09/29 私の音楽仲間 (105) ~
テナー記号 (譜表) にも慣れよう
私の室内楽仲間たち (85)
これまでの 『私の室内楽仲間たち』
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(79) Viola が無いよ?
(80) Viola はナイト?
(81) Viola はヴィオラ?
(82) Viola にも鈴を?
(83) Viola がアルと
(84) アルト譜表に親しむ
(85) テナー譜表にも慣れよう
今回は[ハ音記号の正しい読み方]、及び
[♪MusicaMusicaMusica♪]から、譜例を一部手直し
して転用させていただきました。 ありがとうございました。
フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語。
話は急に変わりますが、そのどれにも共通することが
あります。 それは、すべて「ラテン語に由来する」という
ことですね。
かつて私は友人に相談を持ちかけたことがあります。
その友人は、幾つかの外国語に堪能な方でした。
「私も外国語を何とかして身に付けたい」という気持ち
が強かったので、訊いてみました。
「**語と**語では、どちらを選んだらいいだろう?
何か国語かを並行して学習したいのだが…。」
すると彼女は、まず私に質問しました。
「ラテン語関係では、今までに何を勉強しましたか?
そしてそれは、既に貴方の身に付いていますか?」
というものでした。
私が返答に窮していると、彼女は続けました。
「どれかが既にある程度堪能ならば、同じ系統の言語を
学習するのもいいことだと思います。 ヒントになりますから。
でも、もしどれも似たようなものならば、相違点ばかり気に
なるはずです。 逆に混乱し、全体としては却って時間が
かかるでしょう。」
そう言われると、なんだか身につまされてしまいました。
どの言葉も大して勉強したことがなかったので。
「二つ並行してやるなら、系統の違うものを学ぶ方がいい。」
「新しいものは新しいものとして身に着けた方がいい。」
無言のうちにそう言われたような気がしました。
前回は、アルト譜表にどうすれば親しめるか、ご一緒に
考えてみました。
そこに記した事柄の中で、「既に慣れ親しんだト音譜表など
に頼り過ぎてはいけない」、という意味のことを申し上げました。
最初はとっかかりの善い便法に見えても、後になって応用が
利かなくなり、却って難儀するからです。
考えてみれば、この種の事柄は至る所に満ち溢れています。
音楽に限ってみても、それも弦楽器の「左手の拡げ方」だけを
見ても、「危険が一杯」です。
「まず1の指の位置を決め、2、3、4と伸ばして行きましょう」
という教え方が大勢を占めていますから…。
おっと、また脱線しそうですね。 ちゃんと今日で締めないと、
このシリーズは今月中に終わりません。 失礼しました。
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運動の神秘 (4) ~ 指先を広げる ①
運動の神秘 (5) ~ 指先を広げる ②
運動の神秘 (6) ~ 指先を広げる ③
以下は前回もご覧いただいた譜例です。
[ハ音記号の正しい読み方]より
大譜表は、通常ト音記号、ヘ音記号 (バス記号) の二段から
成っています。 ピアノ譜の "右手と左手" を思い浮かべて
ください。
③ "大譜表とアルト譜表"
↑
↑
矢印で示してあるのは、ヴィオラの最低音、ハの音です。
この楽器の音域は、低音部、高音部の両譜表に跨っている
ので、もしこのアルト譜表を使わないと、ト音記号とバス記号を
頻繁に書き換えることになり、大変面倒です。
この大譜表の中に、アルト譜表を挟み込んだのが、次の
譜例です。
[♪MusicaMusicaMusica♪] より、一部改変
もちろん説明のために作られたもので、実際には存在
しません。
④ "大譜表とハ音記号、アルト譜表の関係"
この譜表には、横線が全部で11本書かれています。
中央の加線は、アルト譜表では中心の第3線に当ります。
線上の音符がちょうど "ハ (ドの音)" になるわけです。
そう思ってご覧いただければ、"ハ音記号のハ" は、
ピアノで言う "中央ハ" の音であることが明瞭なので、
全体を把握しやすいでしょう。
アルト譜表では、ご覧の
バス譜表の "ファ"、ト音譜表の "ソ" が、それぞれ
"第1線のファ" (下から数えます) 、"第5線のソ" に当ります。
これは前回もご覧いただいた、① ハ音譜表の数々ですが、
すべてを並べてあるだけなので、全体の中での位置関係は
よく解りません。
これを少し手直しして、中央ハを同じ高さに記したのが、
次の図です。
ト音記号、バス記号を書き加えるとすれば、どの位置に
来ますか?
⑤ 各ハ音譜表の主な守備範囲
このうち、アルト、テナー (テノール) 以外は、今日では
まずお目にかかることはありません。
アルト譜表では、上の④の譜例の横線 11本のうち、
ちょうど真ん中の5本を取り出したことになります。
その代わりに、上の4本、下の2本を消してしまえば、
残った5本がテナー譜表になります。
[Happy Birthday for Score-Reading]
アルト譜表、あるいはテナー譜表を読む場合は、
大譜表全体の中で中央ハの位置をまず意識する
ことから始めてはいかがでしょうか。
その上で回数を重ね、慣れるようにするのが、
結果的には一番早道のように思われます。
なお、Violin をこれまで弾いてきた方々がアルト譜表に親しむ
便法として、運指に頼る方法があります。 線の上にある音符
(第1、3線など) を、基本的に奇数番号の指 (人差し指、薬指) で取る
のが多いことが、両譜表に共通しているからです。
(一方で、第1~第4間は、偶数番号の指です。)
しかしこの場合、読みやすいのは第3ポジションにほぼ限られ、
第1ポジションでは指番号が逆転する (1⇔3、2⇔4) ので、
回を重ねていくと、だんだん応用が利かなくなります。 まして
偶数ポジションはお手上げです。
それに、もっとも大事なこと、
「音の高さを耳で把握しながら、指と結び付ける」
作業がおろそかになる危険があります。
したがって、最初は別としても、今まで親しんできたト音譜表
などを基準にする習慣は、出来るだけ早めに捨てた方がいい
でしょう。 「まったく新しい譜表に出会ったのだ」と、常に意識
することをお勧めします。
最初は "中央ハ" を強く意識しながら。 そして隣りの音、
5度上下の音、オクターヴ上下の音…などと、砦を増やして
いくのです。 こうして次第に空白を埋めていきます。
あとは回数を重ね、"条件反射" が芽生えるのを待つことで
しょう。 その瞬間は、大きな喜びと自信を与えてくれます。
ここから先は余談ですが、私はバス記号で書かれたチェロ
の譜面を、ときどき必要に迫られ、Viola で弾くことがあります。
と言っても楽器の音域が違うので、苦労して読んでも、実際
はちょうど1オクターブ高い音が出ていることになります。 もし
Viola でも出せる音域なら、実音を出すこともあり、またまた面倒になります。
そのときに懸命に闘う相手がいます。 それは、またしても
「1音ずらして読もうとする誘惑」なのです。 前回「ダメ!」と
書かれていた方法を、自分でもやってしまいそうなのです。
頼りになるはずの、「指番号の一致」も、ここでは「奇数・
偶数」の関係がちょうど逆になってしまい、却って邪魔に
なります。
また、鳴っている音が実際はオクターブ高いという現実
も、ときどき邪魔になることがあります。
やはり、「新しいものは新しいものとして」慣れる必要を
感じます。
チェロの譜面では、バス譜表よりむしろテナー譜表の
部分の方が、Viola を手にしていると易しく感じます。
でも私にとって一番難しいのは、Violin を持ってアルト
譜表を読むときでしょう。 これはもちろん冗談半分の
余興か、何かの急場をしのぐ際です。
Violin の最低音は、G線の "ソ" です。 ところが Viola では、
G線は下から二番目に当るので、アルト譜表を見ていると
右手も左手も、条件反射的にその位置に行ってしまうのです。
「Violin を持っている」のにです。
結果的に、Violin の、下から二番目の弦、D線を鳴らして
しまい、「ありゃ~!」ということになるのです。
これが、「楽器の構え方がほとんど同じである」ために起こる
ことなのは、言うまでもありません。
また Viola の最低音、Cが記されていても、Violin では
そんな音は出せるわけはありません。 そう解っていれば、
その部分はパスすればいいのに、つい余計なことをして
しまいます。
あろうことか、Violin を持ちながら「エイ!」とばかりに、
さらに下の弦を弾こうとしてしまうのです。
(5本目の、そんな弦なんか、無いに決まってるのに…。)
出るのは、木を擦る「スーッ」という音だけです。
その逆に、Viola を持って Violin の譜面 (ト音譜表) を
読むのは、さすがに平気です。 習慣の差は恐ろしい
ものですね。
ところがオーケストラの譜面などでは、ハ音記号とト音記号
が交互に出てくることが、実際には頻繁にあります。 時には
ト音譜表が何段か続くことも。
でも楽譜の段が変わると、つい頭の中ではハ音記号が
書かれているつもりになってしまい、いつの間にか7度低い
音を出しているのです。 これは当時の私だけでなく、私が
在団していたオケの仲間も同じでした。
そして、「低い音を弾いている方が安心しちゃうんだよね~。
おや? * * チャンもか!? ハハハ…」と、みなで顔を見合わ
せて笑ってしまうのです。
"集合的無意識" は心理分析の用語ですが、こういうのは
集団的無意識と言うのでしょうか。
あるいは、単なる悲しい習性? それとも集団的自衛権?
自己防衛本能? 高い音は怖いですものねぇ。
あ、高所恐怖症かな!? それとも、都合の悪い記号は見えなく
なる、選択的特殊識別能力?
Viola 弾きは興味深い研究対象であること、請け合いです。
ここまでは、アルト譜表に親しむことを中心に記してきました。
でも、テナー譜表の場合も同様で、根本的な方策は変わらない
はずです。 チェロ、ファゴット、トロンボーンの方々にも、何らか
の参考になれば幸いです。
ところでつい最近、[I教授の談話室]に次のような記事
が載っていました。
モーツァルトのオリジナル楽譜では、ソプラノ、アルト、
テノールは、ハ音記号で書かれています。ソプラノは
ソプラノ記号(第1線がc)、アルトはアルト記号(第3線
がc)、テノールはテノール記号(第4線がc)で書かれて
いるのです。バスは、へ音記号。全部違う記譜法です
から、読むのがたいへんです。この点では、バッハも
同じ。ト音記号は、声楽用には使われませんでした。
… …
この記事の本題はこの後です! 続きをどうぞ。 → (2009年09月14日)
なお今日出版されている譜面には、
①「我々が読み易いようにト音記号、
バス記号を中心に書き直したもの」、
②「読みにくいが、原典に出来るだけ
忠実な譜表を使ったもの」
の二とおりがありますが、②を目撃するのは稀です。
(この項終わり)