克己勉励の数々でした。 どの小節にも、新たに登場した
モティーフ
が埋め込まれているのです。

 最初は ViolinⅠだけがこれを奏でていますが、やがて他の
パートも唱和し始めます。

 この動機は大変短く、たった2つの音符からなっているから
こそ、他の要素との組み合わせが幅広く可能なのでしょう。
この単純さは、一体何なのでしょうか?



 そして、これを取り囲んでいるのが、「ロシアの主題」に由来
する動機の数々です。




 これらすべてのモティーフが、互いに呼び交わしています。
まさに "星々の織り成すハーモニー" ですね。

 そう言えば、これを書いているのは七夕の夕刻です、偶然にも。



    [譜例






 そしてこの音楽に、さらに深い奥行きを与えているものが
ありました。 で示した二つの線のことで、各パートの
歌い始めの音符を結んだものです。



 まず冒頭の青い線上では、各音符間の音程は完全4度
関係にあります。 この音程はとても純粋で、聞き取りやすい
上、周囲には邪魔な音の密雲がありません。

 また赤い線は "Si"、"La"、"Si" と、お隣り同士の近い音程
から成っています。 しかしその配置が "長度"、"短度"
という広い間隔なので、これも大変印象的です。



 この二つは、いずれも "特徴的な音程" の連続から成っ
ているので、バラバラの音としてではなく、「ひとまとまりの
イメージを頭の中で結びやすい」と言えるでしょう。

 あたかも、「星々を星座として把握する」ようにです。




 ところで作曲者の目論見では、これらのは "耳に
残りやすい音程" として、効果的に機能するはずでした。

 しかし実際には、その計算どおりにはなかなか聞こえて
くれません。 なぜでしょうか?

 それは、Beethoven は、この曲もやはり「ピアノを元にして
作曲した」と思われる反面、最終的には "複数の弦楽器
ための作品" となっているからです。




 楽器にはそれぞれ特質がありますね。 その中の一つに
"音の立ち上がり" があります。 この点では、弦楽器は
とてもピアノには敵いません。

 また長い音符を見れば、弦楽器奏者は "音の持続" の方
を意識します。 ほぼ反射的に。 危険な "白玉の音符" で、
発音のタイミングは、ただでさえがおろそかになりがちです。

 と言って、不自然に鋭いアクセントを加えたところで、作曲者
が望んだ "奥行きの深さ" は得られないでしょう。



 その上、個々の奏者が目にしているのはパート譜であり、
全体を把握しやすいスコア (総譜) ではありません。

 (本来は個々の奏者がスコアを研究すべきなのでしょう。 オーケストラ
音楽においても。)




 さらには、楽器間の "音量バランス" に対する、精密な
配慮も必要になってきます。




 「これらの難点が克服されない限り、作曲者の意図が正確に
伝わりにくい」と言えるのは、まことに残念な現象です。

 逆に言えば、「書かれた音符をそのまま正確に演奏しさえ
すれば、音楽は伝わるはずだ」と満足してしまう風潮が、昨今
は強過ぎるように思われるのですが…。



 またそもそも、「正確に」とは何を指すのでしょうか。

 音楽によっては、「音符は読めてもその意味が解らない場合」、
また「楽譜に書かれていない事の方が多い場合」すらあります。




 自分の音楽に、さらに深い奥行きを加えようと Beethoven が
試みた、独創的な手法。 それはヴェーベルンの管弦楽曲
に先立つこと百数十年前の、"点描" でした。

 作曲者の思い描いた光景は、"オーケストラの宇宙" とまでは
行かずとも、"四つの星々" の交わす "親密な語り合い" です。




 ところがこれに対して、私は "現場のしがらみ" などという、
まことに矮小な事象を持ち出してしまいました。



 それも七夕の夜に…。 外では雨が音を立てています。




 作曲者からは、またしても "抗議の電話" が来そうです…。




  (続く)




 音源はこれまでと同じものです。



ブダペスト弦楽四重奏団:1951年5月録音

バリリ四重奏団      :1956年録音

音源ページ




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               滅多にない





呼び交わすモティーフたち

2010-07-07 00:00:01 | 星と音楽・科学一般

07/07 私の音楽仲間 (181) ~ 私の室内楽仲間たち (161)




      Beethoven『ラズモーフスキィ』第2番




   この集いは、すでに何度かお読みいただいているグループです。

         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




    [譜例





 この第Ⅱ楽章は、冒頭に "Molto Adagio. Si tratta questo pezzo
con molto di sentimento." と記されています。

 "Molto Adagio" 以下は、「この楽章は深い感情を抱いて演奏
される (するように!)」の意味になります。

 確かに瞑想的で、捉えどころの無い楽章ですね。



 作曲者は、「この楽章のアイディアが生まれたのは、星を
見つめながら、天体のハーモニーを思い浮かべていたとき
だった」と語ったのだそうです。 弟子のチェルニ―が伝えて
いるのですが、真偽のほどは明らかではありません。

 もしこれが本当なら、「茫洋としているのは、視野が宇宙的だ
から」ということになり、瞑想するには打ってつけの条件ですね。




 では、演奏する側はどうすればいいのでしょうか? やはり
瞑想しながら、茫洋と弾きさえすれば、作曲者の心境が伝わる
ものなのでしょうか?



 確かに、「譜面ヅラどおり音を出せば、ちゃんと伝わる」場合
だって、もちろんあります。 でもこの楽章は、むしろその対極
にある音楽でしょう。 聞く者を、表面的な効果で虜にするよう
な響きでもありませんし…。



 演奏者として大事な姿勢は、やはり、「作曲者を理解する」
こと、もっと正確に言えば、「作曲者が何をしているのか?
を知ることでしょう。

 「心情を理解する」、「作曲当時の周辺の状況を知る」ことも、
もちろん大事でしょうが…。



 そんなとき私たちは、楽譜を何度も見なければなりません。
もちろん理解するためにです。

 「この人は一体、何をやっているんだろうな…?」




 以下も、前回ご覧いただいた譜例です。 3つの音からなる
音階の、が目立ちます。

 しかし "主旋律" とされている ViolinⅠには、これはほとんど
見られません。 むしろ重要なのは、最初の4つの音符です。
これまでには無かった形ですね。



    [譜例






 それに、私にとっては大事な宿題が残っていました。



  (3つの音符) も、また (4、5度音程) も、この譜例には
それぞれ箇所ずつしか見られないというのに、
 
 「箇所、回現われている…!」

…などと申し上げてしまったからです。 何とかしないと
いけません。




 以下は、さらに手を加えた譜例です。 修正され、消えて
しまった部分もあります。



 Vn.Ⅰの最初の4つの音符は、"下降2度" が2回並んだ形
から出来ています。 動きは極めて単純です。

 これがもし "Mi - Re♯ - Fa♯ - Mi" ならば、"Si♭- La - Do -Si?"
と同じ形で、名高い『BACH主題』になるのですが。




 3小節目は、最初の2小節間が凝縮された形です。

 また同時に、Viola の3つの音符と、同じ方向に動こうとして
いるように見えます。 それとは逆方向に動きたいのが Vn.Ⅱ
です。 ハーモニー的な制約もあるので、ともに完全には実現
していませんが。



 ところで Vn.Ⅰ以外の三つのパートは、どんな様子
でしょうか?

 最初は散発的に、3つの音で答えていただけです。
しかし後半では、この "2つの音符" を、自分たちも
模倣するようになります。



    [譜例





 それにしても、最初の2小節間に書かれた青い線は、
一体何なのでしょうか? 赤いのまでありますね。



 青線は、各パートの最初の音符をつないだものです。
それらは順に、"Mi"、"Si"、"Fa♯"、"Do♯" の音ですが、
これはどういう意味なのでしょうか?

 各音符の間の音程は、すべて完全なのです。 音符
は4つもあり、同じ音に帰ることはありませんが。



 また赤い線は、"Si"、"La?" (Viola)、"Si" (チェロ) と降りて
行きます。 それぞれの間隔は、ほぼ1オクターヴもある、
広いものです。

 でも音名としては隣り合わせですね。




    [譜例





 もうお解りのとおり、それぞれは、

度や度の跳躍]、

音階で上下し、元に戻るつの音]

と密接な関連があるように思われます。




  (続く)




 音源はこれまでと同じものです。



ブダペスト弦楽四重奏団:1951年5月録音

バリリ四重奏団      :1956年録音

音源ページ




          関連記事 『私の室内楽仲間たち』

           『ラズモーフスキィ』第
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               為政者の悲哀
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           『ラズモーフスキィ』第
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               Beethoven の多彩なメニュー
               調材の妙味
               呼び交わすモティーフたち
               密雲を貫く星の煌めき
               こだわり? 戯れ?
               目立たない設計図
               いい加減な奴らめ
               伯爵へ敬意?
               滅多にない





小惑星の名 (15)

2009-02-25 00:00:39 | 星と音楽・科学一般

02/25        小惑星の名 (15)





 水曜日 (不定期) に掲載の "小惑星の名" は、これまでに、


 10/2210/2911/0511/1211/1912/0312/10

 12/2401/0701/2101/2802/0402/1102/18

の、14回分があります。







       以下は、2009年2月14~15日の讀賣新聞および

         産経新聞の記事を中心に再構成したものです。







     茅ヶ崎市、小惑星を "Eboshi" と命名




 二人のアマチュア天文家、札幌市の渡辺和郎 (わたなべかずお)

さん(53) と、北海道美幌町の円舘金 (えんだてきん) さん(48)が共同

発見した小惑星が、神奈川県茅ヶ崎市沖の「烏帽子 (えぼし) 岩」

にちなんで"Eboshi" と命名され、渡辺さんが14日に、小惑星の

写真や軌道図のプリント入りの額を、服部信明・茅ヶ崎市長に

贈りました。




 "Eboshi" は、直径が推定約10㌔・㍍。 火星と木星の間にあり、

太陽の周りを5.4年かけて回ります。 渡辺さんと円舘さんが、

1994年10月2日に発見したものです。




 2人の宇宙飛行士、土井隆雄さん、野口聡一さんとゆかりの

ある茅ヶ崎市が、昨年6月、命名提案権のある渡辺さんの了承を

得て、8月の「宇宙飛行士ゆかりのまち都市交流会議(宇宙

サミット)」の開催時に、市民から名前を公募したところ、120件を

超える応募があり、同市のシンボル「Eboshi岩」にちなんだものを

市が選定していました。




 これを渡辺さんが、昨年11月に国際天文学会(IAU)に申請し、

9日に国際機関の小惑星センターが発行する「小惑星回報」で

公表され、正式登録されました。




 小惑星は、火星と木星の間の軌道をまわっている、たくさんの

小天体(小惑星群)の一つです。 発見後に数年間の観測を

経て、軌道が確定されると小惑星番号が与えられます。

また命名はその後にされるのが、今日の約束になっています。




 番号があるものだけでも 200,000個に及ぶ小惑星は、したがって

その大半が、名前の無いまま放置されているのが実情です。

今回の "Eboshi" には、(12383) という登録番号が付けられて

いました。