MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

いい加減な奴らめ

2014-06-18 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

06/18 私の音楽仲間 (592) ~ 私の室内楽仲間たち (565)



             いい加減な奴らめ



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 [譜例 1]は、Beethoven の弦楽四重奏曲ラズモーフスキィ
から、第Ⅱ楽章の冒頭です。

 テンポは “Molto Adagio”。 以下の “Si tratta questo pezzo
con molto di sentimento." は、「この楽章は深い感情を抱いて
演奏される (するように)」の意味です。

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 さて、注目していただきたいのは、最後の部分です。 4拍目
から、あまり見慣れない形で、リズムが書かれていますね。

 チェロの N.さんからも質問がありました。 楽章の後半では、
やはり同じ形がチェロに出てくるからです。 このリズム、普通
は “付点音符” で書かれますね。


 「リズム的には同じでいいと思います。 でも何か、作曲者の
メッセージが込められているんでしょう。 後で時間があったら
また…。」というのが、そのときの私の答でした。

 でも第Ⅱ楽章は、一度だけ通すのが精一杯。 結局この日は
時間が無く、触れず終いでした…。

                             ↓


 この形は、次のように分解することができます。

   (1) 八分音符  (2) 十六分音符  (3) 十六分音符


 (1) と (2) はタイで繋がっている。 普通は “付点八分音符”
一つで書かれます。

 そして大事なのは、スタカート “・” の位置です。 ここでは (2)
 “・” が、話題の中心になります

 これに着目すれば、この記譜の意味が解りやすいのではないで
しょうか。 以下は、作曲者の心持ちを勝手に想像したものです。


 「付点八分音符((1)+(2))と、十六分音符 (3) か…。 テンポが
Adagio だから、メリハリが無くなると困るな。 では、音符の間
に切れ目を意識させるために、スタカート “・” でも書くか。

 「だが、付点八分音符の上に “・” を書いたら、面食らう人間も
いるだろうな。 十六分音符 (3) のほうは短いからいいが…。

 「そうだ! “付点” は止めよう。 八分音符 (1) と十六分音符
(2) を書いてタイで結び、後半に “・” を書けばいい!

 


 確かに “・” 、長い音符に書かれるよりは、短い音符のほうが
自然です。 でも、まだ何となく解りにくいですね。

 そもそもスタカートとは何なのでしょうか? 通常は、「短く奏する」、
「記された音符の半分の長さで」…などと、楽典にも書かれています。


 しかし “音の長さ” だけを問題にしても、ここでは解決しないでしょう。
再三記していますが、大事なのは “音” だからです。

 “音を切る” と言っても、「響きが皆無の瞬間を作る」…のではない。
音はあっても「切れたように聞えさせる」…ためには、ここでも 砲弾
の音” をイメージする必要があるでしょう。

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 演奏例の音源]は、 (小節内の2拍目) から始まります。
しばらくすると、リズムは “休符の入った” 形に変わり、音源
は終わります。

                           ↓ 

 

 私はここでは、“ (ディミヌエンド) を意識しながら弾くようにして
います。 ” の音符では。 「音の長さを短くする」のではなくて。

 “ディミヌエンド” といっても、弓は動かし続けながら、より軽く弾くのです。


 そう考えれば、作曲者が “・” を、なぜ (2) 十六分音符上に
したのかが、解りやすいのではないでしょうか。


 最初の音符((1)+(2))は、必ず “減衰” して終わらなければ
いけない。 かといって、前半の (1) で減衰が聞えてはまずい。
そうなると、リズム自体も狂ってしまいやすいのです。


 なお Beethoven の作品では、このような記譜法がほかにも
見られます。

 下の[譜例 2]は、やはり弦楽四重奏曲で、イ短調 作品132
の一部です。 4/4拍子、テンポは “Molto Adagio”。

 四人とも同じように書かれています。

                            ↓  ↓

 単純に書けば、二分音符が2つですね。

 赤い ” や ” は、今回のために私が書き加えたもので、
原譜にはありません。 しかし基本的には、同じ意味が込めら
れていると言えるでしょう。


 既出の演奏例の音源]では、一番最後になって (2分07秒)、
この部分が聞かれます。 譜例の2小節目からで、1小節目は
カットされています。

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 それとも…。 Beethoven がこう書いたのは、演奏者の癖を
知りぬいていたから…かもしれませんね。

 「ああ書けばこう弾く。 こう書けばああ弾く…。
まったく、弦楽器奏者という奴らは…。」

 



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