MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

2月の記事の一覧

2014-02-28 00:00:00 | インポート

02/28



       今月の記事の一覧です。




02/01  頭の体操 (141) 漢字クイズ 問題/解答


     

       私の室内楽仲間たち

02/07   これが第二主題?

02/09   どちらもマイナー

02/11   増長するモティーフ

02/13   象徴の現実

02/17   傑作への誘 (いざな) 

02/20   旋律美と構成美

02/22   より自由に

02/26   初期の不徹底?

02/27   自由に、繊細に




02/28   今月の記事 ~ 一覧





自由に、繊細に

2014-02-27 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

02/27 私の音楽仲間 (567) ~ 私の室内楽仲間たち (540)



              自由に、繊細に




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




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        Beethoven の弦楽五重奏曲ハ長調 作品29
                 旋律美と構成美
                   より自由に
                 初期の不徹底?
                 自由に、繊細に
                遊びは似合わない?




 「トリオ (中間部) から戻ったときには、書かれた “繰り返し” は
省略する。」 …メヌエットやスケルツォ楽章での “常識” です。

 「しかしテンポが速い上に、8小節しか無い。 本当に省略して
いいのか?」 …これも、よくある例です。



 「さすがに、これは繰り返さないと印象が薄いのではないか?」

 「いや、そのほうがあっさりしていていいよ。 繰り返すとクドイ。」




 Beethoven の弦楽五重奏曲 ハ長調 Op.29 の第Ⅲ楽章、
“スケルツォとトリオ” も、そんな例でした。

          関連記事 初期の不徹底?



 ここでは手始めに、同時期の作品を見てみましょう。 6つ
の弦楽四重奏曲、作品18の数曲です。




 最初は “18-3” から、第Ⅲ楽章です。 全体は三つの部分に
分かれ、(1) “Allegro”、(2) “Minore”、(3) “Maggiore” の文字が
見られます。

 (1) と (3) は同じ音楽で、それぞれは “長調”、“短調”、“長調
から成っています。



 実質的には “スケルツォとトリオ” ですが、そうは書いてない。

 速い 3/4拍子が終始続きます。 途中でテンポが変わるわけ
ではありません。



 譜例は、冒頭の “Allegro”。 最初の8小節間が繰り返されます。

 次の “Minore” が終っても、この譜例へは戻りません。








 そして、次の (3) “Maggiore” へ入るわけですが、音楽は、
最初の “Allegro” と同じ。 ここでも “繰り返し” があります。

 ただし、記号で指示されているわけではない。 書き方が
違うのです。
                             ↓

                             ↑

 9小節目からは音域が上がり、もう一度テーマが聞かれます。

 同時に、元の低音域を Vn.Ⅱが担当しています。 Violin 2本
が1オクターヴで重なり、テーマを強調しているのです。



         関連記事 素っ気ないのはなぜ?




 次の譜例は、作品18-5 のメヌエット。 第Ⅱ楽章です。

 主題の長さは12小節です。




              ↑

 これは Vn.Ⅰのパート譜ですが、13小節目からは Viola
が、同じテーマを繰り返します。 1オクターヴ低い音域で。



 やはり記号はありませんね。 その代わり、“2回目” に
変化を付けつつ、主題が繰り返されます。




 同じような例は、後の『ラズモーフスキィ』第3番でも
見られます。 テーマの長さは8小節です。







 この後は、全員が1オクターヴ下で、同じことを繰り返します。

 繰り返し記号は無く、16小節が “延べ” で書かれています。



           関連記事 優美な音階




 さて、この3曲。 最初の8小節、または12小節を、
結果的に繰り返していることになりますね。

 そこで貴方の解釈は、以下のどちらでしょうか?



 「変化を付けるのが目的だから、必然的に
繰り返すことになっだけ。」

 「いや、繰り返すのが主目的に決まってる
でしょ。 ついでに変化させたのさ。」




 その結論次第では、今回の問題にも影響が及ぶでしょう。



 「Beethoven は、最初の短い部分を、いつでも反復して
ほしいのか? あるいは場合によりけりか? それとも、
慣例に従い、二回目は繰り返してはいけないのか?」




 作品18-4 にはハ短調のメヌエットがあり、型どおり、トリオ
から戻ります。 書かれた指示は、次のようなものだけです。

 「二回目のメヌエットは、最初より速く。」







 その際の “細かい繰り返し” については、やはり言及が無い。



 「なぜ書いてくれないの…。 書かなくても当然だから?
だったら、それ、どっちさ? 繰り返すの? しないの?」

 それとも、演奏者の自由に委ねたの? まさか…。 



       関連記事 素っ気ないのはなぜ?




 中期の弦楽四重奏曲では、Beethoven が誤解の余地
なく、繰り返しについて指示している例も見られます。

 一つは、『ラズモーフスキィ』第2番



 その第Ⅲ楽章は、二つの部分で出来ています。

 “Allegretto” と “Maggiore”。 例によって、前者
は “Minore” (短調) です。








 そして、ホ長調の “ロシアの歌”。

 最初の音が、主音の “Mi” です。

     ↓






 全体は次のとおり演奏するよう、指示されています。

 Allegretto” → “Maggiore” → “Allegretto” → “Maggiore” → “Allegretto”。

                    ↑               ↑

 その際、2回目と3回目の “Allegretto” では
以下の指示が、はっきり書いてあります。

 “senza replica”。 「繰り返しは無し。」



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 これと構造が似ているのが、『ハープ』の第Ⅲ楽章です。



   (1) “Presto”  →  (2) “Piu presto quasi prestissimo”

 → (3) “Tempo Ⅰ” → (4) “Piu presto quasi prestissimo”

 → (5) “Tempo Ⅰ”。



 “Tempo Ⅰ (テンポ プリモ) は、ここでは “Presto
の意味です。 調性はハ短調。







 (2)、(4) は、さらに急速で、ハ長調の音楽です。




 全体は、このように “延べ” で書かれており、「どこに戻るの
か?」…と、演奏中に神経を遣う必要がありません。 そのまま
楽譜を追っていけばいい。 

 しかし、内部に繰り返し記号が見られるのが、(1) と (3) です。



 (1) の “Presto” は、短 (8小節)、長 (68小節)の、
二つの部分から出来ています。

 繰り返しは、共に “あり” ですから、これを
【○ ○】で表わすことにします。



 (3)は、前半の短い部分だけ、繰り返しが “あり”。

 【○ ×】です。



 (5)も、やはり【○ ×】ですが…。

 ○の部分は、8小節がフォルテ、続く8小節はピアノ。
ここだけは “延べ” で書いてあるのです!




 この繊細な、Beethoven の表現…。

 出来上がった楽譜を眺めるだけでは、
見過ごしてしまうかもしれません。




 私の至らない説明だけでは、「理解不能。 曲の構成が
複雑に見えるぞ!」…と言われても、仕方ありません。



 しかし、この『ハープ』の第Ⅲ楽章では、“よりスリムに”
…というのが、全体の基本的なアイディアのようです。
小節数の点でも、また強弱の音量を見ても。

 楽章の終わり方は、pp の半終止。 短いフェルマータ
の後、すぐ終楽章が始まります。




 この『ハープ』(Op.74) は、1809年の作品です。 1801年の
6曲(Op.18) とは、作風もかなり異なっていますね。

 いずれにせよ、作曲者が “繰り返し” を、より厳密に指示
しているのが、お解りいただけるでしょう。 もちろん、誤解
を防ぐ必要もあったからでしょうが。



 しかしさらに重要なのは、“作品の構造” との関連です。

 形式から解き放たれた、“自由な構造”。 そこでは、繰り返し
の “有無” や“変化” が、作品の中心的な問題になっていった
と思われます。



 彼の作品から、いつの間にか姿を消してしまった用語がある。
メヌエットだけでなく、トリオや、スケルツォでさえも…。

 初期の作品では、それらの用語を使っていたのに。



 その点では、この繰り返しの有無の問題も、初期の作品
では伝統に従い、慣用的に判断すべきかもしれません。




 しかし、それだけでは片付かない問題が残ります。



 前半が8小節しか無い…。

 テンポが、前の時代とは比べ物にならないほど速い…。

 後半の小節数が、圧倒的に多い。



 これらを考えると、“前半8小節” が埋もれない
ように、うまくバランスを取る必要があるでしょう。

 いざ、私たちが作品に取り組む際には。




 「Beethoven なら、どうしたろうか?」

 作曲者に成り変わり、必死に想像を巡らせながら考える。



 少なくとも、伝統や慣用に縛られる必要は無いでしょう。

 もっと自由に…。 Beethoven の度合いには近づけなくとも。




           弦楽五重奏曲

           [音源ページ




初期の不徹底?

2014-02-26 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

02/26 私の音楽仲間 (566) ~ 私の室内楽仲間たち (539)



             初期の不徹底?




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




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                遊びは似合わない?




 演奏例の音源]は、Beethoven の弦楽五重奏曲 ハ長調
Op.29 から第Ⅲ楽章、“スケルツォとトリオ” の一部です。

 トリオの後半から、冒頭のスケルツォに帰り、楽章は終わり
ます。 スケルツォのテーマを担当するのは、主に ViolinⅠ。
でも、あちらこちらから大事なモティーフが聞えます。



 おや! それどころではありませんね。 スケルツォへ
戻った直後に、どうやら事故が起きているようです。

 この音源では、スケルツォへ入るのが、【0:23】の時点。
そして問題の箇所は、【0:29】の辺りです。




 「ははあ、なるほど。 さては…。」

 鋭い貴方には、事故の原因が思い当ることでしょう。



 そうなんです。 ここは “繰り返し記号” が印刷してある場所…。

 その記号のとおり、もう一度スケルツォの頭に戻った者と、先へ
行った者、その両方がいたからです。 大多数は先へ進み、残り
の者も気が付いて、すぐ同調したわけですが…。




 これでは、堪ったものではありません。 もし作曲者が聞いて
いたら、雷の一つや二つは落ちることでしょう。

 次の[譜例 1]はスケルツォの冒頭で、Vn.Ⅰのパート譜です。 



 ご存じのとおり、トリオから戻ったときには、スケルツォ内の
繰り返しは省略します。 それが当たり前なので、どの時代の
作曲家も、いちいち注釈を加えないのが普通ですね。

 今回の演奏も、同じつもりでした。 「“ストレート” (戻ったとき
には繰り返さない)
だよ」…と念のために確認してから、楽章を
始めたほどですから。



 「それでも “間違えた” 者がいたのか。 けしからん!」

 …まあまあ、お待ちください。 音を出したのは一回だけ
ですから。 おまけに、それだけでは片付かない問題まで
あるようなんです。







 ご覧のとおり、この最初の部分は8小節しかありません。
時間にすると、ほんの数秒間です。

 「…なるほど。 一回だけで先へ進んでしまうと、ちょっと
印象が薄いかもしれないな。 聞く者にとっては…。」



 そうですね。 にもかかわらず、“繰り返さない” のが
慣例です。 作曲者も、ここでは何も指示していません。

 指示が無いからには、やはり、絶対に繰り返しては
いけないのでしょうか?




 これと似たような例が、[譜例 2]です。

 テンポもほぼ同じ。  ここは “Allegro molto e vivace”
で、先ほどは “Allegro” でした。







 曲は、やはり “Beethoven の第Ⅲ楽章” で、交響曲
第1番。 弦楽器の部分だけ、ご覧いただきました。

 “Menuetto” と書かれていますが、「テンポも性格も
スケルツォ的」…と言われることが多いですね。



 この冒頭部分も、やはり8小節しかありません。

 「そういえば、もう一度繰り返した演奏を聞いたことが
あるよ…。」 そんなかたも多いのではないでしょうか。




 ですから、先ほどの事故も、誰かが “つい繰り返してしまった”
のかもしれません。

 単に注意不足で “間違えた” のではなくて…。 “繰り返し” の
演奏を日頃から聴いていて、それに慣れてしまったのでは?



 私も、実は迷いながら提案していました。

 (繰り返したほうが自然だけどな…。 でも、却って
混同するとまずいよね。 時間も無いことだし…。)




 この二つの作品は、作曲時期もほぼ同じです。 以下は、この
曲の関連記事で私が書いたものです。

 …この『弦楽五重奏曲 ハ長調 Op.29』は、1800~01年にかけて
作られ、1802年に出版されています。 作曲者がちょうど30歳を
越えた頃の作品で、『交響曲第1番ハ長調 Op.21 (1800年初演)』、
『6曲の弦楽四重奏曲集 Op.18 (1801年出版)』の直後に当ります。




 さあ、貴方ならどうしますか? 以下は二つの意見で、
まさに両極端です。



 「“二度目も繰り返せ” などとは書いてない。 だから慣例どおり
に演奏するべきだよ。 誤解を防ぐ筆致が Beethoven の信条だ。
余計なことをしてはいけない。」

 「いや、逆だよ。 たとえ慣例でも、彼なら “繰り返すな” と書い
たはずだ。 それが無い以上、前半も後半も繰り返すべきだよ。
メヌエットだろうが、スケルツォだろうが。」



 それとも、メヌエットとスケルツォでは、違うのでしょうか?
また冒頭では、小節数も関係してくるのか?

 私も、いよいよ解らなくなってきました…。




 ちなみにピアニストのかたも、おそらく BEETHOVEN では
悩んでおられるのではないでしょうか。 ピアノ-ソナタでは
初期のものを見ただけでも、同じような事情があるようです。



 作品2の三つのソナタ (1795年) は、以下のような外観です。

       Op.2-1 : メヌエット、14小節。

       Op.2-2 : スケルツォ、8小節。

       Op.2-3 : スケルツォ、16小節。



 ピアノ-ソナタで、以後メヌエットが現われないわけでは
ありません (作品10-3、1798年作 など)

 また、どちらでもない三拍子の曲が、“第Ⅲ楽章” として
置かれている場合もあります (作品7、1797く年作)。 結局
“3種類の三拍子” が混在していることにになります。



 さらに、楽章の数が “4より少ない” ソナタ (作品10-1、
1798年作)
もあります。 この場合、“第Ⅲ楽章の三拍子”
が無いのです。




 結局のところ、「メヌエットは古風なので、前半は8小節」…
などとは絶対に言えません。

 逆に、「BEETHOVEN でも、スケルツォと名が付いている
からといって、革新的な楽章だとは限らない」…のです。



 どんなに “革新的” に見えても、メヌエットは彼にとって、
あくまでも “メヌエット” なのでした。




 さて、この “繰り返し” の問題ですが、さらに他の例も見る
必要があるようです。

 “作品18 の弦楽四重奏曲” では、どんな様子なのか?



 メヌエット? スケルツォ? それとも、やはり “3種類の
三拍子” があるのでしょうか。

 小節数は、そして、繰り返しはどうしたらいいのか…?




           弦楽五重奏曲

           [音源ページ



           交響曲 第1番

   [音源ページ (1)]   [音源ページ (2)




より自由に

2014-02-22 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

02/22 私の音楽仲間 (565) ~ 私の室内楽仲間たち (538)



               より自由に




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




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                遊びは似合わない?




 譜例は、Beethoven の弦楽五重奏曲 ハ長調 Op.29 から、
第Ⅱ楽章の冒頭です。 Vn.Ⅰのパート譜です。

 演奏例の音源]も、ここからスタートします。







 おや? 音源は譜例の途中から、コースを外れて
しまいました。 そのまま延々と3分も続きます。

 それに、曲の雰囲気が全然変わりません。 音楽
は単調そのものです。



 それもそのはず。 音源は、このテーマが出て来る
箇所を、編集で繋げてしまったものだからです。

 最後は、曲の終りの部分です。 長い休符ばかりで、
音符はまばら。 音符は八分音符で、スタカートまで
書いてあり、なかなか間 (ま) が持ちません。




 作曲者は、“Adagio molto espressivo” と指示している。
典型的な “歌の楽章” です。

 第Ⅰ楽章でも、テーマは二つとも “歌” でした。 しかし
こちらの方が、もっと自由なようです。



 この楽章では “モティーフの展開” など、他の技法に、あまり
気を遣わなくていいからでしょう。 束縛が少ない。 しかし第Ⅰ
楽章はソナタ形式なので、そうは行きませんでした。

 逆に言えば、ここでは、「“展開に堪えるテーマ” を “創作する”
必要が無い。」 極言すれば、メロディーを思い付きさえすれば
いいのです。



 作曲の際の思考も、時間軸どおりの順序ではありません。

 ところが、完成した作品においては、事象は、あたかも
自然な流れに沿って起こるかのように感じられる。



 そこが凄い。 作家も、作曲家も。




 しかし Beethoven は、それなりに趣向を凝らしています。 一度
お聞きになっただけでは、解りにくいかもしれませんが…。



 ・ 同じようなモティーフで、合いの手を入れている楽器がある。

 ・ テーマはヘ長調。 しかし一瞬、別の調 (変イ長調) で現われ
  たかと思うと、すぐ元の調で聞こえ、最初の雰囲気に帰る。

 ・ 単調にならないように、部分的にテーマが変化、修飾されて
  いる。



 …などです。




 前回の記事は、『旋律美と構成美』という題名でした。 これを
両立させるのは、どんな作曲家にとっても難題のようです。



 旋律美は、もちろん歌。 何物にも縛られず、どこまでも自由
に流れていく方が美しい。

 片や、全体が緊密に連携した建築美。 各部分の自由度は、
それだけ薄れます。 細かいモティーフに至るまで。



 Beethoven にも、この両立を目指した作品例が、他に無い
わけではありません。

 私がすぐ思い浮かべてしまうのは、交響曲の第2番です。
第Ⅱ楽章 “Larghetto” は、この上なく美しいテーマで始まり
ながら、中間部には、文字どおり劇的な “展開” があります。




 しかし彼は、この道を押し進めようとはしなかった。
“両立” は、この大作曲家にとっても、恐らくたやすい
ことではなかったのでしょう。

 不可能とは言わないまでも、二律背反的と言える
のが、この両面のように思われます。



 「どちらかを選ぶとすれば、自分は…。」




 結果として、彼は一部の学者、演奏家、評論家から、
次のように指摘されることになりました。

 「Beethoven は、美しい旋律を書くのが苦手であった。」




 彼は、超一流の “歌の作曲家” になったかもしれない。
ただ、それを選択しなかっただけでしょう。

 「自分にとって、もっとも自然な、音楽的思考法は何か?」



 それを判断するのに必要なのは、客観的、論理的な思考。

 彼にそれが欠けていたなどとは、私たちはとても信じること
が出来ません。




 以後、大半の作品で “歌を断念した” と思われる
時期が、しばらく続きます。



 「“不自由な作曲法” だって? 私がどんな音楽を
目指そうと、自由ではないかな…。」




           弦楽五重奏曲

           [音源ページ



           交響曲 第2番

   [音源ページ (1)]   [音源ページ (2)




旋律美と構成美

2014-02-20 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

02/20 私の音楽仲間 (564) ~ 私の室内楽仲間たち (537)



              旋律美と構成美




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




 今回は、まずクイズです。 下にある[音源]をお聞きください。

 そして、この曲の作曲者を当てていただきたいのです。



 それは以下の3人のうち、誰でしょうか?

   Haydn    (1732~1809)

   Mozart    (1756~1791)

   Beethoven (1770~1827)




 譜例は、Vn.Ⅰのパート譜です。 2/2拍子、Allegro moderato、
ハ長調。 ある室内楽曲の、第Ⅰ楽章です。

 演奏例の音源]は、譜例の4小節前から始まっています。



 あ、曲をご存じでしたか! “まいりました”! かく言う
私より、貴方のほうが室内楽曲に通じておられます!








 この音源でスタートするのは、中低音の楽器ですね。

 次いで同じような音色の楽器が、すぐ続いています。



 最初の音は…。 低音の Mi と Si。 音域は、
ピアノの “中央ハ” より下の音です。

 チェロ? それとも Viola ?



 これを追う楽器が、一つ、二つと続きます。
二つ目が、譜例にある Vn.Ⅰでした。

 これで、楽器は四つですね。




 さて、その先。 譜例の7小節目で聞こえるの
は、チェロの低音です。

 【Sol - - Fa# / Sol Fa# Sol La】…。 先立つ
仲間と、同じ動きをしています。



 最初に Mi で登場する楽器は、やはりチェロなの
でしょうか? すると弦楽四重奏? いやそれとも、
チェロは2台あるのか?

 あるいは、最初の楽器は Viola だったのか? もし
そうなら、楽器は少なくとも五つあることになります。




 これ、実は弦楽五重奏でした。 編成は “弦楽
四重奏 + Viola”、つまり “Viola が2本” の…。

 そうなると、消去法で無くなるのが Haydn です。
彼には弦楽五重奏の作品は無いから。



 この編成で傑作を何曲も書いているのは、Mozart
ですね。 そのうち、第Ⅰ楽章がハ長調の作品という
と、名曲の K515 しかありません。

      関連記事 羽を伸ばす Mozart など




 でも、なんとなく感じが違いますね? …となると、残りは…。

 しかし、Beethoven に弦楽五重奏曲なんか、あったかな…?



 実は私も最近まで知らなかったのですが、正真正銘、彼の
作品です。 しかも編曲物ではなく、最初からこの編成で作曲
されたようです。




 「なんとなく感じが違う。」

 …実はこれが、一番大事な決め手でした。 作曲者を
特定するためには。



 貴方は、最初から見破っておられたかもしれませんね。

 “曲の感じ”、つまり “作風”、“作曲のスタイル”…という
観点から判されて。 大拍手です!



 でも理屈っぽい私は、楽器の数を数えるだけでした。
それは、“直感” には及びません。

 貴方が作曲家の個性に慣れ親しんでおられたら…。
きっと、難なく当てられたのではないでしょうか。

 「Beethoven に違いないよ!」




 曲の詳細については、以前の関連記事などをご覧ください。



                関連記事

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  弦楽館 の中には、曲目解説ページがあります。



 フォン・フリース伯爵 (Moritz von Fries、1777-1826) に献呈されて
いるので、おそらく委嘱作品でしょう。 それが、この編成で作曲
された理由かもしれません。

 完成は1801年、ということは、31歳の年の作品ですね。 翌年
に、“Leipzig: Breitkopf und Härtel” から出版されています。




 お聞きいただいた音源の箇所は、展開部の終り
から、再現部にかけての部分です。

 若き作曲家が、ドラマチックな演出を試みている…、
そう聞こえなくもありません。




 扱われているのは、すべて第一主題でした。

 【Do - - Si / Do Si Do Re】…。



 [音源]の部分のスコアです。







 最初に弾き始めたのは、ViolaⅡ。 そして、音
の高い楽器が順に顔を出します。 最後は低音
のチェロが、[譜例]の後に登場します。

 各楽器の、出だしの音を見てみましょう。 順
に、Mi、Si、Fa、Do、そしてチェロの Sol。



 音名だけ単純に見れば、完全五度ですね。

 私など足元にも及ばない、完全な理屈っぽさです。



 先ほどの[音源]は、Violin 私、T.さん、Viola が W.さん
H.さん、チェロ M.さんです。





 よく Beethoven について言われるのは、「美しい旋律を
書くのが苦手であった」…なる指摘ですね。

 でも、果たしてそれは正しいのでしょうか。 この楽章を
聞いただけでも、再考を要するように思われます。



 ちなみにこの楽章は、第二主題も、やはり “歌” です。
私には、さらに伸び伸びと聞こえるのですが…。




 メリハリの利いたリズム。 まるで細胞を切り刻んだかの
ような、原始モティーフ。

 そして、それらを徹底的に使い尽くす、意志力と建築美…。



 後に見られるそのような作風は、まだ聞かれません。




           [音源ページ