01/29 私の音楽仲間 (14) ~
Schubert の 弦楽四重奏曲 『死と乙女』 (3)
私の室内楽仲間たち (13)
関連記事 『死と乙女』
最後の曲は SCHUBERT
三連符の見え隠れ
移ろいの背後の混沌
苦悶の果ての長調
揺れ動く転調
切ない半音階
叫ぶ乙女、棒読みの骸骨
死神だけが生まれ変わる?
束の間の小春日和
死神と踊る?
絶望感の表現
死神の訓示
彼方なるタランテラ
切実になった死
乙女の苦しみ
[音源たち (すべて全楽章収録)]
この有名な曲、昨年までは、恥ずかしながら直接経験する
ことがまったくありませんでした。 それが、別のグループで
これを取り上げ、ほぼひと月に一回のペースで練習を始めて
以来、自分にとって急に身近な曲になりました。
そして、やればやるほど感じるのが、この曲に賭けた、
作曲者の執念です。
曲の構成、ハーモニー、動機の扱いなど、手段の密度が
高いだけではなく、それらを超えて、聴く者に、そして演奏者
に迫ってくるものがあります。 いや、すべてが一体となって
いるからこそ、伝わってくるのでしょう。
作曲者の心の底の、形を成さなかった何かが。
それが楽譜となって今日残り、演奏者はその音符を見ながら、
曲の裏を紐解いて行くわけです。
あのフルトヴェングラーが言っていたのを思い出します。
「作曲者と、ちょうど逆の手順を辿り、演奏者は、楽譜から
その混沌としたものに迫る。 作曲者でさえ無意識で
気付かなかったかもしれない、そのカオスの状態に。」
メンバーは、Violin がO.さんとSa.さん、Viola が私、
チェロは前半と同じ Toshiyuki さんです。
O.さんはこの場でご紹介するのは初めてですが、実は
昨年末から何度か参加しておられ、Viola も達者な方です。
私自身が公私に亘って大変お世話になっている方なのです
が、ほとんど偶然とも言えるようなきっかけで、ご一緒する
ことになったものです。
そこでも一役買ったのがSa.さん。 「類は友を呼ぶ」と
言いますが、Sa.さんの周りに人が吸い寄せられる様子
は、見ていてまったく不思議です。
Sa.さんはこの日お誕生日。 お蔭で私もケーキの
ご相伴に預りました。
しかし、曲が『死と乙女』。 "ケーキが怖い" 私としては、
食べたあとの怖さも気になるところです。
実は自分は、Viola でこの曲を弾くのが初めてでした。
これまで弾いてきた Vn.Ⅰのパートは、ある意味で単純、
一本調子とも言えるのですが、Viola のパート譜を見ただけ
では、全体の様子がほとんど想像できません。
これは何の曲でも同じなのですが、特にこの曲では
"変わり身の素早さ" を要求されました。
主役か脇役か、リズム音符かハーモニー音符か。
また、テンポ作りにおいて "主従" のどちらなのか…。
これらには、大まかな "建前" がありますが、相手に
よっては、立場を逆転させなければならないことが、
どんな曲でも往々にしてあります。
その場の判断です。
実生活の対人関係と、まったく同じであることに
気付かされます。
そして Viola の仕事で、どんな曲でも一番難しく、また
やり甲斐のあるのは、バランス作り、ハーモニー作り
です。 そのときに聞こえてくる、もっともマークすべき
パート、相手に照準を合わせます。
バランス作りにおいては、印刷された強弱記号は
ヒントに過ぎません。 と言っても、ただ "大きく"、"小さく"
というのではありません。
よく "透明なフォルテ"、"芯のあるピアノ" と言いますが、
フォルテ、ピアノは、音量の差と言うより、音質の差では
ないかと感じさせられることが、最近は多くなったような
気がします。
そして、バランス作りと並んで大事なのが、美しい
ハーモニー作り。 特に三度の。
これについては、『"メサイア" を巡って』中、「音程の難所」
の記事で詳述しました。
20081115
20081116
20081117
以下は第Ⅱ楽章について記します。
ゆっくりで、長い音符の多い楽章ですが、しょっぱなに
早速 ト短調の第三音が出てきます。
曲が明るくなった97小節目では、ト長調の第三音。
ただし、再びト短調に戻った 121小節目、ここは自ら
テーマを奏する箇所ですが、最初の自分の音は第五音
から始まるので、ハーモニー的には、音程にはそれほど
神経を遣いません。
しかし楽章が終わりに近づくに連れ、Viola には "ハーモニー
楽器" としての役割が、飛躍的に増していきます。
属和音の第三音の Fa#。 そして、"明るい救い" である
かのような、ト長調の第三音が頻出し、この有名な楽章は
終わります。
この第Ⅱ楽章については、次回に音源を用意する予定です。
曲がゆっくりであればあるほど、一つのハーモニー
には長い時間が与えられるので、音程の取り方は
"ハーモニー主体" になります。 逆にテンポの速い
曲では、"音階本位" でいいのです。
大別すれば、音程に縦方向の束縛があるか、
それとも横に動く自由が与えられているか、と
いう問題になります。
しかし曲によっては、テンポが "どっち付かず"
のこともあり、頭の痛いところです。
特に、長調の第三音に、メロディー的な "明るさ" が
必要な場合です。 ハーモニー的には、かなり " 暗く"
取らねばならないのですから。
この日、音出しが終わると、チェロの Toshiyuki さん
が声をかけてくれました。
「三度がピッタリ決まると、気持ちいいねえ!」
ハーモニー作りに関してはうまく行ったようです!!
よかった…。
幸いにして "ケーキの呪い" は、この不吉な曲に
おいては無かったようです。
(続く)