MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

3月の記事の一覧

2014-03-31 00:00:00 | インポート

03/31



       今月の記事の一覧です。




     私の室内楽仲間たち

03/02   
遊びは似合わない?

03/05   繰り返しは嫌

03/10   割り勘ドンブリ

03/11   不自由な輩 (やから) め…

03/14   ドイツもこいつも…

03/16   最後の作品


03/31   今月の記事 ~ 一覧




最後の作品

2014-03-16 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

03/16 私の音楽仲間 (573) ~ 私の室内楽仲間たち (546)



               最後の作品




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




       関連記事 Beethoven の 四重奏曲 作品130

                  割り勘ドンブリ
                 不自由な輩め…
                 ドイツもこいつも…
                  最後の作品
                  酔いに任せて
              知識も無しに作れるか!
                お伴は忍者でござる
                  ふざけた曲さ
                深刻めいた遊び
                 感じる殺気
               逆立ちで走るのだ




 わかりましたよ、先生…。 じゃあ、レントラーの主題に
あるリズムは、『運命』交響曲とは無関係…ということに
しておきましょう。 取りあえずね。

 「“取りあえず” とは何事だ! お前もシントラーの作り
話に乗る輩 (やから) か!? それなら赦さんぞ。」



 [譜例 1]





 そうじゃないんですけどね…。 でも先生の昔の作品
には、このリズムが重要な作品が多いでしょ?

 「…そうかな……。 しかしこれは、“3つの音符” だけ
で、休符が無いだろう? “交響曲” の冒頭にあるのは、
八分休符が付いている形だぞ。」



 いや、それも例を挙げればキリがありませんよ。 まず、
その “交響曲” の試作ではないかと思われるのが、作品
18-5 の弦楽四重奏曲 イ長調、その第Ⅳ楽章なんです。

      関連記事 革新性のカムフラージュ?



 そして、あのピアノ協奏曲、第4番ト長調。 第Ⅰ楽章では、
このリズムが、ひっきりなしに聞こえますからね。

       関連記事 動かない Beethoven




 先生がこのリズムを頻繁に用いたので、後世の作曲家たちが
受けた影響は、とてつもなく大きかったんです。 あのブラームス
は、“休符の無い三連符” を愛用しました。 これを “ブラームス
の運命の動機” と呼ぶ人だって、いるほどですから。

 「…それは、ヨハネス君のことかい? 会ったことはないがね。」



 先生が亡くなられ、6年ほどしてから生まれましたものね。
若い頃から、先生を敬愛して止まなかったんですよ?

 「もっと長生きしていればなぁ…。 私だって、56歳で死ぬ
つもりはなかったんだがね…。」




        関連記事 最後の四重奏曲 (6)

 そうですよ、無理が祟りました。 以前も引用させてもらい
ましたが、高崎の第九には、以下の記述があります。



 「弟ヨーハンの農場のあるグナイクセンドルフに静養をかねて
出かけ、ドナウ渓谷の高台にある美しい景観を持つヨーハンの
家で11月末日までの2ヶ月間を過ごすうちに、最後の作品となる
“へ長調” 四重奏曲を仕上げ、また作品130のための『大フーガ』
に代わる新しい終楽章も完成させている。」

 「暮れのウィーンでの演奏会や新作の出版交渉も気になり始め
たベートーヴェンは、12月1日の早朝に突然ウィーンに帰宅する
ことになる。 予約が必要な駅馬車も準備できず、厳寒の冬の朝
に幌も付いてない牛乳運搬馬車でグナイクセンドルフを後にした
のである。」

 「防寒コートもなく馬車を駆り、途中で一泊しなければならな
かった宿には暖房もなく、カゼから高熱を出し、一晩中寒さに
震え翌朝再び馬車に揺られてウィーンに帰り着いた。」



  ほかにも参考記事が、西方見聞録中の弟ヨハン・ベートーヴェン
 の家:クレムス郊外グナイクセンドルフ②
にあります。





 結局、このときの無理が祟り、先生は、翌1827年3月26日に…。

 「自分の運命は左右できんからね、人間は。」




 …つまり、先生の絶筆に当るのは、一つの “楽章” なんですね?

 「完結した作品なら “へ長調” 四重奏曲になるがね。 でも順番
としては、このフィナーレが最後だよ。 まあ、気楽な音楽さ。」



 これは第Ⅵ楽章に当り、こんなふうに始まります。 演奏例
の音源]
は、あちこちを継ぎはぎし、編集したものです。



 [譜例 2]





 確かに、気分は第Ⅳ楽章の “レントラー” と似ています。

        関連記事 ドイツもこいつも…




 ところが、この音源では【36秒】の辺りから、下の
[譜例 3]のような音楽が聞えますよ!

 上の[譜例 2]の、“” の小節に由来しています。
これ、少なくとも “気楽な音楽” とは言えません。
特に演奏者にとっては。



 [譜例 3]





 “気楽とは言えない” 一例でした。 いや、それだけではない。
B、C、Dの個々を集中的に扱った箇所まであります。

 【材料を徹底的に使い尽くす】先生の姿勢は、この晩年の作
でも、根本的に変わりありません。



 「…それはそうだが、ほんの遊びのつもり
で作った…と言っておるだろう…!」




 そこが凄いんですよ! 聴き終っても、“フィナーレは
大作だったな”…という気はしない。 平易で、心和む
ようなこのテーマ、快適なリズム。 それでいて、どの
小節も展開の可能性を秘めている。 一人で練習して
いると、この楽章は意欲をかき立てられるんです。

 「そうかね。」



 特に、この最後の箇所は。 コーダに入った部分に
当りますが、行っても行っても、なかなか終わらない。
技術的にも難しいので、早く終わってほしいんですが、
終止形が現われないまま、延々と続くんですよ…。

 「逆に、練習意欲を削がれるんじゃないかね?」



 とんでもない! 練習中は、先生の最後の作品
だ…ということを、忘れていたほどですから。

 「まあ、そう言ってもらえれば嬉しいが。」




 これで5年間かかって、やっと先生の四重奏曲を、一とおり
体験させていただきました。 温かい仲間たちのお蔭です。
やりたくても、一人で出来るわけがありませんからね。

 「……そうか。 パートは ViolinⅠ で…かね?」

 いえ、一つだけ、Vn.Ⅱだった曲がありますけど。
『ラズモーフスキィ』の第2番です。



 「すると、この “変ロ長調” が、最後まで残っていた曲なのか。」

 そういうことになります。 これで私なりに “一段落” です。




 「まだ音はゴミだらけだぞ、お前の弾き方は。」

 そう思いますよ。 この後も、“イ短調 作品132”、“Serioso”
作品95 をやりました。 幸い、この場にはアップしないで済み
そうですが。 何はともあれ、【継続は力なり】…です。



 「…だが進歩というものはな、必ずしも、同じ努力
の “連続” から生まれるとは限らない。 たまには
“断絶” も必要ではないかね、従前の形との。」

 はい、私の場合は【断絶の連続】ですが…。
まだまだ変わっていきたいです。 先生の次元
とは比較になりませんが。



 「まあ、せっせと励むんだな。 もっともお前の年齢は、私
が死んだ56歳をはるかに越えておるがね。」

 はい、そうします。 今後も “遠回り” をしながらですが…。




      [音源サイト    [音源サイト




 この音楽駄洒落ブログ 『MARU にひかれて』は、
ぷららのブログ “Broach” の廃止に伴い、記事は
今回のものが最後です。

 2008年10月以来、お読みくださいまして、本当
にありがとうございました。 特に長文の乱文や、
お聞き苦しい音源だらけにもかかわらず、忍耐を
重ねていただき、心より感謝申し上げます。




 このブログを始めたきっかけは、堅苦しくなく、音楽について思う
ところを、冗談半分に書き記してみたいという気持ちからでした。

 また偶然ですが、ちょうど同時期に、親しい愛好家の仲間たち
からお誘いを受け、室内楽をご一緒する機会を与えられました。
そして、いつしか記事の中心となったのは、この『私の室内楽
仲間たち』というカテゴリーでした。



 しかし難しかったのは、【音楽を言葉で表現する】という、矛盾の
多い作業です。 といっても、〔模範演奏〕のURLを記すだけでは、
まったく意味がありません。 [演奏例の音源]と称して、至らない
自分 (たち) の演奏をアップし始めたのは、それが契機でした。

 これをアップすべきかどうかについては、最後まで悩み続けて
きました。 でも、「至らない私なりに “自分史” を残し、親しい
あの仲間、この仲間との “演奏” の一部を記録しておくのだ」…
と思えばいい…。 そんなふうに考えた次第です。



 書く内容の論旨にふさわしくなるよう、一つの音源の編集
には、数時間を要することも少なくありませんでした。

 加うるに、これは発表目的の集まりではない。 「ただ
一度しか通す余裕が無かった」…事例が少なくありません。
今回のフィナーレも、前回の “レントラー” も、そうでした。




 名称の “MARU” というのは、飼い犬の “まる” と “maru”
(私) を足したつもりで付けました。

 その “まる” チャンには、当初はたくさん記事を書いて
もらったが、最近は出番がほとんど無くなってしまった…。



 まるチャン、ごめんね。 でもキミは、いつもボクと一緒に
居るんだよ? 2002年の6月4日にお別れしてしまったけど。

 いつも力を与えてくれて、ありがとうね?




 お読みくださった貴方に、ご挨拶していたつもりだったのに…。
相変わらず脱線してしまいました。 申しわけありません。

 また何らかの形でご一緒できる機会があるよう、願っています。



 本当にありがとうございました。 重ねてお礼申し上げます。




 なお、この『MARU にひかれて』。 更新は今後ありませんが、
2014年6月30日まで、このままお読みいただくことが出来ます。



                まる と maru より




ドイツもこいつも…

2014-03-14 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

03/14 私の音楽仲間 (572) ~ 私の室内楽仲間たち (545)



             ドイツもこいつも…




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




       関連記事 Beethoven の 四重奏曲 作品130

                  割り勘ドンブリ
                 不自由な輩め…
                 ドイツもこいつも…
                  最後の作品
                  酔いに任せて
              知識も無しに作れるか!
                お伴は忍者でござる
                  ふざけた曲さ
                深刻めいた遊び
                 感じる殺気
               逆立ちで走るのだ




 「ト長調、三部形式。 “ドイツ舞曲風” と題されているが、
これはレントラーのことである。」

 Beethoven の弦楽四重奏曲 変ロ長調 作品130、第Ⅳ
楽章の解説文です。



 [譜例]は Vn.Ⅰパート譜ですが、確かに “Alla danza
tedesca (ドイツの)” と記されています。



 演奏例の音源]も、この最初から始まります。

 ただし、繰り返しをカットするなど、大幅に編集
してあります。 Beethoven さん、ごめんなさい。





          ↑

 [譜例]の最後の段から、中間部に入ります。
この部分の主役も、やはり “3つの八分音符”。

 しかしスタカートが付いており、それまでの
滑らかさとは、だいぶ趣が異なります。



 楽章の構成を小節数で見ると、以下のようになります。

    1. 滑らかな踊り    48  (繰り返しを含む)
    2. スタカートの踊り  56
    3. 滑らかな踊り    48
    4. コーダ        22



 2. 中間部は、長さにおいても対等、ないしはそれ以上。
この[音源]でも、長めに編集してみました。

 各部分は、1 【30秒】、2 【1分30秒】、3 【10秒】…です。




 “3つの八分音符” といえば、“運命の動機”。 クラシック音楽
ファンならずとも、あの交響曲は知らぬはずがない。

 その形のうち、頭に “八分休符” があるのが第Ⅰ楽章。 でも
如何に続く楽章では、“音符3つ” の形だけで現われます。



 同じ譜例です。







 その後の “音程の動き” を見てみましょう。 この譜例にある
のは “上行4度”、“下降3度”です。

 この “3度” は “3度” ですが、“3度の下降” もあります。
音源の後半では、“Mi Mi Mi Do - -” が、何回も聞こえます。



 作曲者はどんな意図で、この同じモティーフを使ったのか?
たとえ無意識に始めたとしても、途中で気付くはずです。

 そして出来あがった、この『ドイツの踊り』。




 「運命は、かくのごとく戸を叩く…だと? ワシは
そんなことは言っておらんぞ!」

 …おや、そうなんですか? Beethoven 先生。



 「すべて、シントラーの創作に過ぎんよ。 このモティーフ
だけが話題にされるのは、ワシは好かん。」

 ジャジャジャジャ~ン! …は、今日あまりにも有名です
からね。 この挿話の働きも大きいと思いますよ。 特に
日本では。 なにしろ『運命交響曲』が通称ですから…。



 「“運命” と広く呼ばれておるのか!? それならむしろ、こう
言いたいわい。 この『ドイツの踊り』ではな、ワシは運命を
手玉に取って、遊んでおるのじゃよ!」

 はい、ただ無邪気に踊っているようにしか聞こえません。




 「ワシの境地が解ればいいのだ。」

 なるほど、重々しさ、暗さ、深刻さなど、
微塵も感じられませんね。 でも…。



 「でも…、何じゃね?」

 あんまり拘ると、“戸を叩く” とおっしゃったのは、やはり本当
だと思われちゃいますよ?



 「…やかましい! シントラーより、レントラーだと言うのに!」




        [音源サイト    [音源サイト




不自由な輩め…

2014-03-11 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

03/11 私の音楽仲間 (571) ~ 私の室内楽仲間たち (544)



          不自由な輩 (やから) め…




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




       関連記事 Beethoven の 四重奏曲 作品130

                  割り勘ドンブリ
                 不自由な輩め…
                 ドイツもこいつも…
                  最後の作品
                  酔いに任せて
              知識も無しに作れるか!
                お伴は忍者でござる
                  ふざけた曲さ
                深刻めいた遊び
                 感じる殺気
               逆立ちで走るのだ




 「スケルツォ風の短い楽章。 きわめて速く、せわしない
音型の密集である。」

 これは、解説ページからの引用です。 曲は、Beethoven
の弦楽四重奏曲 変ロ長調 作品130
、その第Ⅱ楽章です。




          今回は、最後にクイズがあります。




 “Presto” としか記されていない、この楽章。 実質的には
“スケルツォとトリオ” と言っていいでしょう。

 全体は次のような構成です。 数字は小節数を表わします。



 1 (スケルツォ) 【8】×2 + 【8】×2 (繰り返し)

 2 (トリオ)    【8】×2 + 【23】×2 (繰り返し)

 3 (接続部分)  【16】

 4 (スケルツォ) 【16】 + 【16】

 5 (コーダ)    【10】




 最初の “1” では【8】×2だった16小節が、“3” では
【16】となっていますね。



 「ははあ。 スケルツォも “2回目” になると、形を
変える…と、言いたいんだろう。 またその話か…。」

 …そうなんです。 晩年の Beethoven が、ますます
自由に筆を運んでいるのに免じて、お許しください。



       関連記事 繰り返しは嫌 など




 下の[譜例 1]は、 (トリオ) の前半に当る部分です。

 速い 6/4拍子で、変ロ長調です。







 演奏例の音源]も、ここから始まります。 ただし、繰り返しは
カットしてあります。

 続く (接続部分) も省略。 いきなり (スケルツォ) に入ります。



 [譜例 2]             ↓





 さて、この部分は、“8” + + “8” + という構成に
なっています。

 もうお解りですね。 先立つ8小節が、後半では自由に修飾
されているのです。 見にくくて、申しわけありません。



 ちなみに、この[ ]内は、Violin にとって楽ではありません。

 “Presto” にしては遅めですが、私には限界でした。




 「それはいいが、色が塗ってある音符は、どういう意味だ?」

 はい。 第Ⅰ楽章で用いられたモティーフとの、関連を示した
だけです。







          関連記事 割り勘ドンブリ




 さて、お待たせしました。 そろそろクイズの時間です。



 問題は “塗り絵” についてです。 [譜例 2]では、
たっぷりご覧いただきましたね。









 ところが、最初の[譜例 1]には、“塗り絵” はありませんでした。








 「それはそうだろう。 モティーフ的に関連したものなど、ここには
見当たらないからな…。」

 …ところが、そうとも言えないようなんです。 そこで私の代わり
に、上の[譜例 1]に “塗り絵” をしていただけませんか?



 下の[譜例 2]で用いた色は、3色。 です。

 それぞれの規則性を見破り、私だったら、どんな
“塗り絵” をするか、当ててください。








 解答の[新しい譜例]は、このページ末にあります。



 まず音源サイトのリンクがありますが、それを過ぎると、
すぐご覧いただけます。




        [音源サイト    [音源サイト




 解答の[譜例]です。















 私にも確証はありません。 Beethoven に電話して、訊いて
みたいところです。

 何はともあれ、これも Violin 弾きにとっては難所と言えます。



 「何を言うか!? これでも “形式” の範疇で、
自由たらんとしているに過ぎんぞ!」



 …はい、貴方には “晩年の手慰み” かもしれませんね。

 弾き易いかどうか…は、貴方の “音楽” にとって、問題
ではありません。



割り勘ドンブリ

2014-03-10 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

03/10 私の音楽仲間 (570) ~ 私の室内楽仲間たち (543)



              割り勘ドンブリ




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




       関連記事 Beethoven の 四重奏曲 作品130

                  割り勘ドンブリ
                 不自由な輩め…
                 ドイツもこいつも…
                  最後の作品
                  酔いに任せて
              知識も無しに作れるか!
                お伴は忍者でござる
                  ふざけた曲さ
                深刻めいた遊び
                 感じる殺気
               逆立ちで走るのだ




 Beethoven の16の弦楽四重奏曲のうち、 “後期の傑作の峰” と
されるのが、最後の5曲 (Opp. 127,131,130,132,135) です。

 変ロ長調 作品130は、14番目の作品ですが、通常 “第13番”
と呼ばれています。 例によって、“出版順” では、そうなるから
です。



 譜例は第Ⅰ楽章から、最後の20小節ほど。 演奏例
音源]
は、その2小節前から始まります。


 テンポは Allegro で、4/4拍子。 Vn.Ⅰのパート譜です。








 さて、テンポが頻繁に変わっていますね。



 Allegro の流れを何度も中断するのは、3/4拍子の
“Adagio, ma non troppo” です。

 これは楽章の冒頭に置かれた、序奏の音楽です。




 そこで質問をさせてください。

 仮に、貴方が “指揮者”になったとします。 これらの
テンポの変わりめを、どう表現しますか?



 問題は、要約すると2つあります。

 (1) ゆっくりな 3/4拍子 → 速い 4/4拍子

 (2) 速い 4/4拍子 → ゆっくりな 3/4拍子




 これは管弦楽曲ではありませんから、指揮者は不要ですね。

 でも、もしオーケストラに編曲されたら…。 そうなると、責任
のすべては貴方にかかってきます。



 今回は弦楽四重奏ですから、四人だけ。

 ただ、自発的に呼吸を合わせなければならず、オーケストラ
以上に難しいとも言えます。



 四人全員が、対等な立場で合わせる。 あるいは、少なく
とも一人が、“指揮者役” を務めなければなりません。

 動作に頼るかどうは、別として。




 オーケストラの現場でよく見られるのは、次のような
光景です。 いずれも指揮者の動作です。



 (1) 速い 4/4拍子 → ゆっくりな 3/4拍子

 ・ 速い四分音符を、3/4拍子の八分音符のつもりで
  振り始め、途中から “大きな3拍子” に変える。

 ・ あるいは、その先も 3/4拍子を6つに振り続ける。







 (2) ゆっくりな 3/4拍子 → 速い 4/4拍子

 ・ 譜例の四分休符を、八分音符に分割して2回振り、
  うち一つを、次のテンポの1拍に充てる。

 ・ あるいは最初から、3/4拍子を6つに振っている。




 …こうやって文章で表現すると、解りづらいですね? 申し
わけありません。 オーケストラを体験しておられるかたは、
よくお解りのことと思いますが…。

 しかし演奏者側から見ると、このやりかたも、決して解り
やすい方法ではありません。 指揮者によっては見にくく、
演奏者は要らぬ神経を遣います。




 でも弦楽四重奏の場では、“分割の動作” は
使えません。 動作は確かに必要ですが、もっと
大事なものが無いでしょうか?

 それは “呼吸” です。 “動作” は、常に呼吸
に根ざしたものでなければなりません。



 私は “動作” と “呼吸” を 別物のように
書いてきましたが、それは正しくありません。



 演奏でも【呼吸を合わせる】といいますね。
これは文字どおり、息を合わせることです。

 四人が合わせるべき課題を、細かく書くと…。 



 ・ 吸い始め、吸い終りの、それぞれのタイミング。

 ・ 息のスピード。




 そして、今回どうしても必要なのは、【息のスピードを急激に
変化させる】ことです。

 ただし演奏の現場では、事前にこんな解説をしている余裕は
ありません。 「問答無用!」…で解ってもらう必要があります。



 リードする立場の人間は、やはり “動作” で表現する必要
があります。 くどいようですが、必ず “呼吸” を伴って。

 速いスピード、速い息は、勢いのある動作で。 遅ければ、
緩慢な動作で。




 …となると、オーケストラの指揮者も同じことになりますね。

 “分割” は、いわば “便法” で、基本的な手段ではないよう
に思います。



 ましてや、懸命に “拍の頭” だけを示そうとしても無駄です。 

 必要なのは、息のタイミングとスピード。 アンサンブルの
現場であることには、変わりありませんから。



 これは、テンポの変化と無関係な場面でも、やはり同じです。

 “拍の頭” だけでは、見ていて “せわしなく”、また “不自然”
なことが多いから。




 さて、これだけ書いてしまうと “藪蛇” です。

 「しまった…! 演奏例の音源]など、アップ
しなければよかった…。」



 で囲った音符や休符は、テンポが変わる直前の、重大
箇所です。

 この音源でも、その難しさがお解りいただけるでしょうか。
いずれにせよ、全員が恐ろしいほど神経を集中しています。







 楽譜どおりに演奏すれば、テンポが変わるのは「小節線を
越えてから」…ですね。 しかし、そこまで厳格にする必要が
あるかどうか…?

 「直前の音符から、新しいテンポになる。」 そのほうが自然
な場合もある。 Beehoven といえど、書き方に迷うところです。



 今回の “演奏例” を、後から聴いてみると…。

 【急 → 緩】、【緩 → 急】の場合には、その点では差があり、
一概に言えません。



 思い返すと…。 自分には、次のような意識がありました。

 ・ 遅いテンポの前のでは、急激なリタルダンド。

 ・ 速いテンポの前のでは、急激なアッチェレランド。



 【四分休符や八分音符が一つ】という、短い間に…です。




 “分割” も結構ですが、それは、「テンポが
“1:2” の場合にしか通用しない。」

 厳密に言えば、そうなるはずです。



 ならば、テンポの変化は “ドンブリ勘定”? これ、本来の
音楽が要求するテンポとは、かけ離れているかもしれない。

 天丼やカツ丼の “分割” はごめんです。




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