04/21 私の音楽仲間 (482) ~ 私の室内楽仲間たち (455)
乙女の苦しみ
これまでの 『私の室内楽仲間たち』
関連記事 『死と乙女』
最後の曲は SCHUBERT
三連符の見え隠れ
移ろいの背後の混沌
苦悶の果ての長調
揺れ動く転調
切ない半音階
叫ぶ乙女、棒読みの骸骨
死神だけが生まれ変わる?
束の間の小春日和
死神と踊る?
絶望感の表現
死神の訓示
彼方なるタランテラ
切実になった死
乙女の苦しみ
今回はまず、[演奏例の音源]をお聞きください。
曲はSchubert の弦楽四重奏曲『死と乙女』
から第Ⅱ楽章。 メンバーは Violin 私、A.さん、Viola
K.さん、チェロ Su.さんです。
楽章の冒頭には、“Andante con moto” と指示
されていますね。 直訳では、“歩く速さで、動きを
持って”…となります。
おや? 何度かご覧いただいた、上の[譜例1]は楽章の
冒頭ですが、そのとおりには演奏してはいませんね。
4パートスコアで、三段もありますが、一段目も終わらない
うちに、別の箇所へ跳んでしまいました。 相変わらず私の、
いい加減な編集のせいです。
跳んだ先は、下の[譜例2]。 この楽章は変奏曲の形で
書かれていますが、その最後の部分です。
さて、今回の問題はテンポです。
大きな課題は2つありますが、まず、“全体の
テンポの流れ” です。
最後を、どういうテンポで終るか? pp や ppp
が何度も現われます。
普通は同じテンポか、あるいは「ゆっくり終わる」
…のが自然なようです。
「速いテンポで終る」…という方法もありますが、
“死を静かに受容する” 雰囲気としては、あまり
にも “あっけなさすぎ” ますから…。
ただし、曲全体の構成という観点から、敢えて
そうする選択肢もあるかもしれません。
そこで重要なのは、Viola の二連符ですね。 もしこれ
が速すぎると、最後が落着かない。
少なくとも、「それまでと同じテンポをキープしてほしい」
…というのが、私の勝手な希望です。 通常は、そこで
速くなってしまいやすい。 でも今回の K.さんは、とても
落ち着いて演奏してくれました。
ただし、それに先立つ、“三連符の前までのテンポ” が
遅すぎたようですね。 私たちの大きな反省点です。
途中で何度も変奏を繰り返すうちに、重くなってしまった
のです。 特に “f” の数が多い部分で…。
二つ目の課題は、冒頭の “Andante con moto”。
これは遅すぎてはいけせん。
Adagio (ゆったり) や、Lento (遅く)、Grave (重く) では
ない! “ゆっくりめ” ではありますが、音には “軽さと
動き” が必要です。
いくら深刻な内容でも、この曲におけるシューベルト
のスタイルからすると、流れが停滞しては困ります。
拍子が 2/2 で書かれているのも、大事な点でしょう。
冒頭の各小節の後半には、軽さが必要です。
技術的なことを言えば、前半の二分音符の重さが、
後半にも尾を引いてしまいやすいのです。
2つの四分音符は、“前半よりも軽い弓で”、また
“動きのある弓使い” で弾く必要があります。
“胃もたれ” どころか、お尻が重くなってしまって
は困りますね。
さて、これらの観点からすると、私たちの演奏には反省点が
多い。 “本番” ではなかったことが、せめてもの救いです。
それどころか、“この日が初見” というメンバーが居たかも!
当日の予定には無かった曲です。
それも、事前にたくさん食べ、全員がビールまで…。
これでは “胃もたれ” になってしまっても、当然ですね。
今回のメンバーの中に、“胃もたれの乙女”
が居たのかどうか…?
…それは秘密ですよ…。
さて、ここで突然40年ほど前の出来事です。 今回とは
全然関係がありません。
私は、ある室内楽の演奏会に参加していました。 10人
ほどいた奏者の一人として。
プログラムの中に、これがありました。 当夜の最後を
飾る名曲に相応しく、演奏時間も40分以上かかります。
演奏会も終わり、楽しい打ち上げの席の話です。
『死と乙女』で Vn.Ⅰを鮮やかに弾き切った女性が、
スピーチに指名されました。
「とても長い曲ですので、色々神経を遣いました。
技術的な問題以外に、一番大変だったのは…。」
場がシーンとして、全員の注目が集まります。
「…トイレに行かないように、コンディションを整えることでした!」
お酒の場の雰囲気とはいえ、かなり思い切った発言ですね。
ご本人としては真剣な内容で、半分笑いを誘いたかったらしい
のですが、周囲の反応は今一…。
逆に静まり返ってしまいました。
「本当だ! “死” と乙女だ。」
この一言で、全員が大爆笑。
その発言、誰がしたのか…って?
そんなバカなこと言うの、私ぐらいしかいませんよね…。
ただし私の出番は別の曲だったので、この
曲には参加していません。
落着きのある名演で、聴いていて、とても
切羽詰まったようには感じませんでした。
[音源サイト ①] [音源サイト ②]