MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

11月の記事の一覧

2013-11-30 00:00:00 | インポート

11/30



       今月の記事の一覧です。




     私の室内楽仲間たち

11/01   目玉はドコサ

11/02   ク―ちゃんと食べたい

11/04   燃える楽器

11/05   培われた性格?

11/06   不一致じゃと!?

11/08   窒息すらぁ

11/09   現場に急行せよ

11/10   アメリカ広し

11/11   おずおずと

11/13   最後の審判

11/14   うろたえて

11/16   息をのむ

11/18   憐れみたまえ

11/20   真打ちは私

11/21   スコアを開くと

11/25   大いなる収穫




11/30   今月の記事 ~ 一覧





大いなる収穫

2013-11-25 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

11/25 私の音楽仲間 (538) ~ 私の室内楽仲間たち (511)



              大いなる収穫



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




                関連記事

                   真打ちは私
                  スコアを開くと
                  大いなる収穫




 この曲の弦楽伴奏版に触れるのは、私も初めて。 自宅
で音を出す前に、まず譜面に目を通してみました。 パート
譜を、原曲のスコアと対照するのです。

 原曲は、Beethoven の ピアノ協奏曲第3番。 今回は
志願して、Vn.Ⅰのパートを割り当ててもらいました。




 編曲物ですから、原曲と違うのは当然。 この曲に限った
ことではありません。 でも誤植は許せない。

 案の定、首をかしげるような箇所が幾つもありました。



 まず、明らかな音符の誤りです。

 臨時記号の欠落、五線上の位置のズレ、近隣の類似箇所と
の混同。 八分音符が十六分音符になり、3/8拍子が2/8拍子
に化ける突然変異…など。



 中には、作曲者の思い描いた “音の進行” を無視し、音の
高さを変更した “作為的な誤り” まであります。

 ハーモニーの中では音が合っていても、こうなると “変曲”。
Beethoven なら、きっと怒り出すでしょう。




 以上は音符の問題ですが、休符も “音楽のうち”。 音を出す
べきでないところでは、“音無し” くしていなければなりません。



 それにアンサンブルでは、音を出さない “小節” が特に重要
です。 出番が来るまで、ちゃんと待つ必要がありますね。

 書いてある休みの “小節数” は、幾つなのか? 正確に数え
ながら待たないと、事故や悲劇が起こります。




 ところが、譜面に記された小節数自体が、もし誤りだったら…。
そんな危険な例が、譜例の二段目にあります。

 休みの小節数を記した数字が、二つありますね。 五線の上に
小さく、4と2。 うち後者は、実は “6” でなければなりません。







 もし “2” だと、こんな演奏になるはずです。
   → [演奏例の音源

 スタートするのは、譜例の2小節目から。



 通常耳にする演奏は、こんな感じ。
   → [演奏例の音源

 休みの小節数は “6” です。




 この箇所、上記の解説ページには、次のように書かれています。

 「ファンファーレのような管楽器に導かれて変ホ長調の副主題が
現れる。」



 問題はソロ-ピアノだけの部分でした。 主な役割は転調です。
ハ短調から変ホ長調への。

 それを2小節だけで済ませるか、それとも6小節に延長するか
…。 短くて唐突に聞えるか、時間をかけて聴き手を説得するか
という問題になります。



 ちなみに楽章の後半では、やはり6小節かけて、ハ短調から
ハ長調へ移行しています。




 私はさっそく、他のパートを全部調べました。 Vn.Ⅱ、Viola、
チェロ、コントラバス。 結果は、どれも “2” だった…。

 パート譜の中では一致している。 でも肝心なのは、ソロの
楽譜ですね。



 新たなソロ譜が、この編曲版と一緒に販売された? いや、
そんな形跡などありません。 すでに流布していたソロ譜を
用いるのが通例です。 この種の編曲物では、いつの場合
も変わりません。

 そうなると、“短縮版のソロ譜” も存在していたのでしょうか?
それに合わせて、この編曲版が作られた可能性もあります。



 「ひょっとすると、作曲者のせいかな…?」 まず頭に浮か
んだのは、そんな疑問でした。

 もしかすると、作曲当時は、ピアノの転調部分が “2小節”
しか無かったのかもしれない。 それが作曲者によって、後
に変更されたのではないか…。 “6小節間” にです。



 ピアノが2小節しか無い版なら、オケ-パートの休みも当然
短くなる。 そんな “原曲版” を基に編曲されたのが、この
出版譜ではないのか?

 「こいつは、ちょっとした発見かな? いや、自分が今まで
知らなかっただけで、周知の事実かもしれない。 この部分
を作曲者が “改訂した”のなら、その文献もあるはずだ…。」




 そして、またしても “調査” が始まります。 同じピアノ
協奏曲でも、第2番の改訂は有名ですね。 第4番にも、
一部その形跡がある。

 しかし、事実は冷酷でした…。 蔵書を引っ掻きまわし、
検索を尽くしても、Beethoven がこの曲を改訂した…と
いう記述は見つからない。




 「馬鹿だな、お前は。 そんなヒマがあれば、出版年を
調べればいいじゃないか! 編曲版の。」

 賢明な貴方は、こうおっしゃることでしょうね。 …そう、
まさに、そのとおりだったんです…。



 この曲を Beethoven が作ったのは、1800年頃とされています。

 ところが、今回の編曲版の出版は、1881年でした。 作曲者は
とうに亡くなっています (1827年)



 念のために、パート譜を起こした楽譜サイトも、再度チェック
しました。 他の編曲作品も、ここには幾つか見られるのです。

 この箇所の小節数は、“2” か “6” か? そして出版年は?



 その結果、“2” に該当する編曲物は皆無でした…。 また
その出版年は、すべてが 1880~1901年に集中していました。

 本当に馬鹿な私…。




 私が出版年を先に調べなかったのは、編曲者ラハナー
1811年の生まれだったからです。

 また、ヴィーンにいた時期もあるので、てっきり “同時代人
による編曲作品” …と思い込んでしまったのです。



 あの Mozart に傾倒した、リヒテンタールのように。

        関連記事 おずおずと など



 しかし “ヴィーンにいた” とはいいながら、解説をよく読むと、
それは1831~1836年という短い期間に過ぎません。 しかも
Beethoven の死後のこと。

 この編曲版が出版されたのは、ずっと後の1881年。 これ
はラハナ―70歳の年に当り、さらに1893年まで存命だった…。

 彼に辛酸を嘗めさせたヴァーグナ (1813~1883)より長命です。




 ところで、検索中に行き当ったサイトに、次のものがありました。
お時間の許すかたには、一読の価値があります。

  いっそうの普及と収益のために」 ─編曲家としてのベートーヴェン─

 内容はともかく、ひときわ私の眼を惹いたのは、その題名です。
そう、とりわけ “収益” の二文字でした。



 作品の “普及” は、大変結構なこと。 作曲家として、望む
べくもありません。

 しかし作曲家の死後の、それも別人による編曲となると…?



 この協奏曲は、すでに大家の作品として認められ、作曲
後80年が経過しています。 普及活動など必要ない。

 ならば、目的は “収益” です。 出版社と編曲者の…。

 なーんだ、小遣い稼ぎか…。




 話を元に戻して、“2” と “6” の差です。 これは一体、何
だったのか?

 単なる誤植だったのでしょうか。 でもそれは、誰のせい?
編曲者? 写譜屋?



 この版を使って楽しんだ人だって、たくさんいただろうに…。
誰も、ピアニストと喧嘩にならなかったのかな?

 それとも、4小節ズレたまま気付かずに、ずっと演奏を
続けたのかもしれない。 ハハ…。



 …な~んて憶測は、無駄なだけ。 非生産的です。

 まったくもって人騒がせな…! 私が事前、事後に費や
した “調査” 作業は、かなりの長時間に及ぶのです。

 その結果、“収益” など上げられなかったよ…。



 さて、各パート譜を修正したことは、言うまでもありません。
収穫はそれだけ。

 「でも、いいや…。 この作業、やっぱり必要だったんだ。」
これ、決して負け惜しみではないんです。



 もし、“2” を “6” に訂正していなかったら…。 演奏
の場では、きっと混乱が生じていたでしょう。

 “オーケストラ” は、ピアノの T.さんを無視して勝手
に音を出し、変ホ長調の伴奏を始めたはずです。

 まだ転調の途中だというのにね。 T.さんのソロ譜、
もちろん “6小節分” ありましたから。




 実は、もう一つ重要な作業があった。 この編曲版に
は、小節番号も何も印刷されていないのです。

 これ、お聴きになるかたには関係ありません。 また、
“通して” 演奏する場合にも、まったく必要が無い。



 ところが、リハーサル中に一旦止まってしまうと…。

 そう、“もう一度最初から” というわけには行かないのです。
どこか、キリの良い場所から始めないと、時間の無駄になる。



 そのために必要なのが、小節番号、あるいは小節記号です。
今日ほとんどの出版譜には、これが書かれています。 出版社
同士の互換性など無い…場合がほとんどですが。

 オケでも、室内楽でも不可欠です。 貴方が演奏に関わって
おられたら、おそらく賛同していただけるでしょう。

           関連記事 演奏の現場



 こういう作業、地味かもしれません。 でもこの種のことで
は、何度も痛い目に遭っているんです。

 演奏者たちが混乱し、時間を浪費する…。 能率も悪いし、
誰も愉快なはずがありません。

        関連記事 田舎にツキ落し穴注意



 ならば、事前のデスク-ワークを誰かがやっておけば、全員
で合わせる貴重な時間を、有効に使うことが出来ます。

 たとえ私が “時間的な損” をしても、それは問題ではない。
気分良く演奏できるなら、それに越したことはありません。



 演奏の場で、余分な時間を空費するのが、何よりも嫌いな
私。 事前の作業が “必要以上” になってしまうのは、性分
なのかもしれません。




 今回のパート譜は、5種類。 それに、重要な訂正箇所と
小節番号だけを書き込み、参考譜が出来上がりました。

 各パートの方々にそれを渡しながら、私は頼みました。
「明日の演奏のときに、傍に置いて参考にしてください。」



 もし私が「375小節目から、もう一度」…とお願いしたら、
全員がそれをチラッと見るだけで、また楽譜に目を戻し、
同じ場所から一緒に始められるのです。

 もちろん行き違いも起こりません。




 そして、これ以上なかったほど嬉しいご褒美が一つ…。

 訂正譜を渡すと、誰もが自分の譜面に書き写してくれた
のです。 その場で、一人残らず…。



 私は、充分すぎるほど報われたのです。

 それに、Beethoven さんをこれ以上怒ら
せずに済んだ。 編曲者はともかくね。



 と言っても、私たちがいつでも “良心的” だった
わけではありません。 編曲者の苦労を無にした
ことも、かつてありました…。

      関連記事 報われなかった編曲




 今回は、編曲譜の抱える誤植の問題でした。

 それでは、作曲家オリジナルの出版譜なら安全か?
…というと、そうも行きません。



 むしろ危ない場合がある。 近代の作曲家でも。 その筆頭は
シベリウスです。 これについては、いずれ別の機会に…。




       [音源サイト    [音源サイト



スコアを開くと

2013-11-21 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

11/21 私の音楽仲間 (537) ~ 私の室内楽仲間たち (510)



              スコアを開くと



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




                関連記事

                   真打ちは私
                  スコアを開くと
                  大いなる収穫




 室内楽版としては、私も初めての Beethoven の
ピアノ協奏曲第3番
。 小編成とは言え、今回も
オーケストラ-スコアを持っていきました。

 そのスコア…。 最初のページには、日付が二つ、
記してあります。 友人の名前と共に。




 まず、“1967年4月5日、Y.S.”…。

 演奏会の日付ですが、ずいぶん古いですね。 この曲の
スコアも何冊目かになるので、当時のものではありません。
でも、記録の内容は間違いない。



 Y.S.君は、ソリスト。 指揮者は私です。

 これ、私がオーケストラというものを、初めて指揮させて
もらった機会です。 演奏してくれた同僚たちに、多大な
迷惑をかけながら…。



 Y.S.君は、同じ学生オーケストラに、打楽器奏者として
入団した。 でも、そのピアノの達者なことといったら…。
それに、音を出さないときのポーズが、これまたバッチリ
決まっていました。

 私と同年齢だった Y.S.君…。 すでに、この世にあり
ません。 2001年に、自ら命を絶った。 まだ50代前半
でした。




 日付のもう一つは、“1976年11月27日、T.W.”。
やはり男性のソリストで、私と同年代。

 こちらもアマチュア奏者ですが、活動ぶりや経歴
は、もはやプロ並み。



 「この曲は、ここが難しくて…。」 と言いながら、
リハーサルの合間に弾いてみせるのです。

 いつも私を、ファースト-ネームの “さん付け” で
呼んでくれました。 私のほうが、はるかに世話に
なっていたのに。



 彼とは4番の協奏曲や、Mozart の協奏曲で一緒した
こともあります。 しかし、彼も他界してしまった。

 病気療養中でしたが、「治療を受けに来るはずなのに
来ない。」 …病院からの通報で、自宅で亡くなっている
のが発見された…。 昨年、2012年の秋のことでした。




 演奏例の音源]は、曲の第Ⅱ楽章から。 譜例の2小節
前からスタートします。

 Largo、3/8拍子。 楽章はホ長調で始まりますが、ここは
ト長調へ転調し、中間部へ入る箇所です。



 譜例の2小節目で聞えるチェロは、原曲ではファゴット。

 その後を追うフルートは、ここでは Vn.Ⅰが担当しています。

                 ↓





 木管楽器同士の対話は、こうして弦楽器に置き換えられて
いる。 しかし、「これもまた素敵ではないか…。」 私自身は
そう感じます。

 楽器が変わっても、音楽自体の普遍的な響きは変わらない。
そんな作曲家の第一人者が、この Beethoven です。



 譜例の三段目、赤○は誤植。 本来は八分音符が2つです。

 ちなみにこの音源では、その赤○から、四段目の中ほどまで
カットがあります。 お赦しください。




 Y.S.君。 そして、T.W.君…。 この楽章を、君たちと
どんなふうに演奏したか、細かいことは覚えていない。

 でも今に輪をかけて、たどたどしかったと思う。 さぞ
弾きにくかったろう。 ごめんね。




     [音源サイト    [音源サイト



真打ちは私

2013-11-20 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

11/20 私の音楽仲間 (536) ~ 私の室内楽仲間たち (509)



               真打ちは私



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




                関連記事

                   真打ちは私
                  スコアを開くと
                  大いなる収穫




 今回は、最初からクイズです。 演奏例の音源]をお聴き
になり、曲名を当ててください。

 クラシック音楽ファンを自認する貴方でしたら、おそらく耳
にしたことがある曲でしょう。



 お解りになりましたか? ではそれは、最初から “何秒”
の時点だったでしょうか?

 音源の長さは、2分14秒です。 評価をする権限など、私
にはありませんが、取りあえず以下の枠を設けてみました。



           A : ~ 0:07

           B : ~ 0:25

           C : ~ 1:37

           D : ~ 2:14

           E :  不正解



 もし、貴方の家族、友人とご一緒で、競争なさる場合…。
そのときは、楽器に親しんでおられる度合いや、アマチュア
音楽家、プロの音楽家の別…なども考慮に入れてください。

 ここはアンサンブルのコーナー。 仲が良くなくてはね?




 正解を確信した貴方! おめでとうございます。



 ここでは、まず譜例をご覧いただきましょう。
Vn.Ⅰのパート譜です。

 音源は、譜例の2小節目からスタートしました。

       ↓





 “Vn.Ⅰ” や “Vla.” はいいとして、どうも純粋な室内楽
曲ではなさそうですね。

 “Ob.” はオーボエ、“Cl.” はクラリネット、“W.W.” は
木管楽器。 最後は、ピアノまで出てきます。




 曲は、Beethoven の ピアノ協奏曲第3番

 “ピアノまで”…なんて、とんでもない失礼なことを書いて
しまいました。 もちろん、ピアノと管弦楽のための曲です。



 弦楽器は、コントラバスと弦楽四重奏の編成です。

 編曲したのは、ドイツの Vinzenz Lachner (フィンツェンツ
・ラハナー)
。 Beethoven の 40年ほど後輩に当ります。



 弦楽器の人数は、“2・1・1・3・1” という不規則な編成…。
もちろん、「全員で曲を体験したい」…という主旨だからです。



 この楽譜は、ネットで入手が可能です。

 IMSLP から入り、“2.3.1.1 For 2 Violins, Viola, Cello,
Double Bass and Piano (Lachner)
” をクリックしてください。




 なお譜例は第Ⅰ楽章の、オーケストラの提示部、
その途中からです。 第二主題、第一主題の順で
現われ、ピアノが登場したところまででした。

 ピアノは T.さんです。




     [音源サイト    [音源サイト



憐れみたまえ

2013-11-18 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

11/18 私の音楽仲間 (535) ~ 私の室内楽仲間たち (508)



              憐れみたまえ



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




                関連記事

                   おずおずと
                   最後の審判
                   うろたえて
                    息をのむ
                  憐れみたまえ

                 室内楽で Viola




 Mozart のレクィエム。 編曲版に
沿って、お読みいただいてきました。

 編成は弦楽四重奏。 同時代人の
リヒテンタールが編曲したものです。



 …と言いつつ、私はこんなふうに書きましたね。

 「今回用いたのは、他の人間がコントラバスを
加えた五重奏版。」




 この弦楽四重奏版は、日本でも入手が可能です。
さる出版社が刊行している。

 ついでに言えば、誤植だらけですが。 この場で
ご覧いただいた譜例にも、幾つか致命的なミスが
ありました。

 ・ 五線上の位置がズレ、音程が三度ズレている。

 ・ 四分音符が四分休符に化けている。

 ・ 八分音符、十六分音符の “旗” の数や位置が
  変わってしまった。

 それだけではない。 臨時記号に誤りがあり、音程
が半音ズレているところまで、何箇所かあります。



 要するに、このままでは使いものにならない。 たとえ
人前で演奏しなくても…です。 おそらく、当時の写譜屋
のミスが、200年以上引き継がれてしまったのでしょう。

 「こんなもの、よく臆面も無く販売するなぁ…。」 楽譜
の出版社は、特に良心的であるべきだから。




 さて、今回の “コントラバス五重奏版”。 一体、
誰が編曲したものでしょうか?

 実はそれを確認しないまま、この記事を書き
進めてしまったのです。 臆面も無く…。



 結論を言えば、「そんな版は存在しない!」
たった今、そう考えざるを得なくなりました。

 奇妙ですね。 その理由は…?




 このリヒテンタール版には、“小節数が原曲と異なる”
曲があります。 それは、Hostias” と “Benedictus

 両曲ともに、途中の3小節がカットされてしまっている
のです。 前者ではその上、冒頭の2小節までが。

 これは、管楽器や合唱による “同一フレーズの反復”
を避けるためでしょう。 カットがあっても、音楽の流れ
は途切れず、確かに自然に流れています。



 リヒテンタールを責めているのではない。 “コントラバス
五重奏版” が存在しないことが、これで明らかになったの
です。



 勘の鋭い貴方は、もうお解りですね? 今回用いた
コントラバスのパート譜、それをよく見てみると…。

 上記の2曲では、小節数が原曲どおりでした。



 つまり…。 コントラバスの H.さんが用意したのは、
原曲のコントラバス譜だったのではないか。

 そう考えるのが自然なのです。




 そういえば、思い当ることがある。

 “Hostias” をみんなで演奏したときのこと。 曲が
始まってしばらくすると、H.さんはこう言いました。

 「すみません、勘定を間違えてしまって…。 もう
一度、最初からお願いします。」



 そんなわけで、また最初から繰り返したのです。
これ、H.さんにしては珍しいこと…。

 でも二回目には、ちゃんと合ったのでしょうか?



 それより、“Benedictus” のほうは? 一回しかやらな
かったけど、大丈夫だったの?

 なぜって、小節数の異なるパート譜を完璧に弾いても、
変な音がするだけ。 一緒に終るはずもありませんし…。




 H.さんは、この曲の提案者でもある。 四重奏用の
パート譜を入手して、事前にみんなに配りました。

 チェロも堪能な H.さん。 リヒテンタール版のままで
チェロを弾けば、それで済んだことでしょう。



 「でも、せっかくの大曲だから…。」 わざわざコントラバス
を、持参してきてくれた。 原曲のパート譜まで調達して。

 今でも、自分が勘定ミスをしたと思い込んでいるでしょう。



 気の毒な H.さん…。




 演奏例の音源]は、最終曲 Lux aeterna
から “Allegro”。 全曲の最終部分です。

 冒頭の Kyrie を、ほとんどそのままの形で、
ここにもズュ―スマイアが置きました。

 小節数も同じで、52 のまま。 勘定は合って
いるので、ご心配要りません。



 譜例は Kyrie” の冒頭部分で、二重フ―ガが展開します。



 “Kyrie eleison”、“Christe eleison”。

 主よ、憐れみたまえ。 キリストよ、憐れみたまえ。








 さて、“計算どおり” に行かなかった、H.さん。 この
曲、もう懲りた? それとも、もう一度やりたい?

 でもね、もし、やることになったとしても…。




 この記事の内容、H.さんには言わないでおくからね。
ヘへ、意地悪な私…。

 そのときには、よく観察することにします。 H.さんを。



 もちろん、“Hostias” と “Benedictus” のときにね。

 これ、それぞれ次の意味になります。



 “Hostias” … “生贄を、犠牲者を”。

 “Benedictus” … “祝福を”。



 ああ、憐れみたまえ。




 え? 「もう一度やったら、今度は勘定が合った!」…って?

 そしたら大問題です…。



 おお、憐れみたまえ…。




          [レクィエム 音源ページ