MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

12月の記事の一覧

2014-12-31 00:00:00 | 目録 その他

12/31

       今月の記事の一覧です。


      音楽演奏・体の運動

12/31   今月の記事 ~ 一覧




演奏者か、モルモットか?

2014-12-11 00:00:00 | 音楽演奏・体の運動

12/11    演奏者か、モルモットか?




 これまでの音楽演奏・体の運動』目録 です。

  

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 顎当てや肩当てを巡る、今回の一連の記事。 そのきっかけ
となったのは、さる SNS の投稿を目にしたからでした。

 「子供が顎当てにハンカチなどの布を当てて弾こうとすると、
布が滑ってしまうと言います。


 回答者の一人 Hさんは、丁寧に対策を書き始めます。

 まずは、“落ちないような商品” の紹介。

 次は、肩当の高さ、位置の調整。

 そして、顎当てに力を入れないでも弾ける練習。

 ついには、“過激な方法” として、顎当ても外し、
肩当も外してしばらく練習する。


 各段階に応じた適切な指摘には、ご本人の体験が
滲み出ている。 特に最後の方法は、誤解や無理解
を恐れず、真剣に書いておられます。

 こうなれば、Hさんを一人にしておくわけにはいかない。
以下は、私の回答の一部です。

 



 「〔顎当ての(本来)ある位置に顎を置くべきだ〕…と考えるの
は、確かに自然でしょう。 ただしその位置が、ご本人の体格
と楽器のサイズのバランスを考えた上で【最良の位置である】
という保証は、まったくありません。」

 …誰であれ、〔顎をそこに置いて構える〕のが当り前ですよね。
私とて、最初から疑ってかかったわけではありません。


 「もし肩当てや顎当てを選ぶなら、別々ではないほうがいい
でしょう。 一概には言えませんが、上下セットで、全体の厚み
を【増す】よりは、【薄く】するようにしながら、顎の位置を検討
されるようお薦めします。」

 これも、理論で最初から予想した結論ではありません。 自分
の感覚を信じつつ、長年に亘って試行錯誤を重ねた結果、どう
してもそうとしか思えなくなったからです。

 でも、これをお読みになっている貴方だって、おそらく疑って
おられるでしょう。 〔楽器の表や裏に、最低でも数センチの
高さの備品を付け、誰だって弾いているじゃないか! それ
を、何を今さら…。〕


 私の記述は続きます。

 「解りやすい実験をしてみましょうか。 楽器を構えるつもり
で、左手を上げてください。 そのまま僅かに “ヘッドアップ”
してみましょう。 (顎と鎖骨の間を拡げます。)」

 「すると、左手が若干下がってしまうのがお判りでしょう?
有効な “手の長さ” が、この動作だけで減少してしまうから
です。 両腕を自由にするためには、顎は、逆に “引く” 必要
があります。」


 そして今回の一連の記事中では、次のようにさえ書いて
しまいました。 顎と鎖骨の間の距離についてです。

 【(私の体格では、楽に両腕を動かせる寸法の限度は)
4~4.5㎝…という数字が出ました。 (現在では、もっと
顎を引いて楽器を構えていますが!) この数字は、Violin
でさえ、楽器の厚みを下回っています。】

 

 〔じゃあ、楽器に穴でも開け、そこに顎を入れて弾いて
いるのか??〕

 いいえ、当初は本当に悩みました。 でも今は、顎当て
も肩当ても使わず、このとおりに弾いています。

 〔そんなことが出来るわけはないだろう。〕

 出来るんです。 この弾き方は、おそらく今後も変わら
ないでしょう。 次の写真をご覧ください。

 


 

 丈夫なゴム紐を用意してください。 私が使っているのは
“女性用ヘア-ゴム極太”。 100円ショップで入手したもの
を、結んで輪にします。

 楽器の側板の上下部分に紐を引っかけ、それを頸の後ろ
に通して、楽器を引き付け、支えています。 頸は、ちょうど
手前の二つの輪の中にあります。

 

   

 

 中央のエンド-ピンが頸に当ってしまうので、痛み防止
のために適当なクッションを用意してください。 クッション
の厚みは数センチほどですが、適度に調節します。

 厚みが最適だと、私の場合は顎の下半分が、ちょうど
【楽器の表板より下に位置する】ことになります。 左手
も顎も、楽器の保持から解放されます。


 肩当て本来ある部分には、僅かな隙間があります。
しかし楽器は手前に押し付けられているので、落ちる心配
はまったくありません。 演奏に伴い、身体や楽器は微妙
に動くので、この隙間は増減します。

 もしこの空間を肩当てで “埋める” と、身体や楽器
の “最低限の動き” を制約する】ので、却って邪魔です。
私はクッション式の肩当てから、どんどん空気を抜いて
いきました。 厚さは減る一方で、最終的には、肩当て
使うのを止めました。

 

 これを思い付く前のこと…。 顎当てを使わず、また楽器
顎で挟まないと、どうしても楽器は不安定でした。

一番困ったのは “ポジションの移動”、特に “シフト-ダウン”
です。 左手が体幹から離れていくので、楽器も一緒に遠く
へ…! 頸から離れてしまうのです。


 もし何らかの “顎当て” でこれを解決しようとすると、
大変なことになります。 顎の先端は、“楽器の曲線”
の外側にはみ出ており、なおかつ、楽器の表板より
“低い位置” にあるから! そんな顎当ては、少なく
とも私の技術では製作不可能です。

 

 万一商品化まで企画するとすれば、様々な “寸法調節
機能” が必要になるでしょう。 その上、楽器と顎の位置
関係も、演奏中は微妙に変化すると想定されます。

 〔顎で楽器を固定しよう〕とする試み自体が、そもそも
無理だ、無駄だった…ということになります。

 

 

 

 2007年の年末…。 〔すべて顎当てで解決できる〕
…と信じて30年間打ち込んできた私は、深刻な壁に
突き当たった。 寝床の中で連夜悩み続けます。

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 結論は…。 「〔楽器が体幹から離れる〕のを防ぎさえ
すれば、何とかなる!」

 そこで思い付いたのが、この “ゴム紐” だったのです。

 

 しかしそれ以後も、道のりは決して平坦ではありませんでした。
それまで経験したことのない、“身体の新しい動き” が感じられた
ので、これらを把握し、コントロールする必要があったからです。
両手以外にも。

 詳細はこの場では描写不可能ですが、何点かを記せば…。

 

(1) 顎を引くと視線が下向きになるので、楽譜の位置に
 新しい工夫が必要になった。

(2) 両手が “低弦用” の構えを取る際、【頸を右に傾ける
 ほうが、はるかに楽だ】…と、以前にもまして感じるよう
 になった。 (大昔は、まったく逆だと考えていた。)

(3) 両手、特に両肘を体幹に引き付ける意識が強くなった。

(4) 左手のポジション移動の “遠近運動” では、運動の
 方向 (軸) を、より強く意識できるようになった。

 


 

 〔顎を数センチ引くだけで、楽器が楽に弾けるようになる
なら、誰も苦労はしないよ!〕

 そうお感じのかたも多いことでしょう。 私自身、以前は
考えもしなかったことですから。 ご自分で感じていただ
かない限り、貴方にも信じられないかもしれません。

 

 〔Violin 型の楽器は難しい。 楽器を構えるだけで、身体には
無理が伴う。 幼少時から始めない限り、一流にはなれない。〕

 …その一因は、【顎を引き、脇を締める】ことが許されないよう
な制約があるからではないか? それは楽器の厚み! 顎当て、
肩当てなどの備品も含めて。 私はそう考えるようになりました。

 

 

 さて、冒頭に記した “SNS” とは、Facebook 中の、
ある掲示版です。 ご存じのとおり、“いいね!” で
賛意を表明できるわけですが、Hさんや私の回答に
“いいね!” をクリックしてくれたかたは、一人もいま
せんでした。 スレッドを立ち上げた投稿者以外には。

 予めそれを覚悟しながら書き込みをした私。 その
最後の部分をご覧いただいて、今回の一連の記事を
終りたいと思います。

 

 「顎当てにせよ、肩当てにせよ、“非の打ちどころのない” 製品
は存在しません。 顎当ては “ヘッドアップ” を招き、肩当ては
“左手の大回り” に結び付くからです。 “薄さ” に配慮した顎当て
も、あまり見かけません。 使う以上は、両方とも  “必要悪” と
割り切るほうがいいように思われます。」


 「私は30年以上この問題と苦闘しており、自ら顎当てを試作
しました。 しかし現在は顎当ても肩当ても使っていません。
(別の小道具は用いていますが。)」

 「なお私はバロック・ヴァイオリンではありません。 普通の
Violin、 Viola ですが、すべてこの形で演奏しています。」


 「お子様の良き相談相手として、一緒に頑張ってください。」

 

 


見送られた欠陥商品

2014-12-10 00:00:00 | 音楽演奏・体の運動

12/10     見送られた欠陥商品




 これまでの音楽演奏・体の運動』目録 です。

  

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 〔平成2年実用新案公報第799号読みました〕

 こんなメールが私に舞い込みました。 2009年
(平成21年)10月のことで、以下は本文の一部です。


M 様

 先日はありがとうございました。
 
 貴方の出願された実用新案を検索しました。
直ぐに検索できませんでしたが、それもその筈、

ずっと「肩当て」をサーチしていました。
「アゴ当て」の考案だったのですね。

 考案の構成(請求の範囲に記載されている構成)は

もとより、詳細な説明の記載が興味深いです。
特許庁の弦楽サークルの皆にこの公報を紹介しよう

と思っています。

 この時期はちょうど私が別の部署にいたときです。
在籍していれば、間違いなく私の担当だったのです

が、そうであれば、早く読めた筈です。

 アゴ当ての特許出願はほとんど無いのが現状で、
したがってアゴ当てを仕事でサーチしたことがなく、
M さんの公報を見た記憶がありません。
 (肩当の出願は今でもたまにあるのですが。)

 私の考え方とは違う観点で考えられており、
こういう見方があったということが、今更ながら
新鮮に感じられます。  私の研究、というより
単なる工作ですが、違う方向でも考えてみたい
と思っています。

 報告かたがた、まずはお礼まで。
今後もよろしくお願いいたします。   I

 



 I さんはアンサンブル仲間で、当時は知りあったばかり。
特許庁にお勤めなので、かつて私が登録した顎当ての
について、ちょっとお耳に入れたわけです。

 「1990年のことだから、もうかれこれ20年か……。」
部屋一杯に散乱した工具や材料…。 私は当時を思い
起こしていました。

 登録の直後、何件か商品化の引き合いがありましたが、
結局すべて見送りました。 登録したはいいが、実際は
内容が不完全であることに、そのうち気付いたからです。


 もし商品化されていたら、最近登場した製品に似たもの
が出来ていたかもしれませんよ。 すでに20年以上前に。

 それは、ご覧いただく顎当ての中の、どのタイプの製品
と思われますか?


 答は…。 手前 (演奏者側)せり出したタイプ
ものです。 厚みや形状には差がありますが、
何通りかありますね。

 


 

 「取り付け位置左右に移動するだけで、音や両腕の
感覚が変化する。」 …これまで何度か記した内容です。

 そして両腕の動きと同時に、前後左右に動く。

    真横 (左右) を “一次元の動き” とすれば、
   縦 (前後) は “二次元の動き” です。


 顎当てが、もし “楽器本体の曲線” 内に納まっていれば、
顎をそれ以上手前に引こうとしても、不可能ですね。


 “顎を引かない姿勢” で楽器を構えると、横からはどう
見えるでしょうか? 顎や頸が前に出るので、必然的に
前傾姿勢になりやすい。 楽器は下がる一方です。

 胴体が前のめりになった状態のまま、腕だけで楽器
を持ち上げようとしても、これでは苦しいばかり。 また
鎖骨や肩などに楽器を載せようとしても、その受け皿
は狭く、使いものになりません。


 …このように、二次元顎当ての “まことしやかな効能”
を並べましたが、これを思い付いた当初きっかけは、
梃子の原理楽器を上げよう〕…という意識でした。

 「顎当てが手前にせり出していれば、顎の力は少なく
ても済むだろう」…と考えたからです。


 (まだ〔力に頼っている〕…ことにお気付きですね?)



 

 しかし出願して間もなく、欠陥があることに気付きました。
顎を手前に引くと、楽器の先端が上がってしまうのです。

 こうすると、弓の重さが駒周辺にかかりやすくなる。
その状態がいつも望ましい…とは限りません。


 また顎骨鎖骨の間の距離は、基本的に “楽器の厚み”
に左右されたままです…。 以下は、私が記した内容です。

 

  「ヘッドアップすれば、この間隔が拡がることになる。 これ
 が一定以上になると、両腕が快適に動いてくれなくなります。
 その限度は?」 

  「結果は、4~4.5㎝…という数字が出ました。 (現在では、
 もっと顎を引いて楽器を構えていますが!)」

  「この数字は、Violin でさえ、楽器の厚みを下回っています。」

       関連記事 演奏者か、製作者か?


 もしこのとおりで正しいとすれば、“二次元顎当て” を持って
しても、問題はまったく解決されないことになります。

 顎を下げると、今度は楽器の先端が上がってしまう…。


 たびたびご覧いただいている、私の最終作品 (2007年) です
が、厚みは極限まで薄くなり、凹凸もない。 顎は前後左右に
自由動きます。

 

    

 

 しかし、基本的には何も変わっていない…。 

 出願登録の時点から、17年が経過していました。


 下の写真は、それまでの “労作” の一部。

 左の3つは既製品を切断し、削ったものです。


 針金のように見えるのは、“顎当てのネジ回し”。 自転車
のスポークに手を加えたものです。 取り外しの作業が頻繁
だったので、これには本当に助かりました。

 お世話になった楽器製作者、A さんからのプレゼントです。



 


 

 I 様
 
 先日は大変遠方までお越しくださり、ありがとうございました。
 
 「公報」をお読みになったとのこと、まことにお恥ずかしい限り
です。 今考えても欠陥ばかりで、改めて書類を取り出して見る
気になりません。 出来れば廃棄したいほどです。
 
 今はもちろん私自身の考え方がだいぶ違いますので、もし
あのまま推し進めるとすれば、調節機能が必要です。
 
 ① 奥⇔手前、 ② 上 (厚い) ⇔下 (薄い)
 
 「楽器と体格」の組み合わせは無限ですし…。 これだけで
も品物の構造は複雑になります。 しかも、顎の当たる場所は
固定されてはなりません。 Violin と Viola でも、構え方は
もちろん違います。 同じ人物がです。 もっと正確に言えば、
顎の当たる位置が…ですが。
 
 以上の事柄に考慮を払わず、そこそこのものを作ろうとすれ
ば、少なくとも現在の市販品以上のものは出来るでしょう。
 
 しかし、人間が何百年間も信じてきた形、特に奏法は、新し
いものを前にしても、そう簡単には変わるものではありません。
もしそうならば、中途半端な "まがいモノ" が売れても意味は
ありません。 音楽と商売とは、つくづく両立しないと感じます。
 
 今後ともお気付きの点がありましたら、ご教示いただければ
幸いです。               M



 私はさっそく I さんに返事を書きました。 2009年の10月。
このとき、私はすでに顎当てを使わなくなっていたのです。

 しかし自分の奏法が固まるまで、さらに何年もかかろう
とは、この時点でも想像していませんでした。


 

不必要だった必要悪

2014-12-09 00:00:00 | 音楽演奏・体の運動

12/09     不必要だった必要悪




 これまでの音楽演奏・体の運動』目録 です。

  

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 Violin 型の楽器の演奏者が、ほとんど誰でも用いる
肩当て、顎当て。 今回は顎当てについてです。

                 ↑

 ご覧のとおり、色々なものがありますね。 30年以上
前のこと、私はあらゆる市販の製品を集めたわけです
が、その当時には見られなかったタイプもあります。

   (これについては、今回の最後に触れます。)


 さて、貴方が顎当てを選択する際に、何人かに
相談することになったとしましょう。 相手は、先生
や演奏家、楽器製作者、楽器屋さん…などです。

 話を解りやすくするために、その回答を極端に
類型化してみました。 さあ、彼らの答えは…?



 

 ・ 教師 (演奏家)

 「顎の力で楽器を保持するべきだから、a を薦める。」


 ・ 教師 (演奏家)  

 「顎はフリーなほうがいいので、自分は b を薦める。」


 これまで何度か見てきたとおり、奏法の差が
ここでも顔を出しています。 

 (A) 顎でガッチリ挟むか、それとも、

 (B) 出来るだけ顎を解放するか……です。


 詳しく記すと、次のとおりでした。

 (A) 楽器を保持する負担を左手に強いることは、極力
  避けるべきなので、基本的に顎の力で挟む。 それ
  だけで楽器を支持できなければならない。 

 (B) 左手への負担は最小限にしなければならない
  が、顎はフリーであるべきだ。 顎を固定すれば、
  その不自由さは、腕を始め、全身に波及する。 

   顎を含め、身体全体が緊張から解放されるよう、
  運動に無駄のない、効率的な奏法を試みるべきだ。

 

 

 しかし、純粋に教師 (演奏家) のようなタイプは、ひょっと
すると少数派かもしれません。 なぜなら、【道具たる顎当て
には邪魔な厚みがあり、形状によっては、さらに動きの障害
を増すばかりだからだ】…ということにお気付きでしょうか?

 もし、「顎を固定せず、フリーにしよう!」…と心掛けたと
しても、それを妨害するのが、顎当ての 厚み” と、“凹凸
に富んだ形状” だからです。


 先ほどご覧いただいた顎当ての画像の中には、これを
部分的ながら解決しようとするタイプのものも見られます。

 しかしどれも、まだ頸の位置や動きに無理を強いている
のが実情です。 200年以上経っても、顎当てなど、備品
に関する問題は解決されていない…と、私は断言します。

 

 以上は、道具が奏法を限定してしまう、私に言わせれば
“深刻な例” です。  西欧人と日本人との “体格の差” も、
ここでは大きな問題でしょう。




 次は、楽器製作者 の答えです。

 肩当てに限らず、楽器の部品を交換すると音が
微妙に変わります。


 話題は肩当てに戻ってしまいましたが、なるほど、そういう
ものなんですね。 ブリッジ式とクッション式でも音質に違い
があり、「音の倍音成分が異なるから」…なんだそうです。

 クッション式は裏板に接触する面積が広いので、楽器の
振動に有害だ〕…などと、ただ単純には言えないのかもしれ
ません。


 さて、本題に戻りましょう。 顎当ても “部品の一つ”
ですから、やはり交換すると変化があるのでしょうか?

 



 「もちろん、そのとおりですよ!」

 お、登場したのは、楽器屋さん です。


 「取り付け位置は、それほど選択肢がありません。 どれ
もほぼ同じです。 どうせエンド-ピンの周辺ですから、どこ
だって大して変わりゃしませんよ。」

 何が…? それ、弾き易さのこと? それとも、楽器の響き

 「問題なのは材質で、はそれ次第で大幅に変わります!」


 ほう…。 どんな材質があるんですか?

 「まず、安いベークライト製。 テール-ピースの左側に
取り付けるタイプだけです。 これ、最近はあまり見かけ
ないけど、ほかにもたくさんありますよ…。 紫檀黒壇
バラの根。 最近は胡桃の木まであります。 ほら、これ
なんか、色も質感も最高でしょ?」


 で、お勧めは?

 「…そりゃあ…、高い材質のほうが音もいいですよ。 値段
だけのことはあります。 さあ! これなんかいかがですか?
見かけも美しいですよ。 高級感がありますし…。」


 …でも、一番弾き易いのはどれ? ボク、弾き易さを
優先したいんだけどな。 安いのでいいよ。

 「……それなら、ヴァイオリンの先生に訊いてください。
じゃ、さようなら。」 

 



 おやおや、最後は怪しげな、商魂たくましい人物まで登場
しました。 もちろん、こんな楽器屋さんはいないでしょう。

 ただ一つだけ言わせていただければ…。 ファッションに
惹かれて購入しては、絶対にいけません! こんなに大事
な備品を! もちろん、肩当ても同じです。



 さて、楽器製作者や楽器屋さんが、まず重視するのは
“楽器の振動” です。 特に、それが心血を注いで製作
した、自分力作であれば、「より良い条件で鳴らして
ほしい」…と望むは当然でしょう。

 ところが演奏者としては、“弾き易さ” を重視しないわけ
にはいきません。 〔弦が振動してから後の状態〕に着目
するのが製作者だとすれば、演奏者は、【弦を振動させる
まで】が、最大の関心事です。


 演奏家も、楽器の鳴り易さに気を配る必要がある。 また
製作者、楽器屋さんの中にも、演奏に通暁したかたがおら
れるでしょう。 問題は、“発言内容のバランス” なのです。

 しかし、“弾き易さ” と “鳴り易さ” は、最初から必ずしも
両立しない。 相談相手の、先生や演奏家、また製作者や
楽器屋さんが、どの観点から貴方に助言してくれているか
を、吟味べきでしょう。


 “弾き易さ” と “鳴り易さ”…。 もし選ぶとすれば、
今の貴方にとって、どちらが自由な美しい音のため
に必要でしょうか?



 さて私自身としては、“弾き易さ” を優先したいところです。
でも、「それでは、どの顎当てがいいですか?」…と問わ
れると、困ってしまう…。

 なぜなら、どれも一長一短。 はっきり言えば、どれも
不完全だからです。 顎や頸、したがって両腕の運動に 
“何らかの負担” を強いる点では、すべて変わりません。


 自分自身で顎当ての試作を始めたくせに、30年も経って
から顎当てを全廃してしまったのは、そんな理由からです。

 もっと正確に言えば、やっとそれが30年後に解ったから
あれほど〔顎当てで解決できる〕…と信じてやってきたのに…。

 顎当ても肩当ても、使う以上は “必要悪” と割り切るべき
…と、今は考えるようになってしまいました。

 自分が愛してきた対象への思いを捨て、あるいは意識を
封印しなければならぬことほど辛いものはありません。 私
は今、再びそんな状況に置かれているようです。


 ところで先ほど、以下のように記しましたね?

 〔私はあらゆる市販の製品を集めたわけですが、
その当時には見られなかったタイプもあります。〕
       (今回の最後に触れます。)

 

 “当時無かったもの” とは、ご覧いただいている画像の
顎当てのうち、どのタイプのものか、お解りになりますか?


 ヒントは、私が前々回に記した文です。

                     


 〔楽器は左手で持つから、顎当ても楽器の左に着けれ
いい〕…とは、必ずしも言えないことになります。

 これは遠大な問題なので、今回は軽々しく結論を下す
ことは控えます。 “左右” の選択を “一次元” とすれば、
三次元” で解決すべき問題だからです。

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     この最終作品 (2007年) にしても、

     不完全な “二次元顎当て” です。




優先事項は貴方が

2014-12-08 00:00:00 | 音楽演奏・体の運動

12/08     優先事項は貴方が




 これまでの音楽演奏・体の運動』目録 です。

  

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 貴方が Violin 型の楽器を演奏しておられるとします。
普通は肩当て、顎当てを使っているでしょう。


 そこで、もしこれらを買い換えるとすれば、どなたに相談
しますか? 親しい友人は別として。

 先生や演奏家? 楽器製作者? それとも楽器屋さん?

 

 今回は、まず “肩当て編” です。

 種類はたくさんありますが、大別すると、(1) ブリッジ式、
(2) クッション式…に分かれます。

 比較しながら、特徴を幾つか挙げると…、


 (1) は、楽器の裏板には、基本的に接触していない。
したがって、ある程度の高さ (厚み) がある。

 (2) は、面積の多少はあるが、裏板に接触している。
高さ (厚み) は低い。




 「裏板には、出来るだけ接触しないほうがいい。」

 これは、どなたでも指摘する事です。 原因としてすぐ
重い浮かぶのは、〔板の振動を妨げてしまう〕…から。

 この点で、(2) クッション式は不利なようです。 弓の
重さや運動エネルギーまで、あるいは吸収してしまう
のかもしれません。

 

 では (1)、(2) の、どちらが弾き易いか? これは、
奏者によって様々です。

 強いて言えば、楽器を保持、支持する奏法と関連が
あるかもしれません。 以下は、前回の記事でもご覧
いただいた、二つの方針です。

 

 (A) 楽器を保持する負担を左手に強いることは、極力
  避けるべきなので、基本的に顎の力で挟む。 それ
  だけで楽器を支持できなければならない。


 (B) 左手への負担は最小限にしなければならない
  が、顎はフリーであるべきだ。 顎を固定すれば、
  その不自由さは、腕を始め、全身に波及する。

    顎を含め、身体全体が緊張から解放されるよう、
  運動に無駄のない、効率的な奏法を試みるべきだ。

 

 これらは、主に顎当てに関する問題でした。

 (A) 顎でガッチリ挟むか、それとも、

 (B) 出来るだけ顎を解放するか

…の、奏法の差です。


 さて、この問題は、肩当ての選択とも関連があるのでは

 ちなみに肩当ては、

 (1) ブリッジ式のほうがガッチリしている。

 (2) クッション式は、基本的に載せるだけ。


 どちらかに徹底するなら、肩当てと顎当ての組み合わせ
にも充分配慮する必要があると思われます。




 以上を纏めると、

 ・ 弾き易いかどうか…には、奏法によって差がある。

 ・ 楽器の振動の点で、クッション式には若干問題がある。

…というのが、肩当てに関する大雑把な見方です。


 肩当てに関して相談するなら、相手が、どういう観点で発言
しているか? また、貴方自身は、何を今優先したいか?

 この点をしっかり意識しつつ、選択したほうがいいでしょう。



 「お前の考えは?」…と、もし訊かれたら…。


 私は “弾き易さ” のほうを優先してきました。 選んだ肩当て
はクッション式で、空気を入れて量を調節するタイプです。

 試作した当てが、年々薄くなるに連れ、こちらも徐々に薄く
なっていきました。 2008年以後に顎当てを用いなくなってから
も、この肩当てはしばらく使い続けました。


 でも最後は、【鎖骨周辺の凹凸を平らにする】…だけの
意味しか無くなった…と記憶しています。 その肩当ても、
最終的には使わなくなりました。

 そうこうするうちに、身体全体が楽になり、運動のロス
少なくなりました。 奏法の効率が改善されると共に、
結果的に【楽器が鳴りやすくなった】…と感じています。


 疲労が無いと、音も鳴り易いのでしょうか。
そんな場合に限れば、テクニック的にも、
すべてが簡単に思えるほどです。

 またも長い回り道を辿ってきたわけですが。