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MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

俯瞰検閲集団

2014-09-01 00:00:00 | その他の音楽記事

09/01         俯瞰検閲集団



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 音源は前回と同じで、[譜例]の9小節ほど前から始まります。

 

                   

               問題の箇所です。

 

 

 [私が弾いていた]そのオーケストラは、アマチュア オケで
はありません。 にもかかわらず、パートの全員が走っていた
とは…。 もちろん私も一緒でした。

 実は、お聴きいただいた、上の[音源]でも、同じことが起き
ているのですが、お気付きになったでしょうか?


 pp で、音が小さいこともあり、聞こえにくい。 でも、Viola
のこの4小節間を、厳格判定してください。

 直前同じテンポを、正確にキープしながら。 デスクを指
で叩くなどして、聞こえてくる Viola の音には、決して惑わされ
ないように! “聴くだけ” より、身体の一部でも動かすほう
が、テンポ感は正確だろうと思われます。


 すると、ごく僅かだが急いでいる。 ♩音符にして “1つ半”
ほど早く、続くチェロ、コントラバスが入って来るのですが、
お解りでしょうか。 これ、フルトヴェングラー指揮、ヴィーン
フィルの、名盤とされている演奏です。

 また、このページ末にもありますが、音源ページ 
から、他の演奏を聴いてみてください。 どれも♩音符
“半個”~“2個” 分ほど急いでいます。


 私の弾いていたオケだけではなかった…。 名盤を含む
どの演奏でも、“急ぎやすい箇所” である。 そう言うこと
が出来そうです。

 「まさか、そんなことがあるのかね?」

 名演奏に親しんでいる皆さんは、疑問に思われるかも
しれませんね。 でも、あるんです、残念ながら。


 「じゃあ、どうして辻褄が合っているんだ?」

 …強いて言えば、急いでいた Viola に【皆が合わせて
くれている】からです。 指揮者も、低弦セクションも。


 「そんな演奏で金を取っているのか? お前たちは。」

 ……はい、そうなんです。 申しわけありません。

 一つだけ言い訳をすれば、【先立つ音をよく聴いてから
入る】というのが不文律なんです。 アンサンブルの世界
では。 俗な表現だと、『長いものには巻かれろ』…です
よね? 事を荒立てるよりは、穏便に解決を…。


 「でも、それでは、いい音楽は生まれないだろう!」

 そうなんです! だからこそコントラバスの N君が、
私にそっと耳打ちしてくれたんですよね。 とにかく私
は、さっそく正確なテンポで弾くよう心掛けました。


 「そんな自信があるのかい? 自分もいい加減だった
くせに。」

 はい、ですから、直前と同じテンポを強く意識し、同時
に指揮者の身動きに注意しながら、彼の手の運動範囲
を[逸脱しないように]、自分なりに正確に弾きました。


 「他の Viola のメンバーには事前に伝えたのか?」

 そんな暇なんか、ありません。 だから、結果は当然…。


 「お前がアンサンブルを掻き乱した…形になった
んだろう? 問題児め! いつも吊し上げを食って
いたんじゃないのか?」

 いいんです、“異端児や?” と呼ぶ人もいましたから。

 「……。」

 


 

 N君が指摘してくれたとき、[コントラバス全員がうなづき
ながら、私の顔を見た]…と書きました。

 考えてみれば、当然のことです。 彼らは、私たちの後に
続いて正確に弾き始め、正確なテンポで刻む義務がある。
それなのに、先行するパートが走っていては、ただ辻褄
合わせるだけ。 確固とした音など出せません。


 もしアンサンブルが乱れれば…。 続く Violin たちにも
影響する恐れがある。 ここは音楽的にも大事な場所で、
楽章の冒頭と同じ雰囲気を作り出す必要があるんです。

 事は、[ただ Viola が急ぐ]だけの問題ではなかった。
オーケストラ全体にとって、また Beethoven の音楽に
とっても、かなり重要な箇所だということになります。



 さて、先ほど『長いものには巻かれろ』…と書きましたが、
これでは、フルトヴェングラーに対して失礼ですね。 実は
名指揮者といえども、[オケに乗る]…姿勢が大事なんです。

 …任せるべきところは任せ、自分がリードするべき箇所
アクセルを踏む。 だから、たまにはこういうこともあります。


 でも ヴィーン フィルを含め、“世界的に急ぐ傾向がある
場所”…ということになると、ちょっと気になりますね。

 貴方は、オーケストラ演奏を経験し、この曲を弾かれた
ことありますか? では、この箇所、いかがでしたか?
ひょっとすると、そのときも…。


 同じ Beethoven の第7交響曲…。 第Ⅰ楽章には、あの
“ターッ タ、ターッ タ” という、6/8拍子のリズムが出て
きます。 これ、とても難しい。 “タッ タ、タッ タ”…と、
2拍子系になりやすいのです。 学生オケ時代の指揮者
H先生は、「世界的な難所だ。」…と言っておられました。

 今回は、“難所”…とまでは言えません。 目立たないし、
二度限りのことですから。 繰り返しがあるので。


 でも、[どこでも、誰でも]…ということになると、何か共通
原因がありそうですね。 技術的に!

 深入りは避けますが、重要と思われる順に見てみると…。


 (1) これが Viola の最低弦、C線上の音であること。

 弦楽器では、弓と弦の角度が重要で、とりあえず “直角”
が基本です。 これを外れると、発音の効率が悪くなり、
色々不都合な事が起こる。

 今回のスピカート奏法も、その一例で、低弦に向かうほど、
一般的に “角度のロス” が大きくなります。 するとしっかり
発音できず、必然的に急いでしまう。 急いでも自覚が無い。
【感覚がテンポ感】だから。 関連記事 破綻を好むダークマター

 (逆に、チェロ、コントラバスでは、高弦方向です。)


 (2) 音量が pp であること。

 これには色々な意味があります。 演奏者は弓幅を少なく
してしまいがちなので、急ぎやすい。 [音量が小さい]のと、
[発音がボケている]のとは、まったく別の問題なのです。

 また指揮者や周囲の演奏者は、親切心を発揮しながら
小さな音に聴き入り、たとえそれが狂っていても、合わせ
てしまう傾向があります。 アンサンブルに携わる人間の、
悲しき性 (さが) として。


 (3) 3拍子であること。

 指揮者が “一つ” 振る中に、音符が “3つ” ある。 2拍子より
1つ多いだけですが、心理的には、それを[余計な音符だ]…と
感じてしまいやすい。 奇数拍子はアンバランスな拍子なのです。

 したがって、[3拍目なんか、無ければいいのに…]という願望が
無意識的に働く。 オケになると、“集合的無意識” ならぬ、“集団
的無意識” でしょうか。 とにかく、一斉に同調しやすいのです。

 Viola のズレなどには気付かずに。

 


 

 さてプロのオケは、“名曲” を年がら年中演奏している。
この『英雄』もそうでしょう。

 余談ですが、この箇所に関しては、以後 Viola の全員
が気をつけるようになった。 それだけでなく、別の曲の
同じような場所でも! “長いものに巻かれず”、率直に
指摘してくれた N君のお蔭です。


 そしてこの事件以後、コントラバス パートの仲間には、
私はいっそう頭が上がらなくなりました。 「同じパートの
人間よりコントラバスの仲間たちに負う部分のほうが、
残念ながら多かった…。」 …私の微々たる成長を思い
返してみると、残念ながら確信を持って言えることなの
です。

 (本当は、私が Viola の仲間に迷惑をかけすぎた
問題児だったからですが。)


 ともかくこの一件は、以後私にとって、大変重要な意味
を持つことになりました。 今日に至るまでです。

 アンサンブル、スピカート、弦と弓の角度、奏法一般…。



 私と同年代の N君? よく一緒に麻雀、やったよね?
練習帰りに。 そう、U君もいたよな。 テンパルと、煙草
くわえながら手が震えてた…。

 今でもよく覚えているのはね、その店のラジオ中継だよ。
プロ野球のデー ゲーム。 今は監督同士だけど、中日の
星野仙一投手から、原辰徳選手がホーム ランを打った!
キミは巨人ファンだったよね。


 最近は賀状の交換も途切れてるけど、今どうしてる?

 あのときは、本当にありがとう。

 

 

     音源ページ   [音源ページ




暴走 Viola 集団

2014-08-30 00:00:00 | その他の音楽記事

08/30         暴走 Viola 集団



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 その昔、あるオーケストラで Viola を弾いていたときのこと
です。 リハーサル中でした。

 指揮者は手を休め、Violin セクションに注文を始めます。


 ホッと緊張が解け、膝の上に楽器を置いたときでした。
後ろから、突然声がかかった。

 「ねぇ、ここ、集団で走ってるんだけど、何とかしてよ。」


 (えっ、ホント!?)

 声の主は N君。 パートはコントラバス。
Viola の真後ろに陣取っています。

 (まさか!)


 でも彼は、私の目の前の楽譜を指差してそう言うの
です。 気が付くと、コントラバスがみんな、私の顔を
見ている。 それどころか、全員でうなづいています。

 ハッと思って指揮者を見ると、もう棒を持っている。
こっちを見ています。 慌てて楽器を構えました。



 私は、弾きながら考えました…。

 (変だねー…。 自分だけならまだしも、Viola 全員
が暴走してるなんて…。 でも、まさかコントラバス
結託して、そんな大嘘を言うわけはないしな…。

 日頃から私は、彼らに人一倍信頼を置いていました。


 やがて、先ほどの箇所に差し掛かります。
もうすぐ、N君が指摘した部分です。

 私は思い切って、弾くのを止めました。
仲間の音を聴くことにしたのです。


 【タ タ  タ タ タ  タ タ タ  タ タ タ】

 (本当だ! 全員で走ってる!)

 

 それは、こんな部分でした。



 音源は、[譜例]の9小節ほど前から始まります。

 

 

                   

             これが問題の箇所です。 


        音源ページ   [音源ページ




無音の新世界

2014-08-27 00:00:00 | その他の音楽記事

08/27


      演奏中の事故  (4) 無音の新世界




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                  一人で繰り返し
                  無音の新世界





 数える難しさ…。

 こんなことを口にすると、お笑いになるかもしれませんね。
ほとんどが “算数レベルの足し算” の話ですから。


 でも、貴方がオーケストラ、室内楽などで、アンサンブルを
経験しておられるようでしたら、よくお解りいただけるでしょう。
確かに “算数レベル” ですが、それが如何に難しいか…。

 私たち演奏者の目の前にあるのは、通常はパート譜です。
そこに書かれているのは、原則として “自分の楽器の音” 
だけ。 スコアと違って、全体の様子は解りません。


 音符もさることながら、やっかいなのは、むしろ休符です。
オケの管、打楽器では、休みの小節数が “二桁” なんて、
ちっとも珍しくない。 出番が来るまで、根気よく数えながら
待ち、正確なタイミングで音出さねばなりません。 

 ですからリハーサルの際、もし指揮者が止めたりすると…。
それまで数えていた努力は、水の泡。

 「せっかく 189 まで数えたのに…!」 奏者の間からは、
大きな落胆声が漏れます。



 「おう、蕎麦屋! 今、何時(なんどき) だい!?」

 落語の時そばのような笑い話は、実際に珍しくない。
“三桁” どころか、“一桁” の場合でも起こるんですよ?


 「それは、数が大きいからだろう。 一桁の勝負なら、自分
いつでも正確に数える自信があるぞ!」 もし、そうおっしゃる
のでしたら…。

 [そうは問屋が卸さない]だけ、申し上げておきましょう。
いざ演奏の場に置かれると、ほかにも様々な障害物がある
からです。 数えるだけならまだいいが、なかなか集中できる
ものではありません。


 たとえば貴方が数えるのは、“お休みの2小節” だとしましょう。
ただし、小節と、拍と、両方数える必要があります。

 [ 2 3 4、2 2 3 4、…]。 これは4拍子のとき。 6拍子になる
と、 もっと面倒です。 ちょっとの差なんですが。 次の音符が、もし
“5拍目の裏” にあったりすると、事故の確率はさらに大きくなる。
小節の拍数が多いだけでなく、本能的に数えにくい場所なのです。

 その上、先行する楽器のリズムがちょっと狂うだけで、“理性を
失う” 場合さえあります。 おまけに自分のパッセジが技術的に
難しいと、“数えミス” の危険はさらに増える。 もちろん、冷静に
数えていられないからです。

 


 

 アンサンブル仲間のセリフで “飛び出した”…といえば、
[音を出すタイミングが早すぎる]こと。 それに釣られて、
同じミスを直後に犯す者も多い。 これ、伝染します。
もちろん、冷静に数え続ける者もいますが。

 反対に “落っこちた”…は、[聞こえるはずの音が
鳴らない]こと。 こちらのほうが、影響が大きいかも
しれません。



 今でも思い出すのは、ドヴォジャークの交響曲『新世界より』
の第Ⅲ楽章です。 頭から数えて 13小節目で、木管同士の
掛け合いが始まる。 これ、3/4拍子ですが、指揮者は誰でも
[一つに振る]ほど速いテンポです。 [ 2 3 2 3、…]。

 ところが、ある日あるとき、“言いだしっぺ” のフルートと
オーボエが、揃いも揃って二人とも落ちてしまったのです!


 これに驚いたのでしょう。 すぐ応えるはずのクラリネット
まで落ちた。 結局、誰もテーマを吹かない “無音の状態”
が、しばらく続きます。

 背景では弦が鳴っているが、ppp で延ばしているだけ。
リズムを刻むはずの弦パートも仕事を止め、みんな口は
ポカンと開けたままでした

 

 

 もちろん本番中のお話です。 そのうちに、あっちこっちで
“タカタ、トト” テーマが、勝手に始まりました。 弦楽器も
自発的に加わり、“タカタ、トト”。 もう蜂の巣をつついたよう
な騒ぎで、指揮者さえコントロール不能な状態に陥りました。

 曲を知らないお客さんは、一体どう感じたでしょうね…?
「ははぁ、こういう曲なのか…。」…なーんて思ったりして。


 これを救ったのは、35小節目のティンパニです。

 出し抜けに…と思うほど、ff で鳴り響く “ドコドン”! 3小節
空けて、もう一度 “ドコドン”。 でも実は、これが正確だった。
彼だけは、冷静に数えていたのです。 さすが、“副指揮者”
呼ばれるパートですね。


 散り散りバラバラだったオケは、これで何とか一つになった。
直後の繰り返し記号で、楽章の頭に戻り、今度は全員で必死
なって数えました。

 これ、場所は大阪のさるホールで、私が初めてオーケストラと
いうものを経験した、最初の年でした。 Viola を持ってオロオロ
していましたが、あのときは本当にどうなることかと思った



 「おう、蕎麦屋! 今、何処(どこ) だい!?」 

 知るか、俺に訊くなよ。 どこどん!?…の間違いだろ。

 

 齢を取り、図々しく成長した今でも、この “ドコドン” を
耳にすると、あのときの “無音の恐怖” が甦るのです。

 大阪の新世界は、音の無い世界だった…。


 50年近く昔の、真夏のこと。

 私には、いまだに怖~いお話でした。 

 



    [音源ページ ]  [音源ページ
                  (第Ⅲ楽章)




気苦労の多い労減人

2014-08-23 00:00:00 | その他の音楽記事

08/23       気苦労の多い労減人



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 音源は、ある市民オーケストラの練習風景です。
何の曲でしょうね…。 

      音源をお聴きになるには、Dropbox のアカウント
      を作成、またはログインする必要があります。 

 

  曲は、シューマン交響曲 第4番 ニ短調 から、
第Ⅰ楽章の一部でした。

 

 何度も聞こえるのは、4小節単位の美しいメロディーです。
Violin と木管楽器の間で、何回もやり取りされていますね。

 この展開部初めて登場したものですが、上記の解説
ページには “流麗な旋律” と書かれています。

 

 [譜例]は Vn.Ⅰのパート譜です。 [音源]は、一段目の
から始まっていました。

                

 

 

 歌といえばレガート。 ここでも “スラー” 記号が幾つか見られ
ます。 さてそれは、どういうふうに書かれているでしょうか?
三箇所ありますが、微妙な違いがあります。

 では、1小節ずつ。 は〔1+1+2〕。 は1小節ずつ。

 ②は木管で、ガイドの小さな音符です。 ここだけ違いますね。


 こういう微妙な差を見ると、色々考え込んでしまいます。

 「同じ楽想なのに、なぜ違うのか?」


 まず考えられるのは、楽器の差でしょう。 根本的なアイディア
そのまま記されているのではない。 どうも弦楽器、管楽器の
奏法を考慮に入れた上で、記してあるようです。

 …というのは、[スラー記号の切れ目ごとに、弓を返す]という
のが、弦楽器奏者の慣習だからです。 ここでは、スラー本来
の、[滑らかに]、また[フレーズ全体を表わす]…という意味は、
それほどありません。


 シューマンは、[1小節ごとに弓を返すのが現実的だ]
判断したようです。 それは大正解! 弦楽器奏者十人
いれば、おそらく十人とも、この方法を選ぶでしょう。 「これ
以外に無い」…と言えるほど、自然な弓使いです。

 でもそれは、作曲者の “根本的なアイディア” を伝える
ものではありませんね。 1小節ごとに弓を返すとはいえ、
それがフレーズを “ブツ切り” するようでは困ります。


 シューマンは “妥協” したのかもしれません。 本来は、
どのようなフレーズ感で演奏してほしかったのでしょうか?

 



 それを探る前に、他の作曲家の書き方をご覧ください。

“ブツ切り” を恐れた」…と考えられる実例で、いずれも
既出のものです。

          関連記事 窒息すらぁ



 

 ブラームス、第1交響曲の冒頭です。 “タイ” 記号も含めて、
スラーは延々7~8小節間も続く。 書き込んである弓順は私
です。

 

 

 次は、ヴァーグナの『リエンツィ』序曲。 赤で書き込んだ
スラーは、Eulenburg版のスコアに印刷されたものです。

 数えると、これ8小節以上あります。 一弓で弾ける
人間は、誰もいないでしょう。


 

 

 ちなみに、もし私が弓順を付けるとすれば、基本的にダウン
アップをすべて逆にします。 フレーズ内の抑揚を考えた上
でのことです。 


 

 さて、シューマンに戻りましょう。 問題は、まだ解決ていま
せん。 今度は、木管楽器を検討する必要があるようです。


 シューマンは、初版と2つの改訂版 (1841~1853)残して
います。 しかし木管楽器のスラーの位置は、版ごとに内容
異なり、どれが 根本的なアイディア” なのか、即断できま
ませんでした。


 問題の4小節は、次のように書かれています。

(1) (1841年) 3+1

(2) (1851年) 2+2

(3) (1853年) 2+2]、[1+1+2]の混在


 通常見かける印刷譜は (2) です。 また (3) は手稿
なので、おそらく出版されていないでしょう。

 弦楽器に関しては、[1+1+1+1]で一致していました。
先ほど触れた “弓使い” の事情があるので、迷う必要
が無かったのでしょう。


 では木管楽器は? どれも一理ありますが、一体何に
悩んだのでしょう。 息継ぎ? タンギング?

 (シューマンは、楽器ごとの特性に配慮しすぎている。)

 そう感じた私は、ここで行き詰ってしまいました…。


 今日 “シューマンのオーケストレーション” が話題になる
ときは、肯定的な評価が与えられることは、まずありません。
また指揮者としてもステージに立ったシューマンは、指揮の
稚拙さを酷評されたと言われます。


 彼は、オーケストラの演奏者たちに気を遣わねばならな
かったのでしょう。 自分の作品を受け入れてもらうために。

 上記の4小節のスラーの書き方が異なるのも、そのため
ではないでしょうか? これは私の想像にすぎませんが。

 



 そうこうするうちに気付いたのは、作曲者自身が “2台ピアノ
編曲版” 残していることでした。 (そうか! ピアノ譜なら、
シューマンの純粋なアイディアが見られないかな…?)

 そこで細かく見てみたところ、結果は、1+1+2” でした!
弦も木管も。 バラつきは、一切ありません。

 

 なぜ、もっと早く気が付かなかったのだろう。 このピアノ版は 
1870年に出版されています。 編曲年代は判りません。 作曲
者は1856年に亡くなっています。

 しかし、気を遣ったり悩んだりする必要の無い “ピアノ版” です
から、これが本来のアイディアであると考えていいでしょう。

 

 

 「[1+1+1+1]でも、[1+1+でも、大して変わらないだろう。」

 そういう考えもあるでしょう。 しかし、細かい波が4回打ち寄せる
のと、最後に長い波が来るのとでは、やはり大きな違いがあります。


 そこで先ほどの[譜例]に、2小節のスラーを書き足してみました。

                           

 


 もちろん弓使いには変わりなく、[4回]弓を返します。 ただし、
3、4小節目が一つの言葉になるように弾く。

 こうすれば “ブツ切り” の印象を受けることはありません。
[< >]の記号を使い、模式的に書けば上のようになります。


 そうなると、木管も1+1+2]…と感じたほうがいいのでしょうか?
+2]のままでも捨て難い味があるので、何とも言えませんが。



 さて、先ほどの市民オケの皆さんには、一つお願いをして
みました。 この4小節間についてです。


 (1) 最初の3小節は、後半の八分音符を丁寧に。 時間的に
  は1小節の 1/4 だが、それ以上に弓を走らせるつもりで。
  木管の息の送り方も同じ。 ただし、共に重さが加わっては
  いけない。

 (2) 最後の小節の “八分音符4つ” は、うんと弾き込む。


 木管も弦も、一つになって歌い交わせるといいですね。

 先ほどの[譜例]と、新しい音源です。


                  ↑  ↑  ↑


          このリズム、[音源]の後半で登場する

         トロンボーンの動きとも関係がありそうです。

 



         音源ページ   [音源ページ




喪服の美女

2014-08-14 00:00:00 | その他の音楽記事

08/14          喪服の美女



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 「なぜコーダになってから、わざわざ手がかりを残したの
か? 私の “意図” の本質は、まだ別の所にあるからさ。」 

 “別の所”…ですって? 第Ⅰ楽章はソナタ形式だから、
提示部、展開部、再現部、コーダで終わりでしょ?


 「解らんなら、別に構わんよ。 もう帰るぞ。」

 ちょっと、もう少しだけお願いします! “謎の美女” 
現われたのは、展開部とコーダだけでしたよ。 何度も
見たけど。

 「ハハ、お前の目は節穴か!」


 それに、客だって待たせてあるんです。 ほら、ご存じ
でしょ? ラズモーフスキィさんですよ。

 「ほう、閣下は、こんなところにも顔を出すのか。」

 散々お世話になったんでしょ? 先生だって。 それ
なのに、敵方のナポレオンさんに肩入れなんかしちゃ、
駄目じゃないですか。


 「…肩入れだと? そんなことは、しておらんぞ。 この
交響曲の表紙だって…。」

 …破り捨てた…とおっしゃりたいんでしょ? ところがご覧
のとおり、ちゃんとスコア本体と一緒のまま、今でも残って
いるんですよ。 ナポレオンの名前は消してあるけどね。

 「…何だと? そんな画像が見られるのか……。」


 “ナポレオンとの訣別” は、単なるポーズだ…っていう説
さえあるんです。 駄目じゃないですか、ラズモーフスキィ
さんに言っちゃいますよ。

 「…やかましいぞ! “美女” の正体が見たけりゃ、自分
で探せ…。 …じゃ、またな…。」


 しまった、行っちゃったね。 ちょっと怒らせちゃったかな。

 



 弦楽四重奏曲『ラズモーフスキィ』第1番でも、謎のテーマが
展開部で出て来ました。 交響曲第3番と同じ、第Ⅰ楽章です。

           関連記事 謎の美女 出現

 




 よく見ると、これは第一主題のモティーフから出来ています。 


 は同じですが、は、向きが逆になっていますね。 リズム
や、現われる順序も異なるので、ちょっと聞いただけでは類似性
気付きせん。 「まったく関連の無い新しい主題が、展開部
現われた」…としか感じられないのです。


 しかし交響曲になると、仕掛けがさらに大がかりです。 コーダ
前半では、“謎の美女の歌” が “再現” していますが、そこで
半音で動く3音符が、前後を取り囲んでいました。

          関連記事 規律違反の癒し?

 



 音源は、その後、コーダの後半部から始まります。 

 

 

 [譜例]は、その11小節目からの様子です。



 “美女” に着き纏っていた “半音の3音符” は、ここでは
もはや聞かれません。 代わりに “上昇する3音符” が、
音階の形で頻出します。

 これは Violin から木管、やがて低弦へと波及しますが、
まるでオーケストラ全体が喜びの声を挙げているようです。


 同じ音源は、そのまま第Ⅱ楽章の葬送行進曲へと続きます。


 呻くような弦の pp。 そして聞こえて来るのは、オーボエ。
今回おなじみの楽器です。 この音域で “嘆き” を聞かせる
木管といえば、オーボエしかありません。


 下の[譜例]は、第Ⅰ楽章の “謎の美女” です。

 これもオーボエですが、展開部ではホ短調、コーダではヘ短調
登場していました。 共に無理の無い音域で、吹きやすい。

 …というのは、すべて受け売りで、友人の優れたオーボエ奏者、
Sさんからの裏情報です。 私が書いたら “オーボラ” になって
しまいます。



 

 ご覧のとおり、上の二つの譜例には共通点が多すぎます。
音程だけでなく、リズムにも。 謎の美女は、やがて喪服を
着ることになったのです。

 そういえば第Ⅰ楽章では、“半音の3音符” が、美女の
前後に着き纏っていました。 テーマそのものだけでなく。
これは、不吉な予兆だったのでしょうか。


 第Ⅲ楽章以後にも、美女は現われます。 しかしその印象
は “断片的” であり、おまけに長調なので、悲しみや深刻さ
などは、まるで感じられない。

 しかしどの楽章でも、関連するモティーフを最初に登場
させるのは、いつもオーボエなのです。 第Ⅲ、第Ⅳ楽章
では “喜びへの変容” さえ思わせますが、とても偶然とは
考えられない。

 すべては作曲者が設計したものですが、この楽器への
強い思い入れを感じるのです。


 次の[譜例]は、第Ⅲ楽章の冒頭です。


 そして第Ⅳ楽章。 主題に続く、第3変奏の一部です。

 

 ご覧のとおり、使われているモティーフは、ごく一部に過ぎません。



 第3交響曲の設計に組み込まれたのは、オーボエの大活躍
でした。 第Ⅰ楽章の “謎の美女” は、やがて “喪服の美女
となり、さらに変身していきます。

 驚くのは、全楽章に亘る、作曲者の緻密な設計です。


 しかしこれは、全曲の構想の一部でしかありません。

 今回頻繁に取り上げたのは、半音の3音符でした。 それは、
上下に往復する形です。


 しかし、その往復は半音に限らず、他に全音、三度、四度、
五度、六度、さらには分散和音など、多彩な形が見られます。

 音符の数も、3つとは限りません。


 Beethoven は、往復する音程関係を駆使することを主眼
にしつつ、この交響曲を作ろうとしたのではないか?

 これについては、また別の機会に触れたいと思います。

 


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